ドゥ・マゴで逢いましょう2004 2004年10月26日(火)10月26日、火曜日。雨。有給休暇。今日は一日中六本木の予定だ。
映画祭3本目は、アジアの風部門の『青春愛人事件』。初めて観る顥然監督の映画である。 一人の青年を中心に、まわりの人々との関わり、彼らの遭遇する恋愛や事件を描いたもの。一見ポップだが、そんなに洗練されているわけでもない。“青春”“愛人”“事件”の三つのパートに分かれていたり、なぜかギャングが出てきたり、ちょいと『ラブ・ゴーゴー』や『Jam』を連想させ、ある意味台湾映画っぽい。 主演は劉燁。『藍宇』でのピュアな魅力が評価されたためか、あるいは『山の郵便配達』の影響か(未見だからわからない)、このところの彼は、いい人すぎて馬鹿に見えるような、純朴な青年の役が多かった。この映画では都会に暮らすふつうの青年で、特別純真でもなく、でも根はやっぱりいい人という、等身大っぽい役柄を好演している。相手役の石周靚小姐はスーパーモデルということで、足が昨日の陳美齡(スクリーンの中のほう)の半分くらいの太さしかない。最初は小憎たらしいコギャルなのが、だんだんかわいくなっていく役を、こちらも好演している。 舞台は北京。朽ちかけた古い洋館、王府井天主教会(東堂)、だだっ広い通り、鉄筋コンクリートの現代建築。古いものと新しいものが混在する今の北京が、ありのままっぽく描かれている。 上映後は、顥然監督をゲストに、ティーチ・インが行われた。軽めの映画からは想像もできない、ソヴァージュ・ヘアで巨体の監督だった。 ◇◇◇ 昼食は、六本木ヒルズ内でとんかつを食べる。まあまあだが、また行こうというほどではない。六本木ヒルズは、駅から直結で行けるし内部もつながっているが、映画館へは雨に濡れずには行けない。本当にしょうもないところである。
映画祭4本目は、コンペティション部門の『ライス・ラプソディー』。シンガポールの畢國智監督の映画である。今回の映画祭では、数が多すぎて中華圏を網羅できなかったが、南洋華人ものであれば観ないわけにいかない。原題が“海南雞飯”であれば、ますます観ないわけにはいかない。 二人の息子がゲイであることに悩み、三人目もゲイではないかとやきもきする母親が主人公の映画。途中までは軽妙に展開するが、最後のほうは感動ものになってしまって残念だ。息子がゲイであるという事実を受け容れること、すなわち多様な価値観を受け容れることの喩えとして海南鴨飯が出てくるのも、ちょっとわかりやすすぎる。インディペンデント映画だと思って観ると拍子抜けするほどふつうの映画で、香港のUFO映画みたいな感じである。 海南雞飯は私の好物だが、映画では意外なほど見栄えがしなかった。ご飯がボール状になっているマラッカの海南雞飯だったらもうちょっとよかったかもしれない。最後の料理コンテストでは、(もちろん海南鴨飯を除いて)有名なシンガポール料理ばかりが出てきたが、なぜか肉骨茶がなかった。そもそも“海南雞飯”じゃなくて“肉骨茶”だったら、見た目もおいしそうでよかったのに。対抗馬を考えるのが大変かもしれないが(魚骨茶とか?)。 使われている中国語が北京語のみであることに、非常に違和感を感じた。モノローグや親しい人との会話なので、当然、広東語や福建語であるはずだ。監督は言語的リアリティは求めなかったと言っていたが、そういう根幹の部分のリアリティが確保されていないと、すべてにおいてリアリティがなくなるのではないかと思う。 上映後は、畢國智監督、主演の張艾嘉、甄文達(Martin Yan)、音楽の川崎真弘、プロデューサーのRosa Liをゲストに、ティーチ・インが行われた。司会の青柳という人は作品選考に関わった人らしく、そういう人が司会をやること自体はいいと思うが、正直言ってかなり感じが悪かった。余計なおしゃべりが多いし、喋り方が慇懃無礼な感じがする。英語通訳も問題が多かった。 写真に関しては、これまでは何も言われなかったのに、今回、「一般のお客様の写真撮影は禁じられております」と言われた。このような責任の所在を曖昧にした言い方は最低だ。映画祭が禁止しているのだから、「禁止です」「禁止しています」「禁止させていただいています」等と言うべきである。禁止の理由も当然言うべきだ。
映画祭5本目は、アジアの風部門の『美しい洗濯機』。マレーシアの華人監督James Leeによる、これも南洋華人もの。観ないわけにはいかない。 調子の悪い電気洗濯機から「洗濯機の精」が現れるというお話で、発想は非常にユニークである。「美しい洗濯機」と言いながら、洗濯機の精のおねえさんの美しさが今ひとつなのが悔やまれるところだ。 前半と後半では別の家が舞台だが、広東系やもめの家に住みついて、微妙な家族の関係が危うくなっていく後半のほうがおもしろかった。フィックスのキャメラでけっこう私好みの作風だが、ヴィデオなので空気感が感じられないのが残念だ。それでも、夜の庭の暗い感じなどは、妙に印象に残っている。街のシーンが少ないせいか、あまりマレーシアという感じはしないが、全体的に冷たいトーンでありながら、その冷たさの間からにじみ出る暑さと湿気みたいなものは、それなりに感じられた。この映画に現れる最大のマレーシアらしさは、スーパーで1.5リットルくらいのSARSIを買うところ。私はマレーシアが大好きだが、SARSIを飲むたびに、私はやはりマレーシア人にはなれないのではないかと悲しくなる(ちなみに私は台湾も大好きだが、沙士を飲むたびに、私はやはり台湾人にはなれないのではないかと悲しくなる)。 マレーシアの都市を少し歩くだけで、マレー人にも華人にもインド人にも出会える。けれども、マレー系の映画やドラマを観ると、世の中にはまるでマレー人しかいないようだ。この映画も同様に、世の中には華人しかいないようだった。日常生活の実感としてそういうものなのだろうか。 上映後は、James Lee監督をゲストに、ティーチ・インが行われた。今回のプログラムでこの映画や『四人夜話』(未見)を知り、マレーシアに華人の監督が4人もいることに驚いたが、10人弱くらいはいるという話だった。ぜひもっと紹介してもらいたいものである。 ◇◇◇ 遅くなったので、Soup Stock TOKYOで軽くスープを食べて帰る。
|