流浪到風櫃
1997年4月25日(星期五)
蛋餅
4月25日、金曜日。台北。くもり。朝食を買いに外に出ると、長袖1枚では肌寒い。通勤や通学途中の人々はみな厚着で、ウールのコートやキルティングのジャケットでさえ、あまり珍しくない。
ホテル近くの公園路で、行列に並んで蛋餅を買う(NT$20=¥95)。蛋餅というのは、卵の入ったクレープのようなもので、台灣ではポピュラーな朝食メニューだ。ホテルに戻り、大成報を読みながら食べる。行列に並ぶ価値は十分ある味。ちょっと並ぶだけでこんなものが毎日食べられて、かつ朝食を作る手間も省けるなんて、台灣が発展するはずである。世の中なんだか不公平だ。
大成報は、台灣の芸能・スポーツ新聞である。芸能・スポーツ新聞には民生報と大成報があり、前回の訪台のとき、民生報の方がよいという結論を出した。しかし、久しぶりなのでつい大成報を買ってしまった。大成報は一面から芸能記事で目立つので、惹かれてしまうのだ。民生報が NT$10(¥47)なのに対して、芸能とスポーツが別々に売られている大成報はNT$5(¥24)なのも魅力だ。今日はこれといったニュースはない。
小康が通う補習班 [注1]
ホテルのすぐそばの南陽街へ行く。ここは‘台北の代々木’とでもいうべき、補習班予備校が建ち並ぶ通りである。台灣は日本以上に受験戦争が激しく、補習班が非常に多い。しかし、同じく受験戦争が激しい香港やシンガポールではあまり見かけないのはなぜだろう。補習班以外で台灣に多いものは、バイクの修理屋と眼鏡屋である。
南陽街は、“青少年哪吒(青春神話)”[C1992-71]に登場する場所だ。“青少年哪吒”は、台北の雨に濡れ、台北の湿気に包まれる、そんな映画である。私が“青少年哪吒”を観たのは、“L'eclipse(太陽はひとりぼっち)”[C1962-22]と同じ日だった。全くの偶然だったが、“青少年哪吒”は、台灣版『太陽はひとりぼっち』だ。しかし、“L'eclipse”の少なくとも10倍はすばらしい。これをブロンズ賞どまりにした、1993年の東京のヤングシネマの審査員長(Wim Wendersだ)と審査員(張國榮もいた)のセンスを疑う。ゴールド賞は“找樂(北京好日)”[C1992-48]で、全員一致だったという噂だ。“找樂”だって悪くはないのだけれど。
“青少年哪吒”の主人公の小康(李康生)は、南陽街にある補習班に通っている浪人生である。前半、偶然小康を見かけたお父さん(苗天)が、彼を自分のタクシーに乗せ、しばらく一緒に過ごすシーンがある。このシーンの最後、お父さんは、襄陽街側の南陽街の入口で小康を降ろす。南陽街の南端に並んでいる補習班の顔ぶれは映画とだいたい同じだが、看板はほとんど新しくなっている。
小康が通っていた補習班は建如補習班というところで、南陽街の中ほどで見つかった。
冬冬のお母さんが入院している病院
晴れて気温も上がってきた。やはり近くにある台大醫院(國立台灣大學醫學院附設醫院)へ行く。ここは、“冬冬的假期(冬冬の夏休み)”[C1984-35]で冬冬(王啓光)のお母さんが入院している病院である。
映画の冒頭、冬冬たちは銅鑼へ出発する前にお母さんのお見舞いに行く。台大醫院の外観が映るのは、冬冬たちが車を降りるショットだが、ちょうどそのあたりには黄色いタクシーの長い列ができていた。台灣でもやはり大学病院は人気なのだろうか。
‘自由民主・統一中國’
バス停を探していうちに、總統府の前に出た。重慶南路を挟んだ向かいには、スローガンを書いた看板が掲げられている。1994年に初めて来たとき、ここにあったのは‘反共必勝・建國必成’というスローガンだった。当時すでに民主化が進んでおり、短期旅行者が目にする範囲では反共的な空気は感じられなかったから、このスローガンには衝撃を受けた。同時に、右翼団体の謳い文句にしか見えないスローガンを国が堂々と掲げていることが滑稽に感じられた。
ところが、これが‘自由民主・統一中國’というスローガンに変わっているのである。統一の賛否を別にすれば、とりあえずどこへ出しても恥ずかしくないスローガンだ。時代は変わる。
阿澤の住む街
バスに乗る。値段はNT$12(¥57)で、3年前から変わっていない[注3]。台灣のバスは、思いっきり手を挙げないと停まってくれないのだが、台灣モードになった体が自然に動いて、いつのまにか派手に手を挙げている自分に気づく。三度目ともなると、乗るときに、上車収票先払いか下車収票後払いかの表示を見る余裕もある。
いつのまにか客は皆降りてしまい、バスは自動車専用道路をがんがん走っていた。世貿中心へ行くつもりだったが、逆向きのバスに乗ってしまったらしい。私が悪いのではなく、バス停の表示が間違っていたのだ。時々こういうことがあるのも台灣式。結局終点の、バスの溜まり場のようなところまで行ってしまった。
どうやらここは萬華區の南のほうらしい。大通りから路地へ入ると、細い道がうねうねして小さな家や廟が並ぶ、庶民的な界隈である。克難街が近いようなので探してみることにした。克難街は、“青少年哪吒”で、阿澤(陳昭榮)の住むアパートがあるところだ。
このあたりは、○○街や○○路といった、ちゃんとした名前のついている通りは少なく、‘○○路n巷’のような住所が多い。‘○○路n巷’というのは、「○○路n番地を入った路地」という意味だ。大通りが格子状に並んでいればシステマティックなのだが、このように曲がりくねったところでは、今いる場所を確認しにくい。
結局、映画に出てくる場所はおろか、克難街そのものも見つけられなかった。諦めてバスに乗ろうと萬大路へ出ると、そのバス停が‘克難街口’。もう一度引き返してみたが、近くの萬大路から入る道はいずれも克難街ではない。空腹が最大限になり、諦めてバスで台北車站まで戻る。
小明とMallyがランチに行く店
近所の自助餐風弁当屋で青菜飯というのを買い(NT$50=¥237)、ホテルで食べる。炒青菜が入っているのかと思ったら、青菜飯というのは素食菜食のことらしい。
今度は正しいバスに乗り、世貿中心まで行く。少し引き返して震旦大樓へ。ここは、“只要爲[イ尓]你活一天(宝島トレジャー・アイランド)”[C1993-17]の、唐小姐(葉玉卿)が住むマンションである。“獨立時代(エドワード・ヤンの恋愛時代)”[C1994-11]の中で、小明(王維明)とMally(倪淑君)がランチに行く店(待っているところしか出てこない)は、ここの地下にあった誠品餐廳というレストランだと思う。しかし、このレストランは閉鎖されていた。以前は地下にあった誠品書店も、通りに面した1階と2階の一部に移動している。
T.G.I.Friday's
震旦大樓のすぐ近くには、T.G.I.Friday'sがある。“獨立時代”に出てくるT.G.I.Friday'sがどこなのか、いまだにわからない[注4]が、“麻將”に出てくるのはきっとここだ。
“麻將”の中のT.G.I.Friday'sは、主人公の少年たち、紅魚(唐從聖)、綸綸(柯宇綸)、香港(張震)、牙膏(王啓讚)の4人が、Marte(Virginie Ledoyen)の利用法をめぐって相談するレストランである。外から、2階の4人が座っていたあたりを撮る。せっかく望遠レンズも持ち歩いているのでレンズを換えると、2階でお茶を飲んでいる人がはっきり見える。ちょいと悪いことをしている気分だ。
Mallyの義兄がタクシーにひかれるところ
光復南路と仁愛路四段の交差点近くにある駐車場へ行く。ここは、“獨立時代”で、Mallyの義兄(閻鴻亞)がタクシーの後ろを走っていて、急停車したタクシーにひかれるところらしい。広く、細長く、全体の形のよくわからない、雑然とした変な駐車場である。夜のシーンであることもあって、映画に出てくるところはよくわからない[注5]。
まわりには、楊徳昌の映画製作会社・原子電影や、台灣を代表するレコード会社・滾石唱片、陳昇Bobby Chenの音楽製作会社・新樂園、金城武の所属事務所などがあるらしい。滾石唱片があるのはしがない雑居ビルで、ほかはどこにあるのかわからなかった。
小明が電話をかけている場所
“獨立時代”
“獨立時代” には、小明が赤い縁取りの電話ボックスで電話をかけているシーンがある。琪琪(陳湘琪)の携帯にかけているのだが、彼女は携帯をMallyの義兄の部屋に忘れていて、電話には誰も出ない。
この電話ボックスの後ろには、McDonald'sが見える。駐車場を出て、光復南路を北上しているとMcDonald'sがあった。そのまわりを探してみると、この電話ボックスらしきものが見つかった。こういうデザインの電話ボックスは、ほかでは見たことがない。
誠品書店
仁愛路四段と敦化南路一段が交差する、通称挽歌ロータリー近くの誠品書店敦南店へ行く。
ビルの地下3階から2階までを誠品書店が占めているが、本売り場は2階だけである。他はいろいろなお店が入っていて、デパートみたいなところだ。地下1階には、イートインのあるお菓子屋やチーズ屋、地下2階には、誠品書店の文房具売り場、絵はがき店、布袋戯の人形の店、滾石唱片のレコード店などがある。全体的にセンスのいい店が多いが、値段も高い。
文房具売場で、中国の春画絵はがきセットを見つけた。衣装や背景が中華風で、なかなか趣があるので買ってみる。8枚セットでNT$180(¥851)。また、信鴿郵卡という絵はがき屋では、中正紀念堂や檳榔の断面図などの形をしたおもしろい絵はがきを数枚買う(NT$20=¥95/枚)。前述の春画絵はがきもここのもので、要チェックのお店だ。
布袋戯の人形は鮮やかで美しく、ひとつほしかったが高くて手が出ない。滾石唱片のレコード屋は、滾石のものだけを置いているわけでもなく、1枚NT$400以上と値段も高い[注6]。2階の本売場はかなり広く、映画の本もいろいろある。荷物になるので今は買わないが、また帰る前に来て物色しなければならない。
台北捷運・木柵線
外はそろそろ暗くなってきた。台北に新しくできた新交通システム・台北捷運に乗ってみたいので、近くを走っている木柵線に乗ることにした。
いつまでたっても完成しないと言われ続けていた台北捷運だが、ようやく木柵線が去年、淡水線が今年開通した。台北捷運には、中運量捷運系統(Medium Capacity Transit)と高運量捷運系統(Mass Rapid Transit)の2種類があり、木柵線はMCT、淡水線はMRTである。“麻將”の中で、少年たちがMarteをマテラと呼び、「マテラは地下鉄の会社の名前だ」というようなことを言っていた。馬特拉マテラは実はMCTの車輌を作っているフランスの会社の名前である。MCTは全部高架で、地下鉄はない。
忠孝復興から南京東路まで一駅だけ乗る。初乗り料金はNT$20(¥95)。バスがNT$12だからかなり高く感じる。自動券売機は、香港のMTRと同じく先に料金ボタンを押す方式で、おつりもちゃんと出る。
大通りの上の高架を走るので、街の様子が見えてなかなか楽しい。香港のトラムや2階建てバスよりも高いから、あの、看板に触れるような臨場感はないが、街を俯瞰するような感じで、また違ったおもしろさがある。当分は窓の外を眺めているだけで飽きないと思う。
西門町の夜(第一夜)
西門町の北平一條龍餃子店へ餃子を食べに行く。鮮肉餃子と炒青菜を注文(NT$191=¥903)。中華文化圏では、餃子といえば蒸餃蒸餃子か水餃水餃子であり、今日食べたのは蒸餃。今日はずいぶん、しかも必要以上に歩いたのだが、スープをたっぷり含んだ餃子を口に入れると疲れも吹き飛ぶ。しかしひとりなので、啤酒を我慢しているのがなんとも辛い。
店にはそれなりに客がいるが、どうも改装して以来さびれている気がする。しかも日本のガイドブックにも載っているためか、日本人が比較的よく来る。今も近くに日本人ビジネスマンがいて、仕事の話をしているのがうっとうしい。
店を出たあと、西門町を少しぶらぶらする。この喧騒の中にいると落ち着く。やはり台北は西門町である。
- [1] タイトルからのリンク
- タイトルをクリックすると、[as films go by -台灣篇-]の関連するページを別ウィンドウで表示する。以下同様。
- [2] 映画名からのリンク
- 各タイトルの下に、関連する映画名を付す。この部分をクリックすると、同じ映画に関連する次のタイトルにジャンプする。
- [3] バスの値段
- 1997年8月20日より、NT$15に値上げされたらしい。
- [4] “獨立時代”に出てくるT.G.I.Friday's
- 1998年の訪台時に確認。→T.G.I.Friday's
- [5] “獨立時代”に出てくる駐車場
- 後日ヴィデオを観て、写真の場所が出てくるのを確認した。
- [6] 滾石唱片のレコード店
- ここを台北のおすすめCD屋のひとつに挙げている雑誌があったが、高いからやめた方がいいと思う。
■
←4月24日
■
↑流浪到風櫃
■
→4月26日
■
◆ 台灣的暇期 ◆ しゃおがん旅日記 ◆ ホームページ ◆ Copyright © 1997-2004 by Oka Mamiko. All rights reserved. 作成日:1997年7月27日(日) 更新日:2004年5月27日(木) |