爺爺不見了
2003年12月19日。金曜日。
くもり。かなり寒い。台北市中正區→萬華區→(捷運)→松山區→(バス)→南港區→(バス)→大安區→(捷運)→中正區
1 2 3 4 中山堂前の孫文の銅像[注1]。 “不見”“不散”はちょうどロードショウ公開中。 こぎれいになって久しい西門ロータリー。 中華路がきれいになっても中華餡餅粥は健在。『河』ロケ地。 5 6 7 8 涵舍商務旅店。『ミレニアム・マンボ』のシナリオに出てくるらしい。 改装されてしまった蜂大咖啡のコーヒー。 國軍松山醫院。『ダブル・ビジョン』ロケ地。たぶん。 小上海の貝干湯包。 9 10 11 12 富錦一號公園。『藍色夏恋』ロケ地。 民生東路。『藍色夏恋』ロケ地だが、場所は特定できず。 中央研究院。『ダブル・ビジョン』ロケ地。 皇城老媽では必食の蒼蝿頭。
朝起きると窓が結露している。寒波はいよいよ本格的になりそうだ。今日も朝食は丹堤でトースト。今日もおじいさんはいない。代わりに毎朝見かけるのは、赤いダッフル・コートを着た女。決まった席に座り、頻繁に店外に出てはまた戻ってくる。もちろん、毎朝見かけても全然嬉しくない。
今日は一日台北にいてあちこち歩く予定。まずは西門町へ行く。總統大戲院の看板に、“不見”と“不散”を発見[写真2]。今月の12日からロードショウ公開されているらしい[注2]。とっくに公開されていると思っていたので、14日に台北之家へ行ったとき、これらに関する本やDVDを熱心に探したが、何ひとつ見つけることはできなかった。ないはずである。記憶が頼りのロケ地探しには限界があったので、なんとか予定をやりくりして、もう一度観に行きたい。やりくりの犠牲になるのは三峡だろうか。
西門町に来たのは、17日に見た激しい変化を、じっくり確かめるのが目的である。まずは西門ロータリー[写真3]。『ジュディのラッキー・ジャケット』では、中華路を台灣鐡路が走っていた。『男たちの挽歌(英雄本色)』[C1986-53]では、その上に架かる歩道橋が出てきた【映画】。初めてここを訪れた1994年、台灣鐡路はとっくに地下に潜り、捷運の工事がいつ果てるともなく続いていた。それは『青春神話(青少年哪吒)』[C1992-71]に登場する中華路そのままで、「挽歌歩道橋」はその後『河(河流)』[C1996-41]にも登場した【映画】。今、目の前にあるのは、工事もしていない、歩道橋もない、こぎれいな中華路。そして、‘新東陽’の看板もなくなってしまった西門ロータリー。しばらくここに立ち止まり、10年間の変化を思う。
中華路には、『河』に出てきた中華餡餅粥【映画】がある。通りがこぎれいになっても、ここの屋台風の店がまえは変わらない[写真4]。近くにあったスラムは、とうに撤去されてしまったが、うねうねした路地は今も残っている。西門町へ抜けようと路地に入り込むと、一人のおばあさんに出会った。‘厠所、厠所’。この先はトイレだと言いたいのか、自分はトイレへ行くと言いたいのか、おばあさんはそう言って笑った。すぐ先には公厠があり、おばあさんはそこへ消えた。その先は行き止まりだ。戻ったり、曲がったりを繰り返すうち、結局もとの場所へ戻ってしまった。
あらためて西門町に入り、ロケ地を巡る。『青春神話』に出てくる大榮大旅社【映画】は、看板が替わった。『河』に出てくる麥當勞McDonald's【映画】は、客席が2階に移った【ロケ地】。『天幻城市』のクライマックスでは木船という餐廳が入ったビル【映画】が映るが、ここは肯徳基KFCと化している【ロケ地】。一方、『Jam』に出てくる峨嵋街立體停車場【映画】、『青春神話』に出てくる萬年商業大樓【映画】はほとんど変わっていない【ロケ地】【ロケ地】。
蜂大咖啡で咖啡[写真6]を飲んで休憩(170元=566円)。1999年に初めて訪れて以来、昔ながらのレトロな雰囲気がお気に入りの店だった。ところが改装されて明るくなり、風情がなくなっている。けれども、あいかわらず近所のおじさんやおばさんがお客の、ふつうの喫茶店だ。
捷運で松山區へ移動。國軍松山醫院(旧・空軍總醫院)[写真7]を見に行く。病院めぐりをしているわけでもないのに、すでに3軒めだ。『ダブル・ビジョン』には病院が何度も出てくるが、前述したようにSARSを連想させる映画なので、和平醫院だったらどうしようかと観ていてドキドキした。だがエンディング・クレジットにあったのは國軍松山醫院。SARS騒動のときには何度も耳にした名前だが、院内感染などはなかったと思う。映画に出てきたのは内部と急患入口。中をうろつき回るわけにもいかないので、急患入口を遠巻きに見る。どうも様子が違うようで、ここかどうか確認できなかった。
今日は明らかに昨日より寒い。少し歩くと暖かいところへ入りたくなる。小籠包で有名な店のひとつ、小上海で昼食。貝干湯包[写真8]、豆沙包、油豆腐細粉で190元(=633円)。おいしかったが、さっと食べてさっと出るべき小さな食堂なので、疲れをとって暖まるには適当でない。
昼食後は、今日のメイン、『藍色夏恋』の交差点探し。前回来たときは、孟克柔と張士豪の通学路が民生東路三段~五段であることを確認した。このときはそれだけで満足で、場所まで特定できるとは思わなかった。しかし今回は、ふたりが出会う交差点を絶対に特定しようという決意である。といっても豊富な資料があるわけではない。サウンドトラックCDのおまけについていた、監督や出演者のインタビュー[注3]のVCDだけが頼りだ。この中には本編の映像がたくさん含まれているが、どれも断片的で、前後関係もわからない。しかし交差点の直前のショットで、バス停と路面に書かれた左折レーンの矢印が映っている。該当しそうなバス停は4個程度なので、ていねいに見て歩けばきっとわかるにちがいない。
ところがそう簡単ではなかった。まず彼らが走っている向きがわからない。ここで候補のバス停の数は倍になる。民生東路三段から五段までを二往復くらいしてみるが、バス停、矢印、交差点の組み合わせは見つからない。編集によって前後に見えるバス停と交差点は、実際は離れた場所かもしれない。そう考えると候補はいくつかあるが、どれも決め手に欠けている[写真10]。J先生はある交差点でここだと断言するが、私はどうも釈然としなかった[注4]。
気温は午後になっても上がらず、とても寒い。このあたりは商店街だが、暖をとれるような大きな店はほとんどない。休息と暖まるのを兼ねて、illy cafe(意利咖啡館)[注5]に入る。ここで咖啡を飲みながら(200元=666円)、ヴィデオプリント写真を再検討し、態勢を立て直して再挑戦。しかし新たな発見は何もない。茶藝館に行きたかったが、いつのまにかその時間はなくなっていた。
バスに乗って中央研究院へ行く。日本の国立の(最近は独立行政法人だが)研究所が筑波やけいはんなにあるように、中央研究院も郊外の南港にある。ここは、『ダブル・ビジョン』で盛祖昌院士(郎雄)が働いているところ。大学のように誰でも入れる正門[写真11]を入ると、椰子の木が並ぶメイン・ストリートがあり、広い敷地に建物がぽつぽつと建っている。郎雄がいた中國文哲研究所【映画】は、かなり奥まったところにあった。日が暮れてきたのでさっさと退散する。
バスで頂好市場まで戻ってSOGOへ。入口のサーモグラフィで客の体温をチェックしている。ここに来た目的のひとつは暖房。台灣のデパートは、冬でも冷房が入っている。しかしSOGOは日系デパートだ。こんなに寒い日は、きっと暖かくしているに違いない…。ところが期待は禁物で、外よりはマシという程度だった。12階の誠品書店で、“紅樓尋星夢 西門町的故事”[B677]と“大台北通用商業地圖集”[O70]を買う(560元=1865円)。
夕食は、近くの四川料理店、皇城老媽。以前、「獨立時代駐車場」近くの店に行ったことがあるが、その支店らしい。ここへ来たら何を置いても食べねばならないのは蒼蝿頭である[写真12]。そのほか、辣子鶏丁、腐乳空心菜、酸辣湯、台灣生啤で922元(3070円)。辣子鶏丁は期待したものではなかった。この店は真夏のように冷房が効いていて、一度は酸辣湯で暖まったが、すぐに寒くなった。他の客もダウン・ジャケットなどを着こんでいる。なにゆえにこんなに冷やす必要があるのか。
隣の店は“赤坂ラーメン”。トイレは両店共通で、洗面所の両側にあるドアの片方が皇城老媽に、もう片方が赤坂ラーメンにつながっている。トイレの中にはさらに男性用トイレ、女性用トイレのドアがあった。女性用のドアを開けようとすると、中からの力でガチャンと閉まった。てっきり直前に入った人が閉めたのだと思い、ドアの前で出てくるのを待った。しかし、5分以上待っても出てこない。そのとき、赤坂ラーメン側のドアが開き、女の子が入ってきた。彼女は変な顔で私の方を見て、女性用のドアを開けてさっさと入ってしまった。驚いておそるおそるドアを開けてみると、それは中に複数の個室がある、鍵も何もないただのドアだった。風でドアが閉まっただけの誰もいないトイレの前で、私は馬鹿みたいに待っていたのだった。
捷運で台北車站へ戻る。捷運のすべての駅には、体温測定カウンターが設置された。強制ではなく、そこへ行けば測定してくれるというものだ。インフルエンザの流行時期を控えて準備されていたとはいえ、デパートといい捷運といい、今回のSARS対応はさすがに速い。
今日の歩数は30889歩。寒い外から帰ってきても、ホテルに暖房はない。1999年末に来台したとき初めて華華大飯店に泊まり、やはり寒波に襲われた。このときは温風が出たので華華大飯店は高い評価を得、これによって定宿となったといっても過言ではない。当然今回も期待していたが、期待は禁物であった(台灣ではとにかく期待は禁物なのだ)。スイッチを入れると、暖かくも冷たくもない風が出るだけだ。
今日買った“大台北通用商業地圖集”は、お店が一軒一軒載っている詳細な地図。A4版で厚さも1cmくらいあるので、とても持ち歩くことはできないが、ロケ地探しなどに重宝しそうだ。見始めたら面白くて、寝るまでかじりついてしまった。
- [1]中山堂前の孫文の銅像
- 帰国後に観た『猫をお願い』にここが登場していた。
- [2]“不見”と“不散”
- 11月初めに東京国際映画祭で観た。この日記の執筆時点では、日本での公開の噂は聞かない。ぜひ公開していただきたい。ユーロスペースさん、よろしくお願いします。
- [3]『藍色夏恋』の監督と出演者のインタビュー
- このインタビューは、日本版DVDにも収録されている。
- [4]『藍色夏恋』の交差点
- DVD発売後に確認した結果、J先生が断言した場所は間違いだとわかった。結局ここは2004年6月にやっと見つけたが【映画】、厳密にはT字路で、交差点ではない。
- [5]illy cafe
- このときは知らなかったが、実はこの店も『藍色夏恋』に映っている。
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