第15回東京国際映画祭

復讐者に憐れみを ティーチ・イン

ゲスト 朴贊郁(監督)
司会
韓国語-日本語通訳 根本理恵
日本語-英語通訳 富田香里


■観客1(日本語):今回も前作の『JSA』に続いて宋康昊氏を起用なさっていますけれども、監督からご覧になって宋氏の役者としての魅力というのを教えてください。それから、次の作品でも今後もずっと宋氏を起用するおつもりですか。
◆朴贊郁(韓国語):宋康昊さんの魅力というのは、なんといっても大げさではない演技ができるところです。非常に抑えた演技が上手な方です。そして、非常に滑稽な場面、ユーモラスな場面でも、「今自分はこういう演技をして観客を笑わせているんだ」という意識が全くない方、また悲しい場面を演じているときにも、「自分は今、観客を悲しませているんだ」と意識しない方なんですね。私はそういうことを意識して演じる俳優さんは好きではないんですが、宋康昊さんはそういうことを意識せずに完全に役柄の人物になりきって、人物の感情だけを忠実に演じようとなさるので、とても素晴らしい俳優さんだと思います。そういう観客の目をあまり意識しないという態度は、本当に素晴らしい俳優さんだと思っています。今回はちょっとドライな映画を作りたいと思っていましたので、そういった意味でも非常にいい宋康昊さんという俳優を起用できたと思っています。今後も、次回作などでも是非一緒に映画を撮りたいと思っているんですが、今宋康昊さんのギャランティが非常に高いので、起用できるかどうかはわかりません。

■観客2(日本語):いつも朴監督のラストシーンにはびっくりするんですけれども、ラストシーンを作るにあたって気をつけていることは何でしょうか。
◆朴贊郁:映画のラストシーンは一番重要だということは、すべての監督がよく認識していることだと思います。私ももちろん重要だと考えているんですが、いつも気をつけていることといいますか、目指しているのは、観客の期待から外れてみようということです。あえて努力をして外そうという気持ちはないんですが、私の好みといいますか嗜好が、そういった方が好きだということです。最後のラストシーンに関しては、今回の作品では特に、「このラストシーンが好きだ」と言ってくださる方と、「いやあまり好きではない」「嫌いだ」とか、「驚かされた」とおっしゃる方もいるんですが、いずれにしてもいい意味で観客の期待と違ったラストにしたいということをいつも考えています。
◆具体的な例を挙げますと、『JSA』においては、主演の李炳憲さんが最後は自殺をしてしまい、非常に悲しい印象を与えて終わるかに見せかけておきながら、そのあとにスチール写真が出てくるんですが、それによって「こういう幸せな時もあったんだな」ということを思わせるようにしました。今回の『復讐者に憐れみを』においては、宋康昊さんが演じる主人公が、復讐が成功したかに一応見えますけれども、最後に願いがかなったかに見えた復讐というものが、また逆転の展開で終わるという感じにしてみました。

■観客3(日本語):なぜここまで露悪的な映画を作られたんですか。それをお伺いしたいと思います。
◆朴贊郁:実は私をよく知っている人、私の身近な人は、全く反対のことをおっしゃるんですね。「なぜ『JSA』のような暖かみのある映画を作ったんですか」ということを身近な人はよく私に問いかけます。私がもともと描きたいと思っていた世界、撮りたいと思っていた映画は、今日ご覧いただいた『復讐者に憐れみを』のような作品を撮りたいと思っていました。『JSA』の監督と『JSA』の主演俳優が出るということで、前の作品を期待して来た方たちの中には、非常にがっかりしたとか、非難めいたことをおっしゃる方もいらっしゃいます。
◆韓国を含めて世界で本当にたくさんの映画が作られていますが、それらの商業映画を観るたびに考えることがあります。人生というものはとても生きがたいもの、とても暗いものであるにもかかわらず、どうしてスクリーンに出てくる人たちは非常に甘くて幸せな人生を送っているのか、そういうふうに考えます。人が生きるということは非常に辛くて過酷なことだと思います。でも商業映画はそういったことを描くことが非常に少ないので、私はそちらの方に目を向けて映画を作りたいと思っています。

■観客4(日本語):今回の『復讐者に憐れみを』では、女性の目から見て残酷というか、目を背けたくなるようなシーンがかなりあったと思うんですけれども、韓国で上映したときにそういった反響があったのかということと、『JSA』で宋康昊氏と同じく申河均氏も今回起用されているんですけれども、監督の目から見て彼はどういう俳優かを教えてください。
◆朴贊郁:一つ目のご質問からなんですが、確かに残忍なシーン、残酷なシーンがあり、それに対して顔を背けたくなる気持ちは、性別関係なく男性も女性も一緒ではないかと思います。韓国では、映画を観終わったあと、トイレに行って吐いてしまったという人もありました。私はよく日本の映画を観るんですが、日本の映画は非常に残忍なものが多いので、韓国の監督や俳優で日本の映画をたくさん観ている人たちから「日本の観客は残酷な映画、残忍な映画に慣れているから大丈夫だよ」と言われたんですけれども、今日観ていただいて、もしも不快な気持ちになってしまったら本当に申し訳ございません。
◆申河均さんという俳優は、俳優と言いますか普段の姿なんですけれども、一言で言うと非常に口数の少ない人です。でも俳優としての申河均さんは、常に新しいことをしよう、新しい演技をしようと努力する俳優さんであるといえます。いつも同じ種類の演技ではなく、毎回新しいことをやろうとなさっています。現在、別の監督でひとつ作品を撮っていて、これもちょっと奇怪な映画になりそうなんですが、彼はそこでも新しいことを試みています。
◆私が申河均さんについて非常に気に入った点があるんですが、この作品のラストのシーンは、当初は申河均さんの顔のクローズ・アップで終わる予定でした。もちろん死体ではありますが、彼の顔のアップになって終わりということで、ストーリー・ボードにもそのように書いていたんですが、撮ってみてから、「いや、このラストではなくて別のラストにしたい」というようなことをあれこれ考えまして、彼に「あなたの顔で終わるのではなくて、あなたがバラバラの死体にされて、ビニール袋に入れられているという最後で終わりにしたいんだけれども、どうか」と提案しましたら、最初は彼がきっと嫌がると思っていたんですね。俳優としては、死体であっても最後に自分の顔がクローズ・アップになって終わるというのは魅力のあることですので、残念がって嫌がるのではないかと思ったんですが、彼は逆に非常に面白いと言ってくださって、「これに自分も同意します」と言ってくださいました。そういうふうに言ってくださることも申河均さんの魅力であり、長所ではないかと思います。

■観客5(韓国語):宋康昊さんと申河均さんのお話が出たんですが、裵斗娜さんという女優についてはどう思われますか。それから裵斗娜さんが演じたヨンミという女性が所属していた組織は、警察の話によりますと一人しか構成員がいないということだったんですが、最後に出てきた方たちは誰だったのでしょうか。
◆朴贊郁:一つ目の裵斗娜さんについてですが、裵斗娜さんは韓国で一番独特な女優さん、個性的な女優さんといえると思います。技巧や技術に頼らず、自分の持っている性格で勝負してくるような、演技するようなそういう女優さんです。ある意味では単純かもしれないし、突拍子もないかもしれないんですが、同じ配役を他の女優さんにお願いしたとしたら、全く違った演技になっていただろうと思えるほど、彼女は他の女優さんとは違った演技を見せてくれます。彼女の演技は私から見ますと非常に正直な、率直な演技だと思います。
◆二つ目のご質問なんですが、警察は確かに組織の構成員は一人だと言っていましたが、あれは実は間違いだったわけですね。映画の中で刑事が言う台詞は、どうしても観ている人は信じてしまいがちだと思うんですが、刑事さんが言うことがすべて正確とは限らないということも描いてみたいと思ったんですね。構成員がヨンミ一人だということは、おそらく観客も信じていたでしょうし、映画の中の刑事さんも信じていたでしょうし、殺される宋康昊さんも信じていたと思うんですね。彼女はちょっとほら吹きなのかなと見せかけておいて、あまり中身がない人間のように思わせておいて、でもやっぱり彼女が言っていたことは本当だった、警察が言っていたことは違っていたということを、最後に提示しようと思ったわけです。傍から見て、あまり中身がないんじゃないかと思えるような人も、実は真実を語っていることがあるんだということを最後に描いてみました。

映画人は語る2002年11月3日ドゥ・マゴで逢いましょう2002
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作成日:2002年11月7日(木)
更新日:2004年11月29日(月)