第13回東京国際映画祭

ある詩人 ティーチイン

- 参加者(敬称略) -
ゲスト●Garin Nugroho(監督)
司会●?
インドネシア語-日本語通訳●そだふみこ(?)
日本語-英語通訳●王愛美


■観客1(日本語):自分はアチェに行ったことがあり、アチェ人の友人もいるので、ちょっと複雑な気持ちで観た。これまではこのような題材は撮れなかったはずだが、検閲はなかったのか?
◆Garin Nugroho(インドネシア語):この映画のアイデアはスハルトが退陣する前にすでにあり、プロデューサーに話をしていた。スハルト時代のインドネシアでは、共産党員だと疑われるだけで、本人はもちろん家族にも生命の危険があった。したがってプロデューサーからは、このような題材の映画を作ることは自殺行為だと言われた。そこで、ロッテルダム映画祭の助成金システムを利用して作った。映画が完成したのはスハルト退陣後なので、検閲は受けていない。
◆この事件に関しては、スハルト退陣後も賛否両論ある。イスラム教徒の間では、現在も共産党に対して悪いイメージがある。
■観客1:この映画はアチェでも上映されたのか?その反響は?
◆Garin Nugroho:今のところ、ジャワ島の大学内でしか上映していない。そのうちアチェでも上映したいと考えている。

■観客2(インドネシア語):自分はアチェについて研究しており、よくアチェに行っている。アチェの状況は昔も今も変わっていないように思われるが、アチェの現状をどう思うか?
◆Garin Nugroho:アチェの状況は、インドネシア全土で200万人の人が殺された1965年当時と変わっていないと思う。当時若者だった者が今は大人になっているが、当時と同じように若者が暴力を受けて殺されている。暴力事件で受けたトラウマが再び暴力という形で現れることにより、いつまでも恨みを残すことになっている。
◆どの民族も何らかのトラウマを抱えている。それは日本でもドイツでもインドネシアでも同じである。それらを葬り去ることはできないし、心の中に埋めておくこともできない。暴力の形で出すのではなく、何が間違っていたのかを考えることにより、トラウマを開放することが必要である。自分はこの作品を通して、芸術の中でトラウマを解放することを試みた。例えば、ヴェトナムとアメリカ間など別の問題でも、同様に暴力以外の形で膿を出す必要があると考えている。
■観客2:映画の中で、「イデオロギーとは何か」という、とても重い問いかけがあった。監督はこの問いかけにどう答えるか?
◆Garin Nugroho:とてもよい質問である。イデオロギーそのものは、重要とは考えていない。いろいろなイデオロギーが存在し、それぞれいいところがある。しかし、それがヒューマニズムと対立するとき、例えばイデオロギーのために人を殺すような場合、それはもはやイデオロギーとは言えないと思う。これは宗教についても同じである。

■観客3(日本語):何故デジタル・ヴィデオで撮ったか?そのメリットとデメリットを聞きたい。例えば、この作品は、テーマの暗さに合わせて暗さを強調している。ほとんどモノクロに近く、すばらしい映像だと思う。しかし、デジタル・ヴィデオでこのようなコントラストを出すのは難しかったのではないか?
◆Garin Nugroho:デジタル・ヴィデオを使ったのは今回が初めてであり、撮影期間は7日間である。
◆出演者の70%は実際にこの事件を体験した人であり、その記憶がトラウマになっている。事件に関する体験を話すことは、長い間抱えていたトラウマを開放する手段であり、主演のイブラヒムをはじめ、彼らは話し出したら止まらなかった。そのため、この作品のワンテイクは、平均10分から15分ととても長い。35ミリの場合はそれを止めながら撮影しなければならないが、それは無理だったというのがデジタル・ヴィデオを使った理由である。
◆ご指摘のように、色にも力を入れている。1965年当時のテレヴィは、白黒にちょっと色をつけたものだったので、その色を再現することを試みた。また、この作品が暗い詩をテーマにしたものであることも、暗い色調にした理由のひとつである。

■観客4(日本語):自分は国際交流フォーラムの者である。国際交流フォーラムでは、去年Garin Nugroho監督の特集上映を行ったが、今年またこのようなすばらしい映画が観られて嬉しい。この映画を観て、中国の文革をテーマにした映画を思い出した。中国人にとっての文革と同様、インドネシア人にとってこの事件は非常な重みを持っている。事件自体の見直し作業は現在どうなっているか?この映画が見直しのひとつのきっかけになればいいと思うが。
◆Garin Nugroho:それを期待してこの映画を作った。今の大統領が見直しの必要性を表明しており、見直しの動きはある。当時は裁判もなしに殺されており、大統領はそういった点の見直しが必要だと言っているが、国会は賛成していない。賛否両論あり、見直すべきだという意見もあれば、やはり共産党は危険分子だという意見もある。他の事件や人権問題についても同様の状況である。教育大臣も見直しの必要を表明しているが、例えばジョグジャカルタでは、いまだに共産党は殺すべきだというようなポスターが貼られているのを見かける。しかし我々は、真実の紐を解いていかなければならない。

映画人は語る2000年10月28日ドゥ・マゴで逢いましょう2000
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作成日:2000年11月6日(月)
更新日:2004年12月11日(土)