ドゥ・マゴで逢いましょう 2000 |
2000年10月28日(土) |
10月28日、土曜日。くもり。かなり寒く、映画祭日和とは言い難い。 映画は午後からなので、午前中は買い物。まずTower Recordsに行くと、なんと“花樣年華”のサントラが出ている。『ブエノスアイレス』と同様LP大のパッケージで、いきなりの大荷物。それから『愛情萬歳』のDVDと収納のための薄型CDケースを買う。DVD本体の2倍以上もあるケースは本当にアタマにくる。大きいケースを有り難がる人なんて、本当にいるんだろうか。 台湾映画の前には台湾飯、というわけで、さっそく公約の鬚鬍張魯肉飯へ行く。ひげちょう丼で準備は万全。開場1時間前くらいに渋東シネタワー3へ行くと、階段にはすでにかなりの行列ができていた。 |
ヤンヤン 夏の想い出 ◇ 一一 ◇ A One and a Two... |
映画祭1本目はシネマプリズム部門で、楊徳昌監督の新作『ヤンヤン 夏の想い出』。3年ぶりの台湾映画によるオープニングである。 ■舞台挨拶今年からシネマプリズムのコーディネータが変わり、司会は市山さんではなかった。市山さんの司会は信頼できたし、「シネマプリズムの顔」という感じで馴染んでいたので残念だ。 ゲストは、楊徳昌監督、ヤンヤンを演じた張洋洋に加え、日本人ゲーム・クリエイター、大田を演じたイッセー尾形。生楊徳昌は、1996年の『カップルズ』に次いで二度目。上映後のティーチインに参加する楊徳昌と張洋洋は型通りの簡単な挨拶だったが、舞台挨拶のみのイッセー尾形のは長め。「映画出演の機会は滅多になく、たまに出演してもかなりカットされてつぎはぎになってしまった。一度でいいからまとまった長い芝居をしたいと思っていたが、今回その念願がかなって嬉しい」といった内容。英語通訳後、楊徳昌にエラくうけていた。 ■映画について結婚式で始まり(『彼岸花』)、熱海へ行き(『東京物語』)、葬式で終わる(『小早川家の秋』)映画。 台北に暮らす三世代同居の中流家庭を舞台に、祖母が脳卒中で倒れてから亡くなるまでに、家族が体験する様々な出来事を描く。家族の各メンバーが、それぞれ家庭の外のコミュニティとの関わりの中で体験する出来事を描くことで、現代の台北の様々な状況を提示することに成功している。 一方で、脚本も映像も綿密に計算されていることにより、監督の作為が見え過ぎてしまう、つまり、登場人物や映画そのものが、作り手の思惑を越えて動いていくというところまでは行っていないという印象を受けた。そんな中で特別よかったのは長女のティンティンである。考えてみると、楊徳昌の映画ではいつも少女が素晴らしい。また、それ以上に気になったのは、メッセージやテーマを担ったような台詞が多いことだ。登場人物がやたらと饒舌だった前2作に比べて台詞が少ないために余計に目立ち、はっと醒めてしまうときがあった。 台北を舞台に二つの世代を描くという意味で、「40年後の『牯嶺街少年殺人事件』」と言えなくもないが、『牯嶺街少年殺人事件』がどちらかと言えば世代間のギャップを描いていたのに対して、本作は共通点に焦点を当てているようにも思える。 ■ティーチイン張洋洋のために出て来た、初めて見る北京語通訳はちょいと李立群に似ている気がする。楊徳昌の答えがあまりまとまっていないせいもあるのだが、相変わらず王愛美さんの通訳はよくわからない。 ◇◇◇ 雨が降り始めている。チャンパーにて夕食。ジュンバタン・メラにすべきだったと後悔する。 |
ある詩人 ◇ Puisi Tak Terkuburkan ◇ A Poet |
2本目は、Garin Nugroho監督の新作『ある詩人』。やはりシネマプリズム部門で会場も同じ。 ■映画について1965年のいわゆる「九・三〇事件」を描いた映画。「九・三〇事件」とは、陸軍内部のクーデター未遂をきっかけに、スハルトが大規模な共産党弾圧を行い、スカルノから権力を奪うに至った事件である。アチェの詩人Ibrahim Kadirが免罪で逮捕されてから釈放されるまでの留置場の再現に、彼の証言を織り交ぜたもの。留置場の再現ドラマは、Ibrahimを中心にDidongという伝統芸能が唄われるシーン、雑談などをしているシーン、処刑される人が呼び出されるシーンの繰り返しであり、繰り返されるたびに人が減っていく。 直接的なメッセージを盛り込むといった安易な形ではなく、映画に何ができるかを問う意欲的な作品である。Didong、インドネシア現代史、アチェの歴史のいずれかへの興味や知識がないととっつきにくいというのは否めないが、暗さが印象的な画面や、観ている時には単調に思われたDidongの響きが融合し、長い余韻を残す映画である。 この映画を観て、『台湾のいもっ子』[B88]という本を思い出した。台湾の白色テロの時代に無実で逮捕された著者が、自身の体験に基づいて書いた小説である。迫害の対象となった人々はほとんど殺されてしまったために、無実で逮捕された人が、釈放された後も証言者として関わっていかざるを得ないという点が共通している。 ■ティーチインゲストはGarin Nugroho監督。生Garin Nugrohoは1998年の『枕の上の葉』に続いて二度目。『枕の上の葉』のときもそうだったが、題材が社会的なために、質疑の内容が映画よりも題材に偏りがちであった。 |
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