ドゥ・マゴで逢いましょう 2000

2000年11月5日(日)


11月5日、日曜日。映画祭最終日。

映画は午後からなので、鬚鬍張魯肉飯で昼食。1週間あまりの間に2度も、と思われるかもしれないが、映画祭以外の日にも行っており、実は3度目である。

ジャッキー ◇ Jacky ◇ Jacky

今日の1本目、映画祭11本目は『ジャッキー』。

■映画について

中国系移民二世のジャッキーを中心に、その家族や友人、観光客など、オランダにいる華人を描いたもの。オランダ映画というだけでもけっこう珍しいのに、ほとんど華人しか出てこないという、非常に珍しい映画。

明確なストーリーはなく、日常の断片が淡々と映し出される。母親が決めた婚約者チチが大陸から来て一緒に暮らし始めたり、友人のゲイリーが母親の誕生パーティから追い出されたりと、ジャッキーの身には一生に何度もないような大事件が起こる。しかし、何事も淡々と受け入れ、葛藤や煩悶をしないジャッキーを通すことにより、平穏で単調な日常の繰り返しのように見えてしまう。チチがしゃがんでカップ・ラーメンを食べたり、香港人観光客の女の子が「別のパンツをはきたいけれどブーツと合わない」と悩んだりする日常の一コマはものすごくリアリティがあって、私たちはそれらをまるで他人の生活を覗き見るように楽しむ。唐突に訪れるエンディングにとまどってしまうのは、いつのまにか夢中になっていた覗き見を中断させられてしまうからだ。そしてしばらくの後に、チチはあれからどうしただろうか、あのカップルはもう帰っただろうかなどと、知らぬ間に彼らの物語の続きを観たがっている自分に気づくことになる。

■ティーチイン

Fow Pyng Hu

質疑応答要旨

ゲストは監督兼主演のFow Pyng Hu。ちょいと竇唯に似ている。映画の中ではいかにも何も考えてなさそうな雰囲気を醸し出していたが、実物はもっと知的な感じで、少しイメージが違う。なかなかうまくジャッキーを演じていたんだなと思った。

『エスペランド・アル・メシアス』のティーチインの時に死んだパソコンは、帰宅後ちゃんと起動できることを確かめたのだが、今日もまた死んでしまった。リセットにも失敗したので、今日はもう使わないことにする。というわけで今日のティーチインの概要は、この後も含め、記憶に基づくものである(ので、間違い、抜け等があってもお許し下さい)。

◇◇◇

少し時間があるので、ドゥ・マゴにホット・チョコレートを飲みに行く。混んでいて室内になったこともあり、映画祭関係者は見かけなかった。

少年と兵士 ◇ Koudak va Sarbaz ◇ The Child and The Soldier

今日の2本目、映画祭12本目は『少年と兵士』。Seyyed Reza Mir-Karimi監督のティーチインがある予定だったが、中止になっていた。

■映画について

補導された少年を、兵士が少年院まで送り届けるロード・ムーヴィー。一言でいえば、反目し合う二人が徐々に心を通わせていくという、ありがちなストーリーである。

少年の必死の訴えに、途中で出会う大人たち(おそらく観客も)は皆、彼を信用し、かばうが、実はけっこう食わせ者だったり、少年にとっては権力の側である兵士が、正月休みを取ることと、故郷でのお見合いのことと、無事に兵役を終えることしか考えていないところなどは面白いのだが、ありがちな映画から一歩抜け出すためには何かが足りないという印象である。意志の強さと純真さを共に漂わせてはいるが、いまひとつ魅力に欠ける少年もひとつの原因かもしれない。

◇◇◇

ティーチインがなくなったおかげで、夕食を食べる時間ができた。急いでパスタを食べて並びに行く。予想通り、かなり混雑している。

初恋のきた道 ◇ 我的父親母親 ◇ The Road Home

今日の3本目、映画祭の最後を飾るのは張藝謀監督の新作『初恋のきた道』。シネマプリズムのクロージング作品である。

■映画について

父親の葬儀のため帰郷した青年が、棺を家まで担いで帰る伝統的な儀式をすると言い張る母親を見て、両親のなれそめに思いを馳せる。かつて母親や近所の人から聞いた話を基に、青年が想像する両親のロマンスが映画の中心である。

思い出として語られたものからさらに想像によって作り上げた世界であるため、物語は純化され、風景も若き日の母親もひたすら美しい。彼女を演ずるのは、中国映画界期待の新星、章子怡である。張藝謀にとってこの映画は、小津安二郎にとっての『晩春』、侯孝賢にとっての『好男好女』のようなものであると思う。というのは、初めて使う女優に魅了され、その美しさをフィルムに残そうとする気持ちや、監督の思い入れの強さが伝わってくる、「前のめりな映画」であるからだ。

章子怡の演技は「走る」「見る」「聞く」「待つ」の4つだけ、ということだが、特に走るシーンがよい。少女が走る映画が好き(『お引越し』とか)という私の好みもあるが、着ぶくれた格好で、長く長く走り続けるのが印象的だった。転ぶかな、転ぶかなとさんざん思わせて最後に転ぶのだが、私は転ばない方がいいと思う。また、想像シーンであることを思い出させるためか、時々青年の語りが入るのだが、映像だけで十分わかるのにそれを説明する語りになっているところが時々あり、映像にはないところだけを語るようにできなかったのかと思う。

■ティーチイン

張藝謀 中井貴一

質疑応答要旨

ゲストは張藝謀監督。生の張藝謀を見るのは初めてだが、なかなか渋いというか、独特の雰囲気を漂わせた人である。この映画はもうすぐ公開されるが、予告篇のナレーションを担当した中井貴一氏から、花束贈呈があった。

終わって劇場を出ると、花束を手に張藝謀監督を待っているFow Pyng Hu監督の姿があった。単なる一ファンという感じでまわりにとけ込んでしまっているところが微笑ましかった。

◇◇◇

家に帰って映画祭のサイトを見ると、『3人兄弟』がアジア映画賞を受賞していた。対象作は一部しか観ていないものの、まったく妥当な結果であると思う。おめでとうございます。コンペの出品作は2本しか観ていないので、結果の妥当性についてはコメントできない。

予定通りの13本を観て、今年の東京国際映画祭は終わった。あまり新たな発見はなかったが、またげきいかりなこともあったが、まあまあ満足できる内容だった。来年こそニッポン・シネマ・クラシックに期待しつつ、またドゥ・マゴで逢いましょう。


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作成日:2000年12月4日(月)
更新日:2004年12月11日(土)