1997年11月1日(土)

ドゥ・マゴで逢いましょう '97


11月1日土曜日。快晴。映画祭日和である。

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◇ 河流 ◇ The River

1本目は、蔡明亮の新作「河」。シネマプリズム部門のオープニング作品である。

私が毎年一番多く観るのは「アジア秀作映画週間」の作品で、これは、コンペ外だが、東京国際映画祭の目玉のひとつだった。今年から、アジア映画に限らずコンペ外の映画を紹介する「シネマプリズム」という部門が新設され、アジア秀作映画週間はその一部門となった。

そのアジア秀作映画週間/シネマプリズムのオープニングは、4年連続で台湾映画である。94年が楊徳昌、95年、96年が侯孝賢、そして今年が蔡明亮。3人とも台湾を代表する監督であり、私の大好きな監督だが、しいてひとり選べと言われたら蔡明亮かもしれない。3本観るまで評価は避けることにしている私としては、3本目になる本作は特に注目される。

2時開演なので、タイ料理のチャンパーで昼食を食べる。夜中までのハードスケジュールに備え、辛いものでパワーをつけなければ。1時間前くらいに会場の渋東シネタワーに行くと、1階ロビーにできた列はすでにかなり長い。最終的には立見も出たようだ。ゲストとして来ていた監督の蔡明亮と主演の李康生は、上映前から客席に座っていたので、まわりに人垣ができてサイン責めにあっていた。こういうのを見ると引いてしまう私は、いまだにサインというものをもらったことがない。

映画について

突然首が曲がってしまった少年の苦悩の物語。主演は、前2作と同じく李康生である。李康生演ずる小康は、「青春神話」と同じ両親と、同じアパートに住んでおり、「青春神話」の続編的な趣きもある。圧倒的な水、雨、湿気のイメージも、「青春神話」を彷彿させる。前2作同様に、どこの都市にも通ずる普遍性と、台北でしか出せない空気とを併せ持つ、オープニングを飾るにふさわしい傑作。ここで描かれる肉体的な苦痛は、精神的な苦悩の比喩でもあるのだろう。

冒頭近くで、汚染され、死につつある淡水河が映し出される。台北の西部を流れる淡水河は、林海象監督の「海ほうずき」にも登場し、今年4月にそのロケ地を訪れ、その汚さを目にしてきたばかりである。

ティーチイン

(Q&Aの概要は、このタイトルをクリックして下さい。記憶に頼って書いているので、正確ではありません。写真を撮っていてよく聞いてなかったところもあります。間違い等ありましたらご指摘下さい。他の映画のティーチイン等についても同様です。)

上映後のティーチインは、監督の蔡明亮と主演の李康生。李康生はけっこう好きな俳優さんなのだが、実物はごくふつうの青年で、スクリーンの中で初めて輝く人という印象である。質問のほとんどが監督に対してだったこともあり、ステージ上の彼は、「とりあえず椅子があったので座ってるんだけど、いったい何が起こってるんだろう」という雰囲気だった。監督の方は、リラックスして時々笑いを交えながら語ってくれたが、観客に対してというより、通訳の小坂さんに向かって喋っていたのが残念だった。


ラヴ ゴーゴー ◇ 愛情來了 ◇ Love Go Go

2本目は、ヤングシネマ・コンペティション部門で、陳玉勲監督の「ラヴ ゴーゴー」。毎年不作だと言われているインターナショナル・コンペティションとは違って、ヤングシネマ・コンペティションは毎年けっこう秀作が揃っているらしい。こういうところを積極的に観て、新しい監督を発掘するべきだと思うのだが、他に観たい映画が多すぎてなかなか手がまわらない。今回もこれ一作のみである。

途中、神戸屋キッチンで夕食を仕入れてル・シネマに移動。同じく「河」からこちらに移動する台湾映画ファンはけっこう多い。ヤングシネマもふつう上映後ティーチインがあるのだが、残念ながらル・シネマで上映される回にはなし。

映画について

「熱帯魚」でデビューした陳玉勲の第2作。台北を舞台にした3話のオムニバス風のコメディで、各話の登場人物は互いに関連をもっている。基本的には、3つの物語が第1話、第2話、第3話というように順番に語られるのだが、映画中の時間では各話は同時に進行しており、最後の方で各ストーリーが同時に終わるという、凝った作りになっている。前作もそうだったが、出てくる人のほとんどが善意の人であり、そこには監督の人間に対する肯定的な思いが強く感じられ、好感が持てる。賞が狙えると思う。ただ、何箇所か王家衛を連想させる部分があって気になった(スタイル等が全く異なるだけに、よけい気になる)。


ア・リトル・ライフ・オペラ ◇ 一生一台戯 ◇ A Little Life-Opera

3本目は、方育平監督の「ア・リトル・ライフ・オペラ」。これもシネマプリズム(アジア秀作映画週間)の1本。

方育平の映画は「ジャスト・ライク・ウェザー/美国心」しか観ていないが、これはすごい傑作だった。しかし彼はもう何年も新作を撮っていなくて、噂も聞かないので気になっていたのだが、映画祭のスケジュール表に突然彼の名前を見つけたのは、嬉しい驚きだった。

スターバックスでコーヒーを買って、再び渋東シネタワーへ。「河」→「ラヴ ゴーゴー」→「ア・リトル・ライフ・オペラ」と流れる中華圏映画ファンは多く、行列は似たような顔ぶれ。並んでいる間に夕食を食べる。

映画について

福建省にある京劇の劇団の話で、主演は台湾の俳優、楊貴媚と趙文瑄。主人公の楊貴媚は、夫のやっている食堂を切り盛りしながら、あまり仕事のない京劇の劇団を主宰している。若い頃知り合いだった趙文瑄との再会を軸に、劇団の興行、実業家として成功した趙文瑄の生活、子供の進学などが淡々と描かれる。再会したふたりはカラオケに行ってダンスをしたりするのだが、別に不倫に走ったりするわけではない。日々の生活の風景のなかに、現代中国において変わりつつあるものと変わらないものの姿が織り込まれいる。

凝った作りであった「ジャスト・ライク・ウェザー」に比べると、非常にオーソドックスな作りで驚いたが、地味ながら佳作である。ただし、趙文瑄はミス・キャストではないだろうか。洗練されすぎていて、今は実業家とはいえ、福建省の田舎の元人形劇団員にはとても見えないのだ。

ティーチイン

上映後のティーチインは方育平監督のみ。監督はFILAのブルーのブルゾンにコーデュロイ・パンツ。かなりリラックスした雰囲気で、常に微笑みをたたえ(というよりは、にやにや笑っていると言った方がいいが)、精力的に語ってくれた。放っておくと、質問から離れていくらでも喋っており、下手な質問をするより勝手に喋ってもらった方がよかったのではないかと思われる。英語だったのだが、通訳に背景知識が不足しており、監督の意図するところを正確に伝えられない場面が多かったのが残念だ。


↑ドゥ・マゴで逢いましょう'97→11月2日
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作成日:1997年11月5日(水)
更新日:2004年12月13日(月)