ドゥ・マゴで逢いましょう 2001

2001年11月3日(土)


11月3日、土曜日。くもりのち雨。


The Chimp(原題) ◇ Maimyl ◇ The Chimp

映画祭最後、7本目の映画は、コンペティション部門の『The Chimp』。『あの娘と自転車に乗って』のAktan Abdikalikov監督の第3作。キルギスのAktan Abdikalikovは、カザフスタンのSerik Aprymovと共に旧ソ連中央アジア映画界を背負って立つ人である。

映画は、主人公の少年の兵役検査で始まり、兵役に行くところで終わる。古き良き(?)ソ連時代のキルギスを舞台に、兵役直前のモラトリアム期間を通して少年の成長を描いている。たわいもない友人たちとの日常も、幸福とはいえない家庭生活も、同じように淡々と描かれ、落ち着いた静かな映像は、すべてのショットが美しい。監督の息子である主人公の少年は、父親似で決してハンサムとはいえないが、前作に比べて存在感のあるいい顔に成長していた。特に、列車で故郷をあとにするラストシーンの顔が印象的だ。

映画を観ながら、ヨーロッパとアジアにまたがるソ連という国の広大さや、それを構成する人やモノの多様さをあらためて感じた。また、兵役というものはなくすべきものだけれども、このような広大な国に住む人にとっては、故郷を離れ、別の世界を見る機会を提供するものでもあるのだと思った。

舞台は夏である。庭の木の下に、夜はお父さんのベッドとなる二畳くらいの台みたいなものがあって、昼はそこがオープンエアの食卓となる。庭付きの家に住めたら真似してみたいものだ。

Aktan Abdikalikov

ちょいとモンゴルの特務みたいなSerik Aprymov監督とはぜんぜん違って、Aktan Abdikalikov監督は北京の屋台で羊の串焼でも売っていそうな雰囲気である。舞台挨拶でいきなり「文化の日おめでとうございます」などと、予想もつかない挨拶をした。文化の日が明治時代の天長節に設定されていることを知っている者にとっては、複雑な心境にさせられる挨拶である。

舞台挨拶にはプロデューサーも来ていた。名前は失念したが、ひとりはプログラムからするとおそらくCedomir Kolar氏で、もうひとりは日本のビターズ・エンドの人である。日本の映画会社が海外の優秀な監督に出資し始めたのはおそらく7、8年くらい前からだと思うが、最近は数も増え、質的にも優れた映画が多くなって、たいへん喜ばしいことである。

ティーチイン要旨


■不良番長

午後はフィルムセンターへ『不良番長』を観に行く。「全16作が作られた「不良番長」シリーズの記念すべき第1作」ということだが、予想以上に期待はずれだった。「不良番長」というタイトルからは、せいぜい二十歳くらいの登場人物が期待されるが、主演の梅宮辰夫はすでに「梅宮パパ」の雰囲気になってしまっており、劇中でも三十歳近いという設定だった。この映画の唯一の見どころは南原宏治。前から変だと思っていたが、やはり南原宏治は変である。

今回の「日本映画の発見VI:1960年代(2)」は明日までで、観る予定はこれが最後だ。全部で8本、けっこうレアな作品も観させてもらって、ありがたい特集だった。次はイタリア映画だそうで、しばらく通う頻度は低くなりそうだが、その後70年代をやってくれるのを期待している。


■映画祭をふりかえって

今年は観た本数は少なかったが、ほとんどの作品が満足のいくもので、かなり充実した1週間だった。

コンペの三作も、いずれも期待を裏切らない出来だったが、結果は、『春の日は過ぎゆく』が最優秀芸術貢献賞というわけのわからない賞にかすった以外、いずれも無冠に終わった。賞の大半を『スローガン』と『月の光の下に』が分け合ったわけだが、これらが私の観た作品よりも優れているのならば何も言うことはない。観ていないので何も語る資格はないが、Webで閉会式を見ながら感じたことを書いておきたいと思う。

賞というものは本来、優れた順に並べた一番上に与えられるべきものである。 しかし、実際はそうはなっていないことが多い(審査員のレベルや嗜好の問題は別にしても)。最近の傾向として、映画の良し悪しではなく、テーマのインパクトや社会性が結果に影響していることが多いように思う。また、賞をとることが、その映画や監督や作られた国に与える影響も関係していて、要するに「あげがいのある人にあげる」という感じも否めない。章明監督も、今年の東京について、人民日報に似たようなコメントを残している。

さらに東京の場合、新人が対象であるため、前作(あれば)からの成長度(審査員が観ていればだが)も問われるのではないかと推測される。これに関しては、三監督とも前作が非常に優れていて、すでに自分の世界を築いており、成長著しいというわけではない。一方、『月の光の下に』のSeyyed Reza Mir-Karimiは、前作の『少年と兵士』はイマイチだったので、もし『月の光の下に』が素晴らしかったとすれば、受賞の資格があるのかもしれない。章明、許秦豪、Aktan Abdikalikovが東京に出品してくれたことは嬉しいが、このような観点から見ると、彼らは出すべき映画祭を間違えたといえるかもしれない。


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作成日:2001年12月24日(月)
更新日:2004年11月29日(月)