第12回東京国際映画祭

フラット・タイヤティーチイン

参加者(敬称略)
ゲスト●黄明川(監督)、丁寧(主演女優)
司会●市山尚三
北京語-英語通訳●黄明川
日本語-英語通訳●王愛美


■黄明川(英語):台湾の文化的背景などを知らないとわかりにくい映画だと思うが、多くの人が観に来てくれて嬉しい。
■丁寧(北京語):日本に来るのは初めてだが、来られて嬉しい。

■観客1(日本語):この映画はドキュメンタリーとして撮り始めて途中で劇映画に変更したということだが、なぜドキュメンタリーにするのを諦めたのか?
◆黄明川:台湾では、6年くらい前まで公的な銅像が多く、蒋介石の像もたくさんあった。それが最近は宗教的な像に変わっており、中には十階建てのビルくらいの高さのものもある。このことに興味を持ち、2年前にドキュメンタリーとして完成させようとして政府の補助金を申請したが、落ちてしまった。自分が興味を持っても他の人には興味を持ってもらえないと気づき、劇映画としてこのときの自分自身の気持ちを反映させた。借金をすればドキュメンタリーとして完成させることもできたかもしれないが、台湾の人に興味を持ってもらえるものにはならなかったと思う。
■観客1:蒋介石の銅像が宗教的な像に変わっているといったドキュメンタリーで伝えたかったメッセージは、劇映画になってもちゃんと伝わっている。政府が補助金をくれなかったのは、このような台湾の現実を観客に見せるのがいやだったからではないか?
◆黄明川:政府がどう思ったかについてはわからない。

■観客2(日本語):台湾の別の監督が、「台湾の映画界はもともと不況だったので、今回の大地震による打撃はあまりない。古い撮影所が壊れても問題にはならない」と言っていた。これについてどう思うか?
◆黄明川:今度の大地震で、霧峰(南投)にある撮影所が倒壊したが、政府は再建の費用を出さないということで、その撮影所はなくなってしまった。台湾映画は国内ではあまり評価されておらず、厳しい状況だということには同感である。理由はいろいろあるが、ひとつにはケーブルテレビの普及が挙げられる。月に500元出せば500チャンネル見ることができ、日本映画、ハリウッド映画、香港映画など、100くらいの映画が見られる。最近では、ヨーロッパの賞を撮った映画なども見られるようになったし、24時間いつでも映画が見られて、しかも安価である。政府は海外からの映画の流入をコントロールしないので、台湾映画がこれらに対抗するのは難しい状況である。製作会社や配給会社は資金を回収するためヴィデオも出しているので、二ヶ月後に出るヴィデオを待って、人々は劇場に行かない。また、政府の補助金の審査も平等ではない。
■観客2:犬がたくさん出てきたが、何か意味があるのか? 映画の撮影のシーンだけではなく、銅像の下に何気なく犬がいたりしたが。
◆黄明川:台湾には野良犬がたくさんいるので、犬が画面に入らないようにするのは難しい。

■観客3(日本語):あなたにとってこの映画の見所はどこか?
◆司会:見所というのはふつうは観る前に聞くものではないか?わからないところとか、もっと具体的に聞いた方がいい。
■観客3:どちらかというと単調な映画なので、監督が「ここが面白いんだよなぁ」と思っているところが知りたい。
◆黄明川:政治に興味を持っている監督だとよく言われる。自分は歴史マニアなので、ドラマの中に歴史的な要素が多くなってしまったかもしれない。批評家に「この映画には、丁寧の物語と、男二人の物語の二つの要素のある」と言われたが、最終的には、銅像からくる歴史的な力に、その二つがのみこまれたといえる。
■司会:呉鳳の像が倒されるシーンがあるが、彼はどういう人物か? それを知らないとちょっとわかりにくいと思うが。
◆黄明川:呉鳳は、日本が台湾を占領したときに作り上げられた人物である。台湾には先住民と後から中国から来た人がおり、中国から来た文明を持った人々は先住民を野蛮人であると考えていた。野蛮人が文明人の首斬りをしていたところ、呉鳳という人物がそれはいけないことだと説き、「文明人の首を斬るなら自分を斬ってくれ」と言って犠牲になったことにより野蛮人が首斬りの習慣をやめた、というもの。戦後もこの物語は国民党に利用され、30年間も教科書に載っていた。有名な監督によって、何度か映画化もされている。

■観客4:主人公とその友達が事故に遭った人を拾うシーンがあり、その人はその後しばらくは二人と一緒にいたが、途中からいなくなってしまったように思う。彼はその後どうなったのか? またその3人で野宿しているシーンで、拾われた男が玉で作った観音像を持っていたが、その後その人がいなくなって二人がドライブしているシーンで、彼らがやはり玉で作った観音像を持っていた。これはどういう意味か?
◆黄明川:観音は台湾ではとても力のある神様である。インドから中国に伝わったときには男だったが、その後、女になった。豊かなものを象徴し、経済や商売の神様である。台湾のいたるところにあり、ペンダントから13階の高さのタワーまである。事故を起こして拾った男は、自分自身に苦行を課して旅をしている人である。彼は二人がいい人だったので、自分の観音様を彼らにあげたのである。
◆これとは別に、映画の中でニンが何度も目撃する人物は、母なる大地への崇拝を象徴している。また、大砲の音も出てくるが、これは台湾の風景のようなものである。すなわち、台湾に住んでいると日常的に感じる中国の脅威を意味している。
◆苦行を重ねる人物は、自分が中国人なのか台湾人なのかわからない、アイデンティティに悩む人を象徴している。

■司会:最後に、丁寧さんにこの映画に出演した印象を聞きたい。
◆丁寧:ユニークな体験だった。今まではテレビの商業的な仕事をしていたが、それとは全く違っていた。クルーの一員としての体験はとても貴重であり、役者としてだけではなく多くのことを学んだ。芸術と商業的なものを分けて考える傾向があるが、俳優にとってはどちらも演じるということに変わりはなく、このような傾向はよいことではないと思う。

映画人は語る1999年11月3日ドゥ・マゴで逢いましょう'99
ホームページ
Copyright © 1999-2004 by OKA Mamiko. All rights reserved.
作成日: 1999年11月9日(火)
更新日:2004年12月11日(土)