ドゥ・マゴで逢いましょう'99
1999年11月3日(水)
11月3日、水曜日。文化の日。出勤日だがフレックス休日を取っている。
映画は12時からなので、少し前までは『シェ・リュイ』だったパン屋で早めの昼食を食べる。11時過ぎに会場のシネセゾン渋谷へ行くと、まだ行列は短かった。
アパートメント ◇ Chung Cu ◇ Collective Flat 通算3本目は、カネボウ国際女性映画週間でViet Linh監督の『アパートメント』。ヴェトナム映画はTran Anh Hung監督の作品しか観たことがなく、純粋なヴェトナム映画はこれが初めて。女性映画週間に来るのは2度目だが、おばさんが多くて閉口する。
■舞台挨拶
監督は、継続的な日焼けが顔色として定着したという感じのおばさん。解放戦線で戦っていたと聞いて、その頃の日焼けなのだろうと納得。非常に低予算であること、戦後の自身の体験を反映させた映画であることなどが紹介された。
■映画について
ヴェトナム戦争後、解放戦線の人々が住むアパートとなった元ホテルの10年を、門番から管理人になった男を中心に描いたもの。委員を選出して混乱を収拾し、互いに助け合って「理想の共同住宅」になるが、やがて人々のつながりは失われていき、豊かになった人たちはアパートを出て行く。アパートとその住人たちの変遷は、ヴェトナムとヴェトナム人の戦後10年の縮図である。これといった大事件は起こらず、日常的な些細なエピソードの積み重ねで描かれているが、なかなか面白かった。映像的には特に印象に残るものはないが、建物に入ってちょっとひんやりする感じとか、部屋の中のむしむしした感じとか、南国の空気が感じられることが、各エピソードに厚みを与えていると思う。元のホテルのオーナーの姪を演じる女優はヴェトナムの寧靜という感じで(寧靜よりかわいい)、なかなかよかった。
■ティーチイン
ティーチインのための時間は決まっている。この女性映画週間の司会者は無駄な話が多すぎる。黙ってティーチインを仕切る役目に徹していれば、もう1つ2つ多く質問を受けられるということを知るべきだ。
女性映画週間の最もよいところは、英語通訳がないことである。ヴェトナム語の通訳はかなり優秀そうで、訳した日本語がきちんと意味の通る文になっていて感心した。映画の中のヴェトナム語は、時に広東語のように時に福建語のように聞こえたが、監督のヴェトナム語はもっと柔らかくて独特の響きだった。
◇◇◇
おなかがすいたので、公約の『ドゥ・マゴ』へ行く。タルト・タタンは残念ながらお休み中で、アプリコットのタルトにホット・チョコレート。監督やスターは見かけなかったが、途中で総長先生夫妻や山根貞男氏などの御一行がパラソルの下にやって来た。去年は一度も『ドゥ・マゴ』に行けなかったが、今年は行けてよかった。
フラット・タイヤ ◇ 破輪胎 ◇ Flat Tyre 通算4本目は、シネマプリズムで黄明川監督の『フラット・タイヤ』。台湾映画には詳しい方だと思うが、恥ずかしながら黄明川監督の名前は今回初めて知った。
■映画について
台湾の銅像のドキュメンタリーを撮ろうと全国を放浪する写真家と、彼の写真に惹かれて付き合っている女優の話。実はこの夏あたりから、「いつ誰が誰の銅像を建てたり壊したりしたかによって歴史が記述できるのではないか」といったことを考えていたので驚いた。私がそういうことを考えるようになったきっかけは上海旅行で、上海には、支配者が変わって銅像が変わったり、同じ人の銅像が何度も壊されて作り直されたりといったことがたくさんある。台湾でも、以前はどこにでもあった蒋介石の像がだんだんなくなっているのは知っていたが、それが宗教的な像に変わっているというのは初めて知った。日本と台湾での宗教の在り方の違いにもよると思うが、これまで観音像や仏像に対して宗教的という捉え方はしていなかったし、銅像とリンクさせて考えたこともなかった。独特の空気があって時間が経っても印象が残り続ける映画だが、特にラスト近くの馬公の港の風景がなぜかとても心に残った。私も行ったことがあるのだが、あんなところに蒋介石の像があったのは憶えていなくて、見に行きたくなった。
■ティーチイン
黄明川監督はどこにでもいそうな感じのちょっとインテリっぽい人だったが、変な白い靴を履いていた。女優の丁寧さんは映画の10倍くらいケバくなっていて、映画の中の方がよかった。司会の市山さんは、いろいろ忙しそうなのにますます体型がまるくなっていた。今日も英語通訳はひどく、監督とけっこう違うことを言っていて、時々市山さんにチェックされていた。
◇◇◇
今日の映画はこれで終わりなので、渋谷を脱出して目黒の『とんき』に行く。運悪くちょうどピーク時で、初めて二階のテーブル席を体験した。もちろん味は同じだったが、待たされても一階のカウンターの方がずっと楽しい。
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