第17回東京国際映画祭

『胡蝶』ティーチ・イン

開催日 2004年10月28日(木)
会場 VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ2
ゲスト 麥婉欣(監督)
田原(出演者)
司会 襟川クロ
北京語-日本語通訳 水野衛子


司会(日本語):こんなに大勢のみなさんが今ご覧になったばかりの状況なので、さっそく監督からご挨拶を。

麥婉欣(北京語):はじめまして(日本語)。今日ここに来られて本当に嬉しく思っています。私の映画を気に入っていただければ本当に嬉しいです。

田原(北京語):みなさん、こんにちは。実は私も一緒に観ていました。みなさんがこの映画を観に来てくださって、本当に嬉しく思っています。ありがとうございました。

司会:みなさんご覧になって、拍手でお答えいただきたいんですが、いかがでしたか《会場拍手》。もうこれでOKですね。実は日本での公開も決まっていますからね。

観客1(日本語):はじめまして。松本と申しますけれども、映画とてもすてきでした。監督の方が女性だとは知らなくて、今いらっしゃってすごく驚きました。前の作品(『夢遊ハワイ』)を観たときに、映画に音楽はあまり必要ないのではないかとコメントしたんですけれど、今回は逆に音楽がすごく意味をもっていたなと思いました。歌詞がついている音楽がとても効果的だったと思います。音楽に対するこだわりがありましたらぜひ教えてください。

麥婉欣:短編でも長編でも、映画にとって音楽はすごく重要なものだと思っています。この映画の最後に流れた曲は、脚本を完成させる前にすでに使うことを決めていました。脚本を完成したあと田原に出会ったんですけれども、彼女自身がシンガーソングライターなので彼女の曲も使っていますが、この映画にとても合っていると思います。私にとって映画音楽は、映画の台詞と同じもの、言葉のひとつであり、映画になくてはならないものです。

司会:本当にみなさんよくご覧になっていますよね、アジアの風。毎年毎年そうなんですけれども、今年は特にクオリティが高いのと、バラエティに富んだ作品が多いのと、どのカテゴリーもそうだと思っているんですけれども、佳作、傑作、秀作揃いで、観終わって「ひゃー」というのがないんですよね。ほんと嬉しいですね。さすがにプロデューサーの目。

観客2(日本語):たいへんすばらしいと思いました。不勉強にして田原さんという方を初めて知りました。シンガーソングライターで主演のひとりでもあるんですれど、監督と田原さんの出会い、あるいは主演に選んだ理由を教えてください。

麥婉欣:脚本を書き終わってからたまたま彼女のCDを見つけて、その音楽が非常によかったので、ぜひ彼女と知り合いになりたいと思いました。彼女と会ったのは、彼女の故郷である武漢です。武漢へ行って初めて会って、彼女はこの映画の中の葉イップという役にとても合っていると思ったので、香港に来てもらってプロデューサーと一緒に会い、彼女に決めました。

司会:田原さんは監督と初めて会っていかがでしたか。

田原:監督が私に会いに武漢に来てくれたときは武漢が最低のとき、40度という一番暑いときでした。わざわざ会いに来てくれて初めて会って、脚本も読ませていただいて非常に気に入ったし、監督とも話が合ってとても盛り上がり、そのあとも連絡を取り合いました。本当に楽しい出会いでした。

司会:どこが気に入ったんですか。

田原:この映画の脚本に込められた感情に非常に惹きつけられました。単純で簡単な感情ではなく、いろいろと複雑な人間の想いが入っていると思います。またストーリーも完璧だと思います。

観客3(日本語):とてもすばらしい作品ありがとうございました。女性の同性愛を扱っている映画で、しかも天安門事変がバックにあるということで、どうしても“藍宇”と比べられがちではないかと思ったんですけれども、それについて監督さんはどういうふうにお考えかということをお伺いしたいと思います。

麥婉欣:これはたしかに女の子と女の子の間の愛情を描いた映画なんですが、私としては、異性愛でも同性愛でも同じラヴ・ストーリーだと思います。
◆この映画の80年代の部分は、自分がちょうどその時代にあの年齢でしたので、成長する過程で忘れられなかったことをすべてこの映画の中に盛り込みました。私が言いたいことを主人公たちが代わって言ってくれています。“藍宇”と比べられるというのは、おそらく同性愛であることと、背景に天安門事件が出てくることだと思うんですが、あの事件は私の成長過程でどうしても忘れることができなかったので、スタッフもそれを理解してくれて、この映画の中に盛り込むことに同意してくれました。
◆80年代、90年代を舞台にしているので、天安門事件以外にも香港のいろいろな背景を入れています。おそらくその時代を生きた香港人ならわかることなんですが、現代の動きについては外国人にはちょっとわかりにくいかもしれません。

観客4(日本語):ものすごく美しい映画で感激したんですけれども、フレームであるとか構図であるとか、ものすごくこだわって撮っていらっしゃるなと思ったんですけれども、これは監督が事前に細かい絵コンテとかを描いて指定したものなんですか。それともカメラマンの力が大きいんですか。それと、粒子の粗い8ミリみたいな画面がありましたけれども、あれはどうやって撮っているんですか。

麥婉欣:まず最初のご質問ですけれども、恥ずかしいお話ですが、私は絵コンテは描けないので、1枚も描いていません。ただ私は写真を撮ることが好きですし、美術も絵も好きです。ですから、この映画の画面は、私が手で描く代わりに眼で描いたものだと思います。
◆二番目のご質問ですが、ハイスクールのときにずっと8ミリで撮っていたので、8ミリ映画は私にとってとても特別なものです。8ミリの質感と35ミリの質感とは全く違っていて、8ミリは時間が経ってから昔のことを思い出したところにすごく合っていると思います。私たちの記憶というのは非常に不正確で完璧ではないと思うんですが、はっきり写らないところがそういうものを表すのにぴったりだと思います。この映画に挿入されている8ミリのシーンは、実はいろいろな手法で撮っています。

観客4:本当に8ミリのカメラで撮影したんですか。

麥婉欣:そうです。フジ。

司会:スーパーエイトとかいうやつじゃないですか。こういう時代的に遡るとかいうのによく使いますよね。

麥婉欣:ポスト・プロダクションをやってくれたのは日本人の友人で、スーパーエイトなどいろいろな機械を探すのも彼がやってくれました。

観客5(日本語):主演の女優さんに聞きたいんですけれど、初めての映画だと思いますが、こういう同性愛の女の子を演じることはどう考えていますか。

田原:あまり映画を撮るということを意識して撮影に臨んだわけではありません。私はもともと歌を歌っていて、すごく自然にこの映画に出ることになりました。この役柄がどうこうということではなくて、脚本がとてもよかったので出ることにしたんです。自分ではない人に自分の感情を投入していかなきゃいけないところは、どんな役柄を演じるにしても同じだと思います。

観客5:今回の映画祭の中に、男の子と男の子の恋愛の物語とか、女の子と女の子の恋愛の物語とか、同性愛のラヴ・ストーリーが何個か出ていますよね。

司会:そのことをどう思いますか、ですか。

観客5:そうそう。そのことは時代の、その年の若い人には…。

田原:それはそういう人がまわりにいるという現実があるということだと思います。ただ私は、男性同士の愛情でも女性同士の愛情でも、愛情ということでは同じだと思います。大事なのは、その恋愛という感情をどういうふうに受け止め、どういうふうに扱うかということで、同性愛にしても異性愛にしてもそれはやはり愛情だと思います。

司会:あなたはどう思いますか。

観客5(北京語):私は、こういうストーリーがすごく増えているなと…。

司会:増えているから嬉しいですか。

観客5:そんなには嬉しくない。

司会:これは別に今回の映画祭だけではなくて、全世界的にそういうものがちゃんと描ける、そして描く中でのすてきな愛の形がいろいろ取りあげられるようになったのと、それを観る人たちも増えているということで、愛というものは本当に様々な人がたくさんいたらそれだけの形があるということで…。レズ&ゲイ映画フェスティバルとかに行くと全部そういう映画なんですね。本当に深いものもあるし…

観客5(日本語):とてもいい映画ですが、全体の中で、やっぱり割合がけっこう多いなぁと。私の年齢はもっと上ですから今観るととてもいいと思いますけれど、年の若い人が観るのがいいかどうかといったら…。たとえばこういう映画を世界的に放送するとしたら…

司会:こういうふうになっちゃう人がいっぱいいるかもしれない?

観客5(日本語):本当ですよ。自分の娘が観たら…。今はたぶん大丈夫かもしれないけど。

司会:本当に素直なご意見ありがとうございました。監督、今のご意見嬉しいですよね。心配してくれる方もいるし。

麥婉欣:私は、この映画は必ずしも同性愛映画ではなくて、観客にもロマンティックなラヴ・ストーリーというふうに観てもらえると思います。
◆この映画は、ヒロインとジジという最初の恋人との関係だけではなくて、家族との関係や、いろいろな人間とヒロインとの関係を描いていると思います。また彼女自身も、大人になってからジジとの関係をもう一度あらためて直視する勇気をもって、残りの人生を歩いていく道を自分で決めることにしたと思うんです。どんな人生でも、いろいろ嫌なことがあってもその前にはまた希望がある、必ず道はあるということを描いていると思います。
◆これは私にとって2本目の映画なんですが、実は、この映画を撮りあげることができるかどうか本当に心配するほどその過程にはいろいろありました。いろいろ嫌なこともあり、ヒステリーになりかけたこともあるんですが、この撮影の過程を歩いてきて、こうやって映画ができたわけですから、やはり道は開けるんだと思いました。私もヒロインと同じように、ジジに贈り物をもらったような気がしています。
◆たしかに世の中開けてきたと言われていますが、自分の娘や家族や非常に親しい人間が同性愛だったら、また状況は違ってくるかもしれません。でもそれはそれで、映画は、こういうひとつの人生、ひとつの生き方を描いているんです。少し話を変えて言うと、男女の愛情の映画だったら、どんな映画でも、ちょっと変態みたいな映画でもいいのでしょうか。これは同性同士のラヴ・ストーリーですが、非常に美しいラヴ・ストーリーだと思います。こういう点で、私はちょっと違う意見を持っています。

観客5(北京語):私は別にそういう意味で言ったんじゃないんですけれど。たしかにこの映画は、二十歳くらいのときの自分の過去の愛情や感情を思い起こさせてくれましたし、そういうものを刺激され、啓発されもしました。

観客6(日本語):私の日本語片言ですからちょっと…1。監督は思ったよりすごい若いですからびっくりしたんです。私の言いたいことは、映画は文化のものですね。文化は文明と関係あるから、文明とモラルはつながりがある。もし文明が体だったらモラルは心。監督の映画を観たら、西側諸国の文明にあせって走っている、それが見えたんです。時代的に考えたら、西側の文明はもうそろそろ沈む。モラル的に下がっているから。50年もたないと思う。もちろんみんな意見違うと思いますけれど。……もし、自分がどんなことやってもいいんだったら動物よりレベルが下がる。オス同士、メス同士、動物も性関係しないから。そうだったら家庭がつぶれるから。……監督は、どういう目的でこの映画作ったんですか。

麥婉欣:私の映画が西洋に迎合している思われたとしても、これは香港で私が成長する過程で本当に起こったストーリーなんです。香港は6年前に中国の一部になり、それまではたしかにイギリスの教育を受けていたんですが、これが今の香港なんです。新しい時代の香港人はこういう生活をしていて、レッド・ランタンみたいな20年代の中国の生活はしていないんです。

司会:ちょっと行ってみるといいかもしれませんね。もしかしたらこういう状況があるかも。本当に世界はもうアメリカとか日本とか中国とかインドとかなくなってきたと思うんです、映画の面では。この映画祭はそういうのに出会ういいチャンスだと思いますので、目を大きく開けてたくさんのいい映画を観てください。ありがとうございました。

1]よく聞き取れないところが多々あったので、抜けがあります。間違いもあるかもしれませんが、ご了承ください。

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作成日:2004年11月14日(日)
更新日:2004年12月3日(金)