第11回東京国際映画祭


ティーチイン

『ダンス・オブ・ダスト』


参加者(敬称略)

ゲスト●Abolfazl Jalili(監督)
司会●市山尚三
通訳●Shohreh Golparian(ペルシャ語-日本語)、?(英語通訳3)(日本語-英語)


■司会(日本語):まず観客の皆さんに挨拶を。
◆Abolfazl Jalili(ペルシャ語):来てくれてありがとう、特にイラン人の方、ありがとう。東京国際映画祭に参加するのは二度目である。今日はとてもよい一日だった。まず、絵本作家の五味太郎さんにお会いできたし、Donald Richieさん、篠崎誠さんといった素敵な人たちと再会できた。篠崎誠さんは結婚されたばかりで、奥様も会場に来ておられるので、おめでとうを言いたい。
◆この映画は8年前に作ったが、ハタミ大統領になってからやっと上映許可がおりた。この映画を観るといつも疲れるが、皆さんも疲れただろうか。
◆2年前の映画祭では、『かさぶた』『7本のキャンドル』『トゥルー・ストーリー』の3本の映画が上映された。『トゥルー・ストーリー』の上映時に、主演の男の子に頼まれていたので観客の写真を撮った。帰って現像したら素晴らしい写真ができていたので、映画祭の会場に飾ってもらおうと思い、去年の映画祭のときAbbas Kiarostami監督に頼んで持って行ってもらった。観客に、去年からどのくらい年をとったのか見てほしいと思ったのだが、その写真は会場ではなく、なぜか市山さんの家に飾ってあるらしい。明日市山さんに持ってきてもらうので、皆さん自分を探してみて下さい。2年前からどのくらい年とったか、私のようにたくさん年とったかわかるだろう。

■司会:ラストで画面に出てくる言葉は何か。
◆Abolfazl Jalili:観客の皆さんとたくさん話をしたいのに、いつも市山さんが邪魔をする。
◆映画を作る際にはみんな苦労すると思うが、この映画では特に非常に苦労した。この苦労の結果を観客の皆さんに贈ります、という意味である。
◆ここでちょっとお願いがある。この映画を気に入らなかった方は手を挙げてほしい。

■観客1(日本語):気に入らなかった。立ち見だったせいもあり、フラストレーションがたまった。質問をあげればきりがないが、あえて何も質問しないので、この映画について何かお答えいただきたい。
◆Abolfazl Jalili:ティーチインが終わってから、個人的に何でも質問して下さい。

■観客2(質問1)(日本語):絵画的な映像に感動したが、この映画にシナリオはあったのか。
◆Abolfazl Jalili:シナリオを書いて、撮影した地域に行った。ここはクルド民族が多いところだが、クルド人は奥さんの写真を撮られるのを嫌がるので、なかなか撮影ができなかった。そこでまず一ヶ月間労働者として一緒に働き、人々の信頼を得て撮影の許可を貰った。その一ヶ月間に、前の脚本を破棄して新しい脚本を書いた。

■観客2(質問2):背中に煉瓦を載せて苦しんでいる女性のシーンがあったが、あれはどういう意味か。
◆Abolfazl Jalili:あのシーンは、お産をしているところである。痛みを和らげるため、暖めた煉瓦を載せるという習慣である。

■観客2(質問3):この映画の中で一番描きたかったシーンはどこか。
◆すべてのシーンが好きだが、敢えて選ぶなら最後のシーンである。子供が叫ぶのだが、返事はなくて返ってくるのは自分の声のエコーだけ。その寂しさが好きだ。

■観客3(日本語):登場人物の視線の切り返しが中心で、人物が一緒にいるシーンがないのにとまどった。特に、登場人物の男の子と女の子は、視線が交わるだけでふたりが同じフレームに入るシーンがないのが寂しい。このような撮り方をしている意図は何か。例外として、子供が老人に水をかけるシーンと唄を唄っている人から子供へパンするシーンがあった。特に老人のシーンが気に入った。
◆Abolfazl Jalili:2ショットが少ないのは、この民族はひとりひとりが孤独な民族だからである。その寂しさを表現したかった。
◆指摘されたシーンに出てくる老人は民族の中の偉い人である。彼が手を洗うのに子供が水をかけてあげるのは、尊敬の念の現れである。もうひとつのシーンは思い出せない。

■観客4(質問1):この映画は、芸術映画、ドキュメンタリー、政治的な映画など幾つもの面を持っている。この映画の観客はどういう人か。どういう映画館でかけられたのか。
◆Abolfazl Jalili:この映画の前のふたつの映画が上映許可を貰えなかったので、これを撮った頃は精神的に落ち込んでいた。だからこの映画は自分のために少ない資本で作った。自分をリラックスさせるために撮ったので、リラックスしたい人のための映画だと思う。

■観客4(質問2):誰がお金を出したのか。
◆Abolfazl Jalili:友人が政府のローンを貰っていたので、それを借りて作った。その友人はその時は損したが、今この映画は世界中でよく売れているので、結局儲かったのではないかと思う。

■観客4(質問3):一番影響を受けた監督は誰か。
◆Abolfazl Jalili:私はとても信心深い人間だ。一番好きな監督は黒澤明監督である。

■観客5(質問1)(日本語):台詞はほとんどないが、全くないわけではない。日本語字幕がついていないが、これは監督の演出意図からみて問題ないのか。
◆Abolfazl Jalili:映像を使って自分の気持ちを伝えたかった。観客には目でそれをわかってほしい。
◆映画で聞かれるのは、台詞というよりも祈りの言葉のようなものである。撮影した地域は、クルド系、トルコ系、アラブ系などいろいろな民族が住む地域で、英語で話す民族もいる。自分はどの言葉もわからないので、映画で聞かれる言葉の意味はわからなかった。彼らの表情などから、自分の神様と話していると感じたので、それをそのまま伝えようと思った。ペルシャ語で聞いてみたところそうだという答えが返ってきたが、それ以上のことは聞けなかった。

■観客5(質問2):政治的な映画とは思えないが、なぜ上映禁止になったのか。
◆Abolfazl Jalili:台詞がほとんどないし、政治的な感じもしない。自分でも理由がわからなかったので、関係者に同じ質問をした。

■観客5(質問3):イラン映画には、ドラマかドキュメンタリーかわからない作品が多いと思うが、そういうイラン映画の特異性はどういうところからくるのか。あるいはドラマティックな映画もたくさんあるのか。
◆Abolfazl Jalili:イランには多くの偉大な監督がいて、ドラマティックな映画もあるし、その中には評価の高いものもある。自分の場合は現実に近づきたいと思って映画を撮っているが、まだその途上なので、こういう形式の映画になっている。
◆ナセル・タクバイという監督がドラマティックないい映画を撮っている。市山さんもぜひ観て、来年の映画祭で上映してほしい。
◆司会:来年も映画祭をやればぜひ上映したい。
◆Abolfazl Jalili:映画を観てもらい、また話を聞いてもらって、最後にもう一度お礼を言いたい。今日は11時からインタビューのスケジュールがぎっしり詰まっていてずっと話し通しだが、このティーチインは非常に楽しかった。でも、市山さんが早く終わらせようとしてイライラしているのがわかるので、これで終わりにしたい。後は外で話しましょう。

映画人は語る1998年11月3日ドゥ・マゴで逢いましょう'98
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作成日:1998年11月4日(水)
更新日:2004年12月11日(土)