第17回東京国際映画祭

『美しい洗濯機』ティーチ・イン

開催日 2004年10月26日(火)
会場 VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ6
ゲスト James Lee(監督)
司会・英語-日本語通訳 松下由美


James Lee(英語):まず、みなさんが時間を割いて私の映画を観てくださったこと、ここに来てくださったことを感謝いたします。

司会(日本語):朝着いてずっと寝ていたということなので、まだ日本の感想は聞けない状態だと思います。

司会:洗濯機であれコンピュータであれ、本当に機械と過ごす時間が多い、コミュニケーションが欠如した人間関係というような、ちょっと殺伐としたものに興味をもちました。日本にも近いというか、ある意味普遍的なものを感じたんですけれども、そのあたりのKuala Lumpurの様子を伺いたいと思います。

James Lee:Kuala Lumpurが首都であるMalaysiaは、まだ途上国といえると思います。でも、こういった人間同士や機械との問題は普遍的だと思います。ただ、映画の中ではそれが誇張されています。Malaysiaも徐々にたとえばSingaporeのようになってきている、Singaporeはもう日本や香港と同様だと思うんですが、そのようになってきています。やはりテクノロジーとか国が進化すると、それに合わせてちょっとおかしなことが起きてくる。それを描いてみたかったんです。

観客1(日本語):日本へようこそ。斬新で、摩訶不思議で、クールな作品をどうもありがとうございます。ふつうに「ははは」と笑える映画でもなければ、スカッとする作品でもないと思いまして、こういったちょっと不思議な、斬新な発想はどのようにして生まれたのかということに非常に興味があります。何かきっかけなりインスピレーションなりそういったものが、この作品が生まれるにあたってあったと思うんですけれども、それは何ですか、という質問です。まさかトマト・ケチャップがきっかけというわけではないですよね。

James Lee:ケチャップのコマーシャルからではないです。ただ私は、生計を立てるためにコマーシャルの監督もしているので、そういうこともちょっと関係があります。実際のきっかけは洗濯機ですね。実は2年くらい前、仕事がなくて、妻が働きに行っている間、家事を担当していたんです。そのときに初めて、レンジなど、家庭内にあるいろいろな電気製品の使い方を学びました。その中で一番興味を惹かれたもの、難しかったものが洗濯機です。洗濯機というのはインタラクティヴな、相互に通うもののある電化製品だと思い、そこから洗濯機について何か書くという着想が生まれました。書き始めたあと、シネマニラという、マニラにある映画の脚本のワークショップに参加して、さらに着想が膨らみました。
◆洗濯機は、コンピュータなどに比べて、ある意味人に近い機器だと思います。私たちは汚れた服を着続けるわけにはいかないので、服をきれいにしてくれるという非常に役立つ機能を持っている機械ですよね。

観客2(日本語):最近Malaysiaではよくデジタルで作られているんですけれども、英語が多いんですが、今回は広東語だったと思います1。これはMalaysiaで上映されるときに、英語のサブタイトルはつかないんですか。

James Lee:Malaysiaでは、マレー系の人も英語がわかるので、英語の字幕がつきました。
◆まだMalaysiaで公開はされていません。審査の通過を待っているところです。

観客2: 中国系の方に向けて作られたということでしょうか。

James Lee:特に誰というのではなく、観たい人は誰でも観てもらいたいと思いました。私自身も世界中のいろいろな映画を観るので、特に中国語のわかる人ということではないですね。

司会:さきほどちょっとお話を伺っていたら、中国人の映像作家というのはMalaysiaではマイノリティで…。

James Lee:Malaysiaで映画を作っている中国系の映像作家は、本当に数えるほど、両手で足りる10人いるかいないかだと思います。映像に関わっているという意味では、テレヴィやコマーシャルの世界で活躍している中国系の人はいます。映画ではマレー系の人が多いです。

観客3(日本語):感想を最初よろしいでしょうか。ほかの方もこう思ったかもしれないんですが、私はこの映画がすごく気に入りました。というのは、台湾の蔡明亮、たしか彼もMalaysia出身だと思うんですが、映画の感じ、間合いとかがすごく似ていると思いました。質問なんですけれども、Malaysiaは行ったことがないのでわからないんですが、映画はすごく静かで、たとえばスーパーマーケットは全然お客さんがいなくて、従業員もかたまったようになっていたりとか、人ごみのシーンも全然なくて、みんなそれぞれオフィスで仕事をしていたり、外のシーンでもほかの人がいない。まさかKuala Lumpurの街がそうだとは思わないんですけれども、やはり意図的にそうされたのでしょうか。

James Lee:これは私の3本目の長編で、その前に短編も作っていますが、作品は全部トーンが違います。この作品はこういうトーンになっています。蔡明亮監督とは3年前にSingaporeで会ったことがあります。映画についていろいろ話したんですが、話しているとお互いに共通するところもあって、やはり彼の影響はあると思います。ただ自分としては、次はまた違う方向を探っていきたいという思いもあります。
◆Kuala Lumpurですが、こんなに人がいなかったのは偶然です。一方、たしかにこういうトーンで撮ろうと統一したということもあります。スーパーマーケットに関しては、これはハイパーマーケットと呼ばれる超大型スーパーで、日中にロケハンに行ったときは人だらけだったんです。しかし撮影許可は営業が終わったあとの夜しか出ないということで、エキストラを集めて本当にスーパーが営業しているように見せるには、よほどでないとそうは見えない。キャメラマンと相談して、どうせ嘘っぽく見えるんだったら、無人の状態で撮ることにしました。それで空っぽのKuala Lumpurを撮ろうということで統一して、道でも通行止めにして人がいない状態で撮りました。それによって舞台のような効果が出たと思います。

司会:もともと舞台の経験が多い監督ですので。

観客4(日本語):この映画の男性が常に煙草を吸っているのが、観ていて気になりました。僕も煙草を吸うんですけれど、人と話すのが嫌なときに煙草を吸って間をもたせるというのがあると思います。この映画でこれだけ使われているということは、何かそういった意味、静かなトーンを保つための意味とかそういうものがあるのかを聞きたいと思いました。

James Lee:私の前作には、もっと煙草を吸うシーンがありました。実は私自身は煙草は吸わないんです。煙草を吸う人たちは、この映画を観て「みんなよく煙草を吸っているなぁ」って言うんですね。そういうあなたも実は一日に一箱くらい吸っているのに気づいていないだけ。本当にみんなトイレに行っても食後でもいつでも吸っています。それなのに結構無頓着だというのを逆手にとって、しょっちゅう吸わせているんですね。
◆私自身が煙草を吸わないということもあって、撮影中にいわゆる煙草休憩というのがないんです。そのかわり役者たちは撮影中、いつでも吸いたいときに吸えるという環境でした。
◆今、Malaysiaで上映できるかの審査待ちなんですが、Malaysiaでは禁煙キャンペーンを行っているので、かなり煙草を吸っているという点で難しいかもしれないと思っています。

観客5(日本語):監督の作品を観させていただいたのは初めてだったんですけど、カメラがずっと固定されていて、引いたり近づいたりするのがたしか2回くらいしかなかったと思います。それはふだん好まれてお使いになられているのか、それとも機械の単調さみたいなものを出すためだったのか、そういうところを聞きたいと思います。

James Lee:私の印象では、日本映画は固定カメラが多いと思うんですよね。
◆今回は実験としてこういうふうに撮ってみました。これまでに撮ったほかの作品とは、ペースもリズムも全く違います。次はまた全然違うものになるかもしれません。ただおっしゃったとおり、今回は無機質なトーンを作り出したかったという理由があります。

1]質問が通訳された際に監督が北京語だと言っていたが、前半はほとんど北京語、後半はほとんど広東語だったと思う。

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作成日:2004年11月15日(月)
更新日:2004年11月30日(火)