ドゥ・マゴで逢いましょう2002
2002年11月3日(日)
11月3日、日曜日。晴れ。映画祭日和。
引き金 ◇ 扣板機 ◇ The Trigger 今日の1本目、映画祭7本目は、アジアの風部門の台湾映画『引き金』。監督の楊順清は、『牯嶺街少年殺人事件』の脚本家ということで、出演者を含め、楊徳昌や陳以文との類似点、共通点が随所に見られる。
引退した殺し屋、母親が蒸発した少年、複雑な家庭に育った少女、その親たち。彼らの出会いと過去の因縁、そして一丁の拳銃から悲劇が起こる。なんといっても主人公の元殺し屋がかっこいい。見た目は太ったかっこ悪いおっさんなのに、かっこいい生き方が外見に滲み出ている。静かなたたずまいながら、圧倒的な存在感を示す。ロングショットと暗めのトーンもなかなかよかった。
台湾では、ヤクザ映画ではない普通の映画にヤクザが頻繁に登場する。何人かの監督が、庶民の生活にとってヤクザは身近な存在だと語っているが、そういうものなのだろうか。また、政治家、ヤクザ、警察の癒着も台湾映画によく出てくるものであり、この映画にもごく当然のように描かれている。
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ぶらぶら歩いていて見つけた澳門という店で昼食を食べる。澳門料理ではなく、東〜東南アジア料理だ。辛い麻婆豆腐は、わりと本格的っぽくておいしかったが、わざわざ「辛い」とつけているわりには辛くなく、もう少し山椒が効いていてほしい。広いお店なのに、すごくすいていたのが気になる。
密愛 ◇ Mil-ae ◇ Ardor 今日の2本目、映画祭8本目は、アジアの風部門の韓国映画『密愛』。『ナヌムの家』シリーズの邊永[女主]監督の初めての劇映画であり、金允珍が脱ぐというのも話題である。
主婦の不倫を通して女性の自立を描いた映画。夫の浮気のショックから立ち直れない主婦が、医者からもちかけられた期間限定の恋愛ゲームにのめり込んでいき、やがて村人や夫に知れて引き返せなくなるまでを、彼女の行動を通して描いている。それは、自分を幸福な家庭の主婦という枠にはめることで失ってきた自分自身を取り戻す過程でもあり、不倫相手も家庭も無くすという来たるべき衝撃を乗り越えていくだけの力を養う過程でもある。主人公の主婦を演じる金允珍は、『シュリ』では全くいいとは思わなかったが、今回は平凡な女性の非凡な行動を等身大に演じて、ナマナマしくリアルな存在感を示している。一方、不倫相手の方はちょっと怪しすぎて役不足な感じだ。何度か登場する峠のお店のたたずまいがよかった。
ティーチ・インには、邊永[女主]監督と金允珍が登場した。
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そんなにお腹がすいていないので、PARCOの上の雲呑麺屋、池記へ初めて行く。雲呑麺は香港の名物で、おいしい店もあるのだが、わざわざ日本でまで食べるものでもないと思う。独特の細い麺があまり好きではないし、雲呑に蝦が入っているのも嫌だ。この店には豆花があり、その点はよい。
復讐者に憐れみを ◇ Sympathy for Mr. Vengeance 今日の3本目、映画祭最後の作品は、アジアの風部門の韓国映画『復讐者に憐れみを』。『JSA』の朴贊郁監督の新作である。
上映の前に、アジア映画賞授賞式が行われた。候補作の中では『シーディンの夏』がイチ押しだったが、未見の『この翼で飛べたら』が受賞した。『夜を賭けて』と接戦だったということである。
この手の式典には、毎回観客の多くがうんざりしているのに、それらの声は届いていないらしく、3年前とほとんど変わっていなかった。前置きは賞の趣旨と候補作の簡潔な紹介で十分だと思うが、そのほかに実行委員長と渋谷区長の挨拶がある。内容はない。司会の人はいつもティーチ・インで「質問は手短に」と言っているので、「挨拶は手短に」と言ってほしいものである。通訳も、「通訳するほどの内容がないので省略」などと言ってみてはどうだろうか。結果発表のあとは審査委員長の講評があったが、これがまた全然講評になっていない。ちなみに大辞林で「講評」をひくと「理由を示しつつ批評すること」とある。
映画は、誘拐された娘を失った会社社長の復讐劇。社長が復讐しようとする誘拐犯もまた、お金を騙し取ったニセ臓器斡旋業者に復讐するという、複数の復讐が互いに絡み合って進行するところがユニークである。男が姉の腎臓移植のためのお金を騙し取られたところで歯車が狂い始め、身代金のために少女を誘拐すると、あとはまるであらかじめプログラミングされているかのように、姉の自殺→少女の事故死→復讐と連鎖していく。映画はただそれを傍観するのみである。復讐の輪が閉じることで、社会は何も変わらず、何事もなかったように明日がくるのだろうと感じられて、やりきれなさと無力感が残る。
ところで、ここ数年(少なくとも日本では)、「被害者の家族」というものが注目を浴びている。突然犯罪の被害にあってしまった人や犯罪で家族を亡くした人は気の毒であり、その怒りややりきれなさも理解できる。しかし、やたらとマスコミに登場しては、臆面もなく「極刑を望みます」と言ったり、自分たちは正義であるかのように振舞う態度には嫌悪感をおぼえる。そういう意味で、黙って淡々と復讐を進めるこの映画の復讐者たちには、一種の共感を感じないでもなかった。
ティーチ・インには朴贊郁が登場。時間がおしていたので、挨拶もなしで質疑応答に入る慌ただしさだった。
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東京国際映画祭は、予定どおり9本の映画を観て無事に終わった。今年はお祭に参加しているという気分的な高揚はなく、普段の映画鑑賞と同じようだった。その理由として、席取りの期待と不安がなかった点、ティーチ・インを間近で見られなかった点、土日のみで平日には参加しなかった点、会場や街で映画人を見かけなかった点が挙げられる。並ぶ必要がない指定席は楽だったが、やはり希望の席に座れないのが残念だった。時間の制約は少し増えるが、指定席ではなく整理番号のほうがいいように思う。
観た作品に関しては概ね満足した。『藍色大門』が対象外になったことで、コンペティションには関心がなかったので、結果は後で公式サイトで見た。ほとんどが未見の作品なので評価のしようがないが、『恋人』のキャメラマンが優秀芸術貢献賞(あいかわらず何だかわからない賞)を受賞したのが納得いかないのと、例年は義理で日本映画に賞を与えているという印象を拭えないが、今年は中江裕司監督の映画でよかったというのが正直な感想である。
本編上映前に流されるコマーシャルの数は年々増えている。うっとおしいと思いながら見ていたのに、思わずNOVAウサギの虜になってしまった。ビミョー。
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