映画祭5本目は、コンペティション部門の『春の日は過ぎゆく』。『八月のクリスマス』の許秦豪の第2作である。ここ数年は韓国映画がちょっとしたブームで、いろいろな作品が公開されるようになったが、どれもが高品質(あるいは好みに合う)というわけではない(そこが台湾映画とは違うところだ)。そんな中で、最も期待できるのがこの許秦豪監督だ。
映画は、サンウという青年の成長を描いたもので、年上の女性ウンスとの恋愛と、父と祖母との家族生活とが平行して語られる。ボケてしまっているおばあちゃんは時々いなくなり、探しに行くのはサンウの担当なのだが、おばあちゃんはたいてい駅の待合室にいる。しばらくつきあい、なだめて連れて帰る、というシーンが何度か繰り返されるように(この一連のシーンが非常によい)、家庭生活には変化がなく、一方でサンウとの恋愛の局面はどんどん変化していく。また、若い頃のおじいさんしか覚えていないおばあちゃんを映しつつ、おじいさんの浮気のことが語られ、これがサンウの恋愛の結末を暗示している。このように、ウンスとの物語と家族との物語は、互いに対比され、関連をもちつつ描かれる。
ウンスとサンウの恋愛については、『八月のクリスマス』のような、だれもが共感するようには描かれていない。人それぞれ、どちらに感情移入するかや共感できる部分が異なるようだが、私はウンスはともかく、サンウには全く共感できなかった。しかし最後に、すべてを乗り越えて成長した彼を見たときに、それまでの嫌な部分は全部忘れて彼を祝福できる。そして映画は「麦秋」のシーンで幸福感につつまれて終わるが、『麦秋』では聴くことのできない麦の穂の音が感動的である。
メイン会場ではない渋谷ジョイシネマでの上映は、司会が山根ミッシェルさんで余計な前置きもなく、進行的にはたいへんよかった。しかしゲストは許秦豪監督のみで、オーチャードホールには来たらしい主演の二人が来なかったのは残念だ。許秦豪監督のティーチインでは、好きな監督として小津安二郎を挙げたのは十分予想できたが、作品が『東京物語』なのはちょっとがっかりした。とはいえ、韓国では少し前まで日本映画が公式には観られなかったわけだし、この映画のあとで『麦秋』とも言えないだろうから仕方がない。
ティーチイン要旨
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