ドゥ・マゴで逢いましょう'99

1999年11月4日(木)


11月4日、木曜日。有給休暇。雨のちくもり。

美少年の恋 ◇ 美少年之戀 ◇ Bishonen

通算5本目は、東京国際ファンタスティック映画祭で楊凡監督の『美少年の恋』。昼食のパンを買い、11時過ぎに東急文化会館の階段に行く。すごく観たい映画というわけでもないしゲストのファンでもないので遅めに行ったが、もう5階くらいまで並んでいた。ファンタは相変わらずテンションの高い人が多くて疲れる。

楊凡etc

■舞台挨拶

例によってセンスの悪いド派手な演出で小松沢プロデューサーが出てきて、予想どおりテンションが高く情報量の少ないお話を聞かされ、うんざりする。ゲストは、楊凡監督と、警察官を演じている呉彦祖と、人気スター役の尹子維。楊凡監督は「やはりこの人はゲイなんだろうな」という物腰の人で、呉彦祖はなかなかかっこいい。挨拶は基本的に英語で、呉彦祖が少しだけ日本語を話していた。観客との質疑応答が少しあったので、その概要を書いておく。

◆呉彦祖は日本語が上手だが、誰に習ったのか?
◇呉彦祖:上手じゃない(日本語で)。1994年に京都で建築を勉強したので、その時に覚えた。
◆呉彦祖と尹子維は仲がいいということだが、お互いをどう思っているか?
◇尹子維:呉彦祖は努力家でおぼえが早い。広東語もすぐに話せるようになった。
◇呉彦祖:自分は撮影の時に緊張しやすいが、尹子維はいつもリラックスして自分を発揮できる。
◆映画の中で、尹子維が有名になる前に着ていた服がダサかったが、自前か?
◇尹子維:全部スタッフが用意した服である。

■映画について

男娼と警察官の男同士の恋愛を描いたもの。それなりに楽しめたが、特にどうということはない映画。ナレーションを林青霞が担当しているが、文学作品でもないのにナレーションを多用するのもどうかと思うし、別になくてもいいような内容がほとんどである。主人公たちの行動は、台詞やナレーションによって頭ではそれなりにわかるのだが、どうも心情的にすんなり入っていけなかった。馮徳倫や尹子維に魅力を感じないせいもあるが、人物描写が浅く説得力に欠ける。始まる前にとても耳障りな声の北京語の曲がかかっていると思ったらこれが主題歌で、唄っているのが私の大っきらいな李玟だったのも大きな減点ポイント。美少年には特に期待していなかったが、呉彦祖はたしかに美少年(美青年)で(声が低すぎてちょっと違和感があるが)、実物よりも映画の中の方がナイーヴそうでよかった。劉徳華似ということで、制服の警官役は『欲望の翼』の劉徳華を意識した設定に違いない。

◇◇◇

次までにかなり時間があるので新宿へ買い物に行く。4時ごろに高島屋の『鼎泰豐』へ行ったら、さすがに平日のこの時間は待たずに入れた。台北の本店に比べたら今二くらいの味だが、それでも日本でこのレヴェルの小龍包に出会うのは難しいと思う。次の『ダークネス&ライト』は今年の映画祭の最期待作なので、5時過ぎくらいには並びに行った。オーチャードホールの夜の回は初めてだが、この時間に屋外で1時間以上も並ぶのはかなりつらい。夕方や雨の日は屋内に並ばせるなど配慮していただけると嬉しい。

ダークネス&ライト ◇ 黒暗之光 ◇ Darkness and Light

通算6本目は、張作驥監督の新作『ダークネス&ライト』。コンペティション部門で賞金受賞対象作品。張作驥は、台湾映画祭で『チュンと家族』を観て以来の要チェック監督であり、とても楽しみだ。

張作驥etc

■舞台挨拶

ゲストは張作驥監督、プロデューサーの呂蒔媛、音楽担当の張藝、主人公の少女を演じている李康宜、彼女のボーイフレンド役の范植偉。驚いたことに、文化村通りを歩いてここに来るとき、私のすぐ前を歩いていた女の子とおばさんが李康宜と呂蒔媛だった。服だけで顔は見ていないが、北京語で話しているのが聞こえたのでよく憶えている。文化村の方へ曲がって行ったが、まさかゲストだったとは。張作驥は映画監督には見えないふつうのおじさんだった。

■映画について

基隆を舞台に、帰省した康宜という少女の夏休みの生活を描いたもの。どこからみても私好みの映画だった。人が死んだり、けっこう事件が起こるのだが、物語的に盛り上げるのではなく、そのような事件を含みながらも続いていく日常生活が、淡々と描かれている。観るものを映画の中に引き込むのは、物語の展開よりも風景やそこにある空気の肌触りだ。そういうところは、張作驥監督が助監督を務めたこともあるという侯孝賢の映画に似ているかもしれない。何度も出てくる基隆の港の夜景やアパートの入口のショットなど、基隆の湿った空気や海の匂いやそんな目に見えないものがありありと感じられる。康宜は、全盲の両親、血のつながっていない母親、知的障害を持つ弟を持つが、家族の関係はハードさを強調することなく自然体に描かれている。目を見開いているキスシーンや、抑制された音楽もよかった。原題の“暗黒之光”が象徴しているように、相反するものの共存によって、人生の機微というかそういったものが描かれていると思う。蔡明亮はすっかりビッグになり、林正盛はちょっと下降気味ななか、張作驥は台湾で今最も今後が期待される監督ではないだろうか。

■ティーチイン

質疑応答要旨

例年のことだが、コンペティションの司会者も五月蝿い。つまらない自分の感想やコメントを差し挟まないで進行役に徹し、ひとつでも多く質問を受け付けられるようにしてほしいものだ。


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作成日: 1999年11月20日(土)
更新日:2004年12月11日(土)