ドゥ・マゴで逢いましょう 2001

2001年11月2日(金)


11月2日、金曜日。有給休暇。

■宮本武蔵 般若坂の決斗

映画祭は午後からなので、まずは池袋、新文芸坐へ行く。前回につづき、内田吐夢版宮本武蔵の第2作、『宮本武蔵 般若坂の決斗』である。

物語は武蔵が姫路城を出るところからで、ここから「宮本武蔵の修業時代」が始まるわけだ。ミフネの場合は、あんなときもこんなときもそんなときも、ずーっと困った顔をしていた(本人は苦悩しているつもりなのだろう)が、困ることなどには縁のない錦ちゃんは、もちろん困ったりなんかしない。前作では叫んだり暴れたりの野蛮人状態だったので、少し苦悩するくらいがほどよい元気さだ。健さん=小次郎は本作でもまだ登場しないし、あいかわらず入江若葉は最低で、丘さとみは二重あごになっていたが、観どころもたくさんで、引きつづきたいへん楽しめた。


春の日は過ぎゆく ◇ One Fine Spring Day

映画祭5本目は、コンペティション部門の『春の日は過ぎゆく』。『八月のクリスマス』の許秦豪の第2作である。ここ数年は韓国映画がちょっとしたブームで、いろいろな作品が公開されるようになったが、どれもが高品質(あるいは好みに合う)というわけではない(そこが台湾映画とは違うところだ)。そんな中で、最も期待できるのがこの許秦豪監督だ。

映画は、サンウという青年の成長を描いたもので、年上の女性ウンスとの恋愛と、父と祖母との家族生活とが平行して語られる。ボケてしまっているおばあちゃんは時々いなくなり、探しに行くのはサンウの担当なのだが、おばあちゃんはたいてい駅の待合室にいる。しばらくつきあい、なだめて連れて帰る、というシーンが何度か繰り返されるように(この一連のシーンが非常によい)、家庭生活には変化がなく、一方でサンウとの恋愛の局面はどんどん変化していく。また、若い頃のおじいさんしか覚えていないおばあちゃんを映しつつ、おじいさんの浮気のことが語られ、これがサンウの恋愛の結末を暗示している。このように、ウンスとの物語と家族との物語は、互いに対比され、関連をもちつつ描かれる。

ウンスとサンウの恋愛については、『八月のクリスマス』のような、だれもが共感するようには描かれていない。人それぞれ、どちらに感情移入するかや共感できる部分が異なるようだが、私はウンスはともかく、サンウには全く共感できなかった。しかし最後に、すべてを乗り越えて成長した彼を見たときに、それまでの嫌な部分は全部忘れて彼を祝福できる。そして映画は「麦秋」のシーンで幸福感につつまれて終わるが、『麦秋』では聴くことのできない麦の穂の音が感動的である。

許秦豪

メイン会場ではない渋谷ジョイシネマでの上映は、司会が山根ミッシェルさんで余計な前置きもなく、進行的にはたいへんよかった。しかしゲストは許秦豪監督のみで、オーチャードホールには来たらしい主演の二人が来なかったのは残念だ。許秦豪監督のティーチインでは、好きな監督として小津安二郎を挙げたのは十分予想できたが、作品が『東京物語』なのはちょっとがっかりした。とはいえ、韓国では少し前まで日本映画が公式には観られなかったわけだし、この映画のあとで『麦秋』とも言えないだろうから仕方がない。

ティーチイン要旨


ふたつの時、ふたりの時間 ◇ 你那邊幾點 ◇ What Time Is It There?

とても久しぶりに喜楽のラーメンを食べて、渋東シネタワー3へ行く。映画祭6本目は、シネマプリズムの『ふたつの時、ふたりの時間』。蔡明亮監督の最新作である。

映画はいつものように小康=李康生が主人公だ。『青春神話』『河』につづく、父=苗天、母=陸筱琳(陸奕静って改名したの?)の家族シリーズで(といっても、苗天は冒頭で死んでしまうのだが)、明確な続き物ではないが、なんとなく連続している。『河』に対しては、家族の崩壊の物語とみる人と再生の物語とみる人があるようだが、再生の物語だと思った私の考えは間違っていなかったと今回の映画を観て確信した。

撮影は厳格なフィックス&長回しで、映っている人物さえほとんど動かないショットが時々ある。この撮影がある種の息苦しさを醸し出していて、登場人物を覆っている死の気配のようにも思われる。これまでずっと蔡明亮作品の撮影を担当していた廖本榕に代わり、今回はおフランスのキャメラマンBenoit Delhommeだが、そのためか、冬のパリのしんとした空気がリアルに伝わってくる。一方、これまでの作品に濃厚にあった台北の空気はあまり感じられず、パリに比べて台北のシーンが弱い。おフランスとはいっても、サイゴンの街を非常に魅力的に撮っていた『シクロ』のキャメラマンなので、ちょっと残念である。そのせいもあってか、陳湘琪の印象が強烈なのに比べ、小康の印象が弱い気がする。

今年の夏にはなくなってしまっていた台北車站前の歩道橋と、レトロな雰囲気がお気に入りのお菓子屋さん、明星が出てきたのが嬉しい。

蔡明亮・李康生・陳湘琪   蔡明亮・李康生・陳湘琪

やはり遅い時間なのだが、今日はティーチインを聞く。初めて見るナマ陳湘琪小姐は綺麗だった。

ティーチイン要旨


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作成日:2001年12月13日(木)
更新日:2004年11月29日(月)