第15回東京国際映画祭

密愛 ティーチ・イン

ゲスト 邊永[女主](監督)
金允珍(出演者)
司会
韓国語-日本語通訳 根本理恵
日本語-英語通訳 富田香里


■司会(日本語):まず邊永[女主]監督の方からご挨拶いただきたいと思います。よろしくお願いします。
◆邊永[女主](韓国語):本日はこの映画を観てくださいまして本当にありがとうございます。韓国での公開は来週末にスタートします。ですので、一般の方々に観ていただくのは、この東京国際映画祭が正式には初めてです。韓国でもまだマスコミの試写しか行われておりません。そういった意味でも今日皆さんに観ていただきまして本当に嬉しく思っております。この映画、気に入っていただけたら嬉しいと思います。
◆司会:それでは、ミフン役で熱演されました金允珍さんの方から、一言ご挨拶をお願いいたします。
◆金允珍(韓国語):こんにちは、金允珍です(日本語)。東京国際映画祭に呼んでいただきましたのは3回目になります。3回も呼んでいただいてたいへん嬉しく思っており、今後もまた呼んでいただけるようにがんばっていきたいと思います。ありがとうございます(日本語)。

■観客1(日本語)[→邊永[女主]]:最近日本で、このような大人の恋愛を描いた韓国映画が何本か公開されているんですが、このようなジャンルは韓国でも注目を浴びているんでしょうか。
◆邊永[女主]:テレビですとか映画などではこういった似たようなモチーフが選択されるケースは時々あります。誰もが心から好む、最高の、誰でも好きなモチーフというわけではありませんが、不倫をテーマにしたものというのは去年あたり非常に流行しました。

■観客2(日本語)[→邊永[女主]、金允珍]:まず監督には、ドキュメンタリーを撮っていらして今回こういう題材を選ばれたのは、どういう経緯だったのでしょうか。監督の方から企画を出したのか、製作会社の方から「やってみませんか」と言われたのか、この題材のどこに惹かれて撮るようになったのか、というような経緯を教えてください。金允珍さんには、女性監督と組まれてみて感じたこと、演出とか仕事のやり方とかそういったことで感じたことがあれば教えてください。
◆邊永[女主]:主に二つのいきさつが挙げられるんですが、これは実は原作の小説がありまして、原作の小説を私は大分前に読んでおりました。そのときに、これは映画にしたらいいんじゃないかと思いました。そしてもうひとつは、私は日本の従軍慰安婦のドキュメンタリーを長い間作っていたんですけれども、それはテーマそのものが政治的な意味合いを含んでおり、従軍慰安婦というのは当時日本がしたことで、「これはよくないことだ、こういった映画を作るということは正しいことだ」というふうに、誰もが支持してくださいました。それは多分にテーマそのものに正当性があったわけで、ただ私としましては、あまりにもまわりの人が、「あなたは正しい」とか、「私はあなたを支持しています」という言葉をかけてくださいましたので、だんだんそれがプレッシャーになってきて、重荷に感じてきたところも実はありました。そうしたことで、モチーフそのものが誰もが最初から支持できない、全面的に両手を挙げて「これはいいことだ」とは思えない素材からスタートしてみれば、また何か新しいものが作れるのではないかと、そういう気持ちでこのテーマを選びました。
◆金允珍:私も実はシナリオをいただく前に小説を読んでおりまして、小説を読んだときも非常に感動しました。そのあとシナリオをいただいたんですが、私に回ってきた役というのが非常に暗い感じの役で、そしてまた個人的に経験していない部分もたくさん含まれておりましたので、ちょっとプレッシャーを感じておりました。しかし、邊永[女主]監督は私に自信を与えてくださいました。監督は女性監督というよりも、そういった枠を越えて、何か私にとっては特別な監督という印象があります。長い間ドキュメンタリーを撮っていた経験があるせいか、俳優たちとも非常に深くコミュニケーションをとって、お互いの意思の疎通をはかってくださる監督です。撮影のときには特に、いつも私の力になってくださいました。

■観客3(英語)[→邊永[女主]]:最後に、惨めさから活気が始まるという、英語の台詞ですとそういうことが書いてあったんですが、実際には韓国の女性の状況というのはどうなんでしょうか。現実に女性が自立していくということはたいへんなことなんでしょうか。
◆邊永[女主]:韓国という国は、今現在は18世紀の頃の世界ではありませんので、そこまで女性が自立しにくいということはないんですが、「活力は不幸から始まる」という言葉は、私にとってはとても大事な名言のようなものですので、この女性主人公の台詞として与えてみたわけです。私はこの映画の中で、不倫ですとか風俗といったものを描くことよりも、平凡な女性の情熱を描きたいと思いました。平凡な女性の情熱がどんどん彼女を突き動かして、主人公の女性のひとつの冒険劇のようなもの、世界を冒険していくような感じで彼女は生きていますので、そういった姿を描いてみたいと思いました。この映画に出てくるミフンという女性が、韓国人のすべての女性ということではないんですが、私はこの映画を観た人たちが、ミフンという女性を通して、世界に向かって突き進んでいくような女性の姿を、非常にかっこいいとかいかしているとかいうふうに見ていただければ嬉しいと思いました。しかし、彼女にはその他にも様々な面がありまして、ちょっとすれっからしといいますか、ずる賢かったりとか、ちょっとすれているようなところもありますので、そういったいろんな彼女のヴァラエティに富んだところをこの映画の中で描いてみたいと思いました。
◆司会:允珍さんはこの質問に何かお話があるんでしょうか。
◆金允珍(英語):確かにミフンという女性は韓国の代表的な女性ということではないんですが、彼女の夫というのは初恋だったので、すべてだったんですね。その彼を失っていくということ、またその中から自分を取り戻していくということ、そういう過程を描いていると思います。
◆観客3:妻が夫に裏切られて暴力をふるわれ、病気になってしまうということがあって、彼女自身も同じことをしたわけですね。旦那さんを裏切ったわけなんですが、最後の方で、もう娘の顔も見られない、写真を持ってきていないから彼女の顔を忘れてしまうのではないかというようなことが出ていたんですが、法律的に娘さんに会ってはいけないということなんでしょうか。法律的な状況を教えてください。
◆邊永[女主]:いえ、決してそうではないですね。韓国ではああいったケースになっても、のちのち娘に会うことはできます。でもああいった表現、娘の顔を忘れてしまったらどうしようかという表現を入れたのは、いろんな意味がありました。この女性、主人公のミフンは、娘の顔を忘れることは決してないと思います。しかし彼女がそれ以前に属していた家庭という空間の中にあった持ち物ですとか品物が、彼女には全くないわけなんですね。そういった喪失感というようなものをあの台詞にこめてみました。それから娘というのはまだ小さい女性ですから、心の傷も大きいと母親から見たら思えますので、娘の心の傷を心配して、彼女はああいった台詞も言っていたと思います。韓国はああいったケースになっても、監獄に入れられたり刑務所に入れられたりということはありません。

■観客4(日本語)[→邊永[女主]]:質問は二つあるんですが、峠の休憩所のおばさんたちはあのあと助かるのでしょうか。それからもう一つ、先ほど監督の方からヴァイタリティは不幸から始まると言われていたのが、ちょうどラストで、不倫相手も死んじゃって、それでいて主人公は前向きに歩いていくようになるという象徴的なラストだったと思うんですけれども、それでいてどうしてエンドテロップが『ドナドナ』だったんだろうかと。
◆邊永[女主]:休憩所の女性がどうなったかというのは、私も実はあの場面まで撮影してソウルに戻ってきてしまったので知りません。
◆『ドナドナ』は70年代にヒットした歌なんですが、私がこの映画の中に取り入れたのは、反転の意味、相反するものをちょっとぶつけてみたかったという気持ちがあります。ミフンという女性は今まで生きた人生を少し変えましたが、その変え方というのがよかったかどうかは人によって見方が違うと思います。でも彼女自身としては非常に活気のある人生をこれから生きようとしていて、世界に向かっていこう、世界に前進していこうと彼女は考えているわけなんですね。ですから歌とはちょっと相反するかもしれないんですが、そういうことを狙ったところもあります。そういうミフンの生き方というものを、「そんな生き方は駄目だ」とか、「もう彼女の人生は終わってしまった」とか言う人たちもいるかもしれません。でもミフンという女性は、最後は自分の自由意志で生きていくということを決めて、世界と真正面から向かい合って生きていこうと考えている女性ですので、そういう姿と『ドナドナ』の歌というのが相反するようなところで逆に効果があるのではないかと思い、隠喩的な方法でこの歌を最後に取り入れてみました。

■司会:最後に、簡単に金允珍さんの方から、日本人のお客さんにこの映画のどんなところを観てもらいたいかということを一言。
◆金允珍:韓国の映画の中には、こういった一人の主人公が女性で、その映画全体を引っ張っていくような映画というのは少ないです。また女性を中心として描かれている映画というのも実は少ないです。日本の状況は私はわからないんですが、韓国はそういう状況です。ですからこの作品を日本の多くの女性に観ていただいて、共感していただければと思っております。そしてまた多くの関心を寄せてくださることを願っております。

映画人は語る2002年11月3日ドゥ・マゴで逢いましょう2002
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作成日:2002年11月6日(水)
更新日:2004年11月29日(月)