西門町で逢いましょう

1996年1月2日(星期二)


T.G.I.Friday's

“獨立時代”

T.G.I.Friday's

1月2日、火曜日。台北。晴れ。西門町暮らしの思わぬ落とし穴を発見。夜遅くまで賑やかな西門町は、朝が遅いのだ。開いている食堂も少なく、屋台もほとんどいない。朝食を食べるのにさえ苦労する。

朝食後、バスで天母へ行く。天母というのは、台北市の北部の郊外、士林區にある、外国人の多い住宅地である。最近、「おしゃれなエリア」と言われているところであり、関係ないが侯孝賢も住んでいるらしい。

T.G.I.Friday'sで昼食を食べる。 T.G.I.Friday'sは、台北市内に何軒かあるチェーンのアメリカン・レストランである。どの店かはわからないが、“獨立時代”に2回登場する[注1]。琪琪(陳湘琪)とMally(倪淑君)が食事をするシーンと、琪琪と小鳳(李芹)がお茶を飲むシーンだ。ラストシーンには、「いつかフライデーズでコーヒーでも…」という台詞がある。

“獨立時代”は、芸術家、企業経営者、官僚といった、先端的あるいはエリート的な職業に就いている若者たちの物語だ。ここで描かれている台北は、発展し続ける現代都市としての台北である。T.G.I.Friday'sも、彼らの世代や階層の文化を象徴する場所のひとつとして登場していると思われる。

天母店に来たのは、ここだけ住所がわかったからだ。店内のインテリアはどの店も同じなので、テーブルクロスや電灯など、映画と同じ雰囲気を味わうことができるが、映画に出てくる店とは少し造りが違う。料理はハンバーガー主体で、ハンバーガーNT$190(¥752)、フライドポテトNT$40(¥158)、コーヒーNT$90(¥356)だった。私の台灣での食事としてはかなり高価だ。味は悪くないが、せっかく台灣に来てアメリカンは食べたくない。


杜可風写真展

誠品書店天母中山店へ行く。誠品書店というのは、洋書もある大きな書店で、台北を中心に何軒か支店がある。香港と台灣を比較したとき、台灣の方が進んでいると思うもののひとつが書店である。本が好きな人間にとって、「ここへ行けば何かおもしろい本がある」と思える書店の存在は貴重だ。東京では、ABC(青山ブックセンター)やPBC(パルコブックセンター)であり、台北では、この誠品書店である。誠品書店は、雰囲気的には日本の書店よりずっと綺麗で、台北の先端的な面を最もよく象徴している場所ではないかと私は思っている。

文房具売り場のようなところで、杜可風Christopher Doyleの写真展をやっていた。売場の壁に、十数枚程度飾られているだけの簡単なものだ。写真は、彼が撮影を担当した映画の監督や俳優のポートレイトである。その売り場でNT$500以上買い物をして、4枚の写真が収録されたB5大のパンフレットをもらった。王家衛、梁朝偉、張國榮、王菲の写真である。本物の写真も買えなくはない値段で売っていたが、旅行に行くとケチになるし、持って帰るのも大変なので買わなかった。

本売り場では、“尋找電影中的台北 1950~1990”[B182]という本を見つけた(NT$200=¥792)。1995年の台北金馬影展で、台北が描かれた映画12本が上映され、それに併せて作られた「台北はどう描かれてきたか」を論じた論文集らしい。12本の映画には、“戀戀風塵(恋恋風塵)”[C1987-71]、“青少年哪吒”、“只要爲你活一天(宝島トレジャー・アイランド)”[C1993-17]が含まれている。


美美と阿榮が出会うカフェ

“愛情萬歳”

中興百貨カフェ

バスに乗って、復興北路と長安東路二段の角(松山區)にあるデパート、中興百貨へ行く。ここの地下には、“愛情萬歳”の冒頭で、阿榮(陳昭榮)と美美が出会うカフェがある。

まわりにいろいろなお店が並び、好きな店で注文して食べるようになっていて、カフェというより、大規模なイートイン・コーナーとか、小綺麗なホーカーズ・センターとかいった方がいいかもしれない。お店はGODIVAから日本料理屋までさまざまだ。コーヒー専門店でマンデリン(NT$60=¥238)を飲みながら店内を観察する。映画の中とは椅子などが異なっており、出てきた場所は特定できない。少し改装されたのではないかと思う。


蔡明亮と厠所について考える

“愛情萬歳”

中興百貨トイレ

映画では、美美が途中でトイレへ行く。それもここのトイレかと思い、行ってみる。記憶だけが頼りなので定かではないが、どうもぜんぜん違うような気がする。せっかくだから写真を撮っておこうと思うのだが、人が頻繁に出入りするのでなかなか撮れない。何度もトイレに入ったりいろいろ苦労して人のいないすきを狙って撮る。ほとんど変態である。

蔡明亮の映画にはトイレが頻繁に出てくる。個室の中のシーンもあるし、トイレの洗面所などのシーンも多い。このことは、蔡明亮が、人間がひとりでいるところを好んで描くことと無関係ではないだろう。実際、トイレの中というのは、人がひとりになれる場所の代表的なものである。一方でトイレはまた、出会いの場でもある。例えば一日中会社にいて、トイレにいるときだけがひとりになれる時間だという日もあるし、トイレで知人に会ったのがその日の唯一の会話だったという日もある。個人生活において、トイレというのはかなり特殊かつ重要な場所である。


阿榮が電話をかけている場所

“愛情萬歳”

電話ボックス

外に出て、同じく“愛情萬歳”に出てくる青い縁の、ふたつ並んだ電話ボックスを探す。上述のカフェのシーンの後、阿榮が美美の後をつけるように歩いていて、途中で入って電話をかける電話ボックスだ。これは、復興北路の中興百貨の前にあった。

復興北路には、現在建設中の新交通システム、台北捷運の高架が通っている。いつまでたっても開通しないと言われている台北捷運だが、この高架上を電車が走っているのが見えた。そこで、中興百貨から1ブロックほど北へ行ったところにある、南京東路站へ行ってみた。駅はすっかり完成していて、路線図や駅付近の案内、電車の乗り方などを載せた綺麗な案内版もあったが、入口は閉まっていた。



[1] “獨立時代”に出てくるT.G.I.Friday's
1998年に松山區であることを確認。

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作成日:1997年7月12日(土)
更新日:2004年5月29日(土)