1997年11月3日(月)

ドゥ・マゴで逢いましょう '97


11月3日月曜日。文化の日。晴れ。

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まごころ

今日の1本目、通算7本目は、成瀬巳喜男監督の「まごころ」。ニッポン・シネマ・クラシックの1本である。

ニッポン・シネマ・クラシックでは、戦前の映画を中心に、新しく発見されたフィルムなど、珍しく貴重な作品が上映されている。この「まごころ」と次の「君と行く路」は、共に成瀬巳喜男の初期の作品で、東宝にあったマスターポジからネガ起こしをして、そこから上映プリントを焼いたものということだ。成瀬は小津安二郎と並んで日本を代表する映画監督でありながら、まだまだ埋もれている作品があるというのは嘆かわしいことである。一方、このニッポン・シネマ・クラシックで、毎年のように成瀬の映画が観られるのはとても嬉しい。

会場は渋谷ジョイシネマ。私が知っている限りでは初めて映画祭に使われる。他の会場と少し離れているのが不便だ。映画館はビルの4階だが、開場の10時20分少し前に行くと、2階あたりまで列ができていた。下の階はディズニーのお店で、日本語詞のディズニーの唄が繰り返し流れていて気が狂いそうだ。

映画について

かつて恋人どうしだったが、別々の相手と結婚し、現在は裕福な暮らしをしている高田稔と、貧しい暮らしをしている入江たか子が、それぞれの娘が仲良しだということから再会する物語。1939年という製作年から戦争協力的な部分があるのは否めないが、戦前の傑作だと思う。子役がふたりともよく、特に金持ち娘が素晴らしい。高田稔と入江たか子が再会する川辺や、入江たか子の家へ続く道など、ロケーションも素晴らしい。


君と行く路

今日の2本目、通算8本目は、同じくニッポン・シネマ・クラシック、成瀬巳喜男監督の「君と行く路」。焼餃子、蒸餃子、水餃子という餃子三昧の昼食を食べてから、再び渋谷ジョイシネマへ。

トーク:佐伯秀男

ゲストは予定されていなかったが、弟役で主演した佐伯秀男氏がいらっしゃっているということで、上映前にお話がある。緑色のブレザー、赤っぽいネクタイという派手ないでたちで、おもろいおじいちゃんという雰囲気の人。トークにあったようにからだを鍛えているせいか、体格がよく堂々としている。終始にこやかに話をされていたが、共演者の多くが今は世にないことに話が及ぶと、涙ぐむ場面もあった。

映画について

妾の子である二人兄弟(兄・大川平八郎、弟・佐伯秀男)それぞれの恋愛をめぐる話。喜劇で始まって悲劇に終わる。「まごころ」に比べると出来はいまいちだが、悪い人じゃないんだけど無理解な母親などが登場し、より成瀬らしい物語という感じはする。


青春のつぶやき ◇ 美麗在唱歌 ◇ Murmur of Youth

今日の3本目、通算9本目は、インターナショナル・コンペティションで、林正盛監督の「青春のつぶやき」。

林正盛監督は、処女作の「浮草人生」を昨年のヤングシネマに出していて、これがすごくよかったので今回も観に来た。ちなみに「浮草人生」はシルバー賞を受賞している。

舞台挨拶:林正盛、柯淑卿、曾靜

会場はオーチャードホール。残念ながら満員ではない。インターナショナル・コンペティションと特別招待作品の舞台挨拶では、映画のことなど(おそらく)何も知らない、司会専門のおねえさんが出てきて、テンプレートに部門名や作品名を入れ換えただけの、毎回同じ挨拶をする。このテンプレートがまたおかしくて、まず、観客に感謝の言葉を述べたあと、「申し遅れました、わたくし、○○と申します」と自己紹介するのである。自己紹介の必要性も疑問だが、「申し遅れました」のフレーズも非常に疑問である。しかし最大の疑問は、どうして、アナウンスと見た目が綺麗なだけのおねえさんを出さねばならないか、ということだ。短い舞台挨拶で、少しでも意味のある内容を引き出すためにも、ちゃんと映画を観ている、映画のわかる人を出してほしいと思う。

ゲストは、監督の林正盛、脚本の柯淑卿(監督夫人でもある)、主演の曾靜と、ライン・プロデューサーの人(名前失念)。もうひとりの主演である劉若英が来ていなかったのと、林正盛の短い挨拶のみで、曾靜の挨拶がなかったのが残念。

映画について

偶然出会った、美麗という名前の2人の少女(劉若英、曾靜)の物語。なかなかよかったのだが、前作の「浮草人生」に比べると劣ると思った。前作では田舎が舞台なのに対して、今回は大都会、台北が舞台なのだが、どうも都会の描写はいまひとつ魅力が欠ける気がする。曾靜の方は郊外に住んでいるのだが、そのまわりの描写になると急にいきいきする感じがした。

主演は2人ともとてもよかった。劉若英は本業はミュージシャンで、映画で観るのは初めてなのだが、女優としての方がずっといいと思った。この映画の原題は「美麗在唱歌(唄う美麗)」で、2人の美麗が唄っているのは、陳昇の曲である。彼は、劉若英の師であり、この映画の音楽も担当している。

前作の「浮草人生」もまだ日本公開されていないので、本作ともども、一刻も早い公開を望みたい。


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作成日:1997年11月11日(火)
更新日:2004年12月15日(水)