SARSの季節/口罩時光
2003年5月3日(星期六)
1 |
WHOのSARS感染のレイティングが変更され、台灣は中度流行地域に指定された。内外の認識も、滞在していての実感も、いよいよ深刻さを増してきた感じである。 朝食は、1階の丹堤咖啡でトーストなど(150元=539円)。開店と同時に来るはずのおじいさんは、私たちより遅れてやってきた。以前はよく、ショーケースのケーキを念入りに選び、主食として食べていたが、今日は定番のトーストである[写真1]。もうひとり、前回から常連のおばさんもやってきた。Tシャツ、ショートパンツ、サンバイザー、タオル。いかにもジョギング帰りという格好だが、そうだとすればあまり効果はないようだ。2年前と同じく小太りである。 今日のメインは『藍色夏恋』[C2002-3]のロケ地探しである。捷運で大安まで行き、國立台灣師範大學附属高級中學へ。学校は、平日は入れないが、休日には入れることが多い。これまでのそういう経験から土曜日に行くことにしたのだが、そのもくろみが当たってあっさり入れた。部活動と思われる多数の私服の生徒のほか、孫を連れて散歩するおじいさんや、グラウンドでトレーニングをするおじさんもいる。 『藍色夏恋』は、師大附中に通う17歳の男女、孟克柔(桂綸鎂)、張士豪(陳柏霖)、林月珍(梁淑慧)を中心とする青春映画だ。半分くらいは師大附中が舞台である。最も重要なシーンが演じられるのは体育館だが、クラシックな丸い校舎[写真2]や、新しい無愛想な校舎[写真3]、グラウンド、屋外プールなど、校内の様々な場所が登場する。体育館[写真4]は閉まっていて入れなかったが、孟克柔と張士豪が手紙をはがすところ【映画】、孟克柔と林月珍が体育の授業をサボっているところ【映画】、階段から張士豪を覗き見るところ【映画】、夜、壁をよじ登ってプールを覗くところ【映画】など、多くの場所を見つけることができた。 師大附中が出てくるのは『藍色夏恋』だけではない。『ヤンヤン 夏の想い出(一一)』[C2000-03]の胖子(張育邦)は師大附中の生徒だったし、『トゥー・ヤング(野麻雀)』[C1997-S]の舞台も師大附中ではなかったかと思う。 捷運で忠孝敦化へ移動する。このあたりは、統領百貨、明曜百貨、ATTなど、デパートの並ぶ繁華街である。『青春のつぶやき(美麗在唱歌)』[C1997-07]で、ふたりの美麗(劉若英、曾靜)が働く映画館のチケット売り場はこのあたりだと思う。歩き回ってみたが、映画館も、映画に出てきた聖瑪莉も見つからなかった[注1]。 諦めて、鼎泰豐の忠孝店へ早めの昼食を食べに行く。入るときに手を消毒させられる。日本語で‘食用酒精’を何と言うのか聞かれ、「消毒用アルコール」と教えてあげたが、消毒が必要な間、日本人はほとんど来ないのではないだろうか。新しくできたこの支店は、広くて明るい店である。しかし、本店の前の狭いスペースを埋める、期待に満ちた人々の群れや、番号を呼ぶおばさんの大きな声が懐かしく、あれこそが鼎泰豐だという気もする。小龍包、炒A菜、豆沙小包、台灣啤酒で540元(1939円)。鼎泰豐は小龍包が超有名な店だが、それ以上にお薦めなのが豆沙小包である[写真5]。少し歯ごたえのある皮の厚さと、控えめな甘さの餡のバランスが絶妙だ。小龍包のほうは、気のせいか本店ほど繊細な味ではないように感じた。 木柵線の終点、中山國中まで捷運に乗る。木柵線といえば『ブエノスアイレス(春光乍洩)』[C1997-04]だが【映画】、木柵線が出てくる映画はけっこう多い。『超級公民』[C1998-10]もそのひとつである。阿徳(蔡振南)の住んでいるアパートは木柵線沿いで、電車が通るのが部屋から見える。『天使の涙(堕落天使)』[C1995-50]の李嘉欣のように、電車の窓ガラスにへばりついて、民生東路の角にこの部屋を発見する【映画】。 捷運を降り、『藍色夏恋』に出てくる公園を探す。孟克柔が張士豪に、林月珍の手紙を渡す公園だ。便利なことに、各區のサイトを見ると、たいてい區内の公園のリストが載っている。この公園があると推測される松山區のサイト【公式】には、写真つきの紹介があった。いずれも中山國中站に近い長春一號公園から三號公園が有力候補と思われたので、これらを順番に回る。ところが全部はずれで、ひとつはすでになくなっていた。 東の方へ公園の探索を続ける前に、先ほどの『超級公民』のアパート、興安國宅を見に行く。阿徳の部屋は2階で、捷運に面したルーフバルコニーに入口がある。映画の中で出入りに使っていた外階段を探し、ルーフバルコニーに行く。阿徳の部屋だったところは床屋のようだが、今は使われていないようだ[写真6]【映画】。正面に見えていた建築中のビルはすっかりできあがり、萬泰商業銀行となっている【映画】。復興北路と民生東路の様子を眺めていると、木柵線の電車が通り過ぎて行った[写真7]。 『藍色夏恋』の自転車通学の道、民生東路を東へ向かう。並木が涼しげで、映画と同じ雰囲気が感じられるが、出てきた場所まではわからない[写真8][注2]。『カップルズ(麻將)』[C1996-13]に出てきた硬石餐廳(Hard Rock Cafe)【映画】がIS COFFEEに変わっているところや、『ラブ・ゴーゴー(愛情來了)』[C1997-05]に出てきた21世紀大樓【映画】を通り過ぎた。 富錦一號公園の前を通りかかる。一瞥したところ、『藍色夏恋』に出てきた公園のようではなく、素通りしそうになる。しかし、何かが私を引き止める。立ち止まったまま、寄るべきかどうか迷って凍っていると、J先生が「絶対違う」という顔で嘲笑っている。それを無視してよく観察すると、すべり台の色が変わっているが、ここが探していた公園だとわかった[写真9]【映画】。 ベンチにいる人がいなくなるのを待つ間、近くの金石堂書店の中の丹堤咖啡で休憩(100元=359円)。再び公園に戻り、ちょうど空いたベンチを撮る[写真10]【映画】。『藍色夏恋』を見たとき、すべり台やブランコのある、このような小さな公園は、台灣では珍しいと思った。二二八和平公園や大安森林公園のような大きな公園は目につくが、小さな公園を見かけた記憶はほとんどない。ところが今回調べてみて、台北市内のどの區にも、実にたくさんの小さな公園があることがわかり、ちょっと驚いている。 バスで台北車站に戻り、不気味にすいている電車で基隆へ(43元=154円)。まず、「最愛の夏陸橋【映画】」改め「ミレニアム・マンボ陸橋【映画】」へ行く[写真11]。『ミレニアム・マンボ』[C2001-10]は、この陸橋を歩く舒淇のショットで始まる。スローモーションで跳ねるように歩く、長い長いショットだ。夜の陸橋は幻想的で、実物よりも長く感じられた。冒頭でいきなり知っている場所、それも、好きな映画に出てくる場所が見られるのは嬉しい。初めて観たときの、心の中で狂喜乱舞した気分は今も憶えている。ついでに中央獅子橋【映画】に寄って、基隆港を眺める。あいかわらず美しい海港大樓の近くに、尖沙咀[注3]ができていてがっかりだ[写真12]。 基隆に来た理由は、もちろん廟口夜市である。基隆の夜市は、初めて台灣に来てからずっと、私のナンバーワンだ。士林夜市へは前回初めて行ったが、基隆の一位は動かなかった。その理由として、屋外の通りに屋台が並んでいること、食べ物が中心で名物が多いこと、人が多く賑やかなことが挙げられる。港町の開放感や、そもそもこの街が好きなことも関係しているかもしれない。廟口夜市があるから基隆が好きなのか、基隆が好きだから廟口夜市も好きなのか、今となってはよくわからない。雑然としたぱっとしない街なのに、私はこの街が大好きだ。もしかして台灣で一番好きかもしれない。夜市以外にこれといったものがあるわけでもなく、「大好きならもっとやるぞ」と言われたわけでもないのに、どうして私はこんなにもこの街が好きなのだろう。 第一弾の食事篇は、榮養三明治(50元=180円/個)、邢記の[金鼎]邊趖(50元/杯)[写真13]、八寶冬粉(50元/杯)[写真14]を二人でひとつずつ食べる。榮養三明治は、揚げパンに、ハム、胡瓜、皮蛋などをはさんで甘いマヨネーズをかけたものである。こう書くとおいしいように聞こえないが、これが実にうまく、病みつきになる。邢記は、廟口夜市の中心、奠濟宮の境内に店を構える老舗である。[金鼎]邊趖なんて読み方もわからないので敬遠していたが、もち米でできたものとわかって初挑戦した。なかなかけっこうなものである。第一弾の締めは春雨。以前は春雨なんて味ない、味ないと思っていたが、なかなか奥が深いことがわかってきた。最近は、タイ料理やヴェトナム料理でもハマっている。 第二弾はデザート篇である。まずは全家福元宵・甜酒醸の酒醸湯圓(65元=233円/杯)[写真15]。第一弾を控えめにしておいたのは、これを1杯ずつ食べるためである。熱的らーだが基本だが、カキ氷をかけて冷やした冰的びんだもある。冰的がおいしそうだと思って眺めている間に、J先生が熱的を注文してしまった。諦めて黙っていたが、J先生はほかの人のを見て、「冷たいのもあるみたいだね」などと呑気なことを言っている。いつもこうだ…。最後は愛玉冰で締める(25元=90円/杯)。おいしいが、ストローで吸う食べ方になじめない。 夜市は十分賑わっている[写真16]が、やはりいつもに比べて人が少ない。週末の廟口夜市といえば、歩くのも困難なほどで、人気の榮養三明治などは、銀行のような番号札を取ったうえでの長い順番待ちである。今日は榮養三明治もすぐに買えて、通常の八割といったところだろうか。夜市でさえマスク姿を見かけるのは、かなり危機感が増してきているということかもしれない。 屋台の看板には、前回はなかった日本語訳がついていた。思ったよりもまともだったが、泡泡冰が「アワアワ氷」になっていたのは笑えた[写真17]。 李鵠餅店で鳳梨酥を買い(100元=359円/10個)、電車で帰る。退屈なのでマスクに意識が集中してしまい、神経性呼吸困難に陥って、マスクをはずした。今日の歩数は26689歩。かなり歩いたつもりなのに、3万歩いってないのが悔しい。 今夜は、週刊誌記者が患者の家族を装って和平醫院に潜入し、逮捕されたというニュースや、自宅隔離中の建國中學の生徒が補習班に通っていたというニュースが報道されている。困ったものだと思いつつなんとなく憎めない人たちだが、こういった悪質な違反者は、軍管轄の隔離施設に送られるらしい。そんな快ッ体なもんに這入ったら、何されるやらわからしまへんしな。こわい、こわい。 | |
2 | ||
3 | ||
4 | ||
5 | ||
6 | ||
7 | ||
8 | ||
9 | ||
10 | ||
11 | ||
12 | ||
13 | ||
14 | ||
15 | ||
16 | ||
17 |
- [1]『青春のつぶやき』のロケ地
- 帰国後に写真をよく見たら、もとは聖瑪莉だったと思われる店を見つけ、12月に確認【映画】。ロケ地はやはりこのあたりだったようだが、チケット売り場はロケセットかもしれない。
- [2]民生東路の『藍色夏恋』ロケ地
- 孟克柔と張士豪が信号待ちをする場所は、この後12月にも探して特定できなかったが、2004年6月にやっとわかった【映画】。
- [3]尖沙咀
- 近くへ行っていないのでよくわからないが、おそらくフェリー・ターミナルが建て直されてド派手になったんだと思う。
■
←5月2日
■
↑SARSの季節/口罩時光
■
→5月4日
■
◆ 台灣的假期 ◆ しゃおがん旅日記 ◆ ホームページ ◆ Copyright © 2003-2004 by Oka Mamiko. All rights reserved. 作成日:2003年7月6日(日) 更新日:2004年7月17日(土) |