第13回東京国際映画祭

初恋のきた道 ティーチイン

参加者(敬称略)
ゲスト●張藝謀(監督)
司会●金谷(?)
北京語-日本語通訳
日本語-英語通訳●山根ミッシェル


■監督(北京語):今日日本に着いたばかりである。この映画の出演者を簡単に紹介したい。若い頃の母親を演じた章子怡はこれが映画初出演である。また、年取ってからの母親を演じたのは、プロの俳優ではなく、農村で見つけた文盲のおばあさんである。

■観客1(日本語):『紅いコーリャン』や『菊豆』では、人間のよい面よりも、悪い面に大きな比重を置いて描いていたように思う。ところが今回の映画では、人を想う純粋な気持ちが中心になっている。この変化の理由は?
◆監督:一般に映画監督というものは、前とは違うものを撮りたいと考えるものだと思う。もちろん、自分好みのストーリーにしようとは思うが、それだけではなく、これを観た観客も同じように感じてくれるだろうかということを自分は常に考えている。
◆この映画の場合は、散文詩のようなものを作りたいと考えた。シンプルなストーリーなので、それをどのように語るかが非常に難しかった。

■観客2(日本語):張藝謀監督の映画はいつも田舎を舞台にしている。その理由は?
◆田舎の方が好きだから。田舎にはまだ人間の情感が残っている。現在の中国の都会は東京とさほど変わらず、人間関係にも情感があまりなくなっている。
■観客2:以前は俳優として出演もしていたが、最近はしていないようだ。監督と俳優とではどちらが好きか?
◆監督:監督の方が好き。

■観客3(日本語):章子怡を選んだいきさつは?
◆監督:この映画の前に、あるコマーシャルを撮る企画があった。彼女はその時の出演候補者だったが、そのコマーシャルは結局撮られなかった。この映画を撮ることになって、主演女優を選ぶためにたくさんの女の子と面談している時、彼女のことを思い出した。全く新しいタイプの顔を探していたので、彼女を選んだ。

■観客4(日本語):この映画を観て、最初から最後まで泣いてしまった。監督は完成した映画を観て泣いたか?
◆監督:映画を撮っている最中にも、泣いてしまうことが何度かあった。1997年(?)に父親が亡くなったが、その時はヴェネツィアで『トゥーランドット』の演出をしており、死に目に会えなかった。そのような体験が映画と重なるせいかも知れない。
◆今日は、終わりの方だけ舞台の袖で観たが、音楽を聞いただけでもう感動してしまった。

■観客5(日本語):張藝謀監督は常に自分が観たいと思う映画を作っているように思う。次はどんな映画を撮りたいと考えているか?
◆監督:次の映画はもう撮り終わり、音入れも終わっている。“幸福時光(Happy Time)”という映画で、都会を舞台にした喜劇である。中国では年末くらいに、日本では来年公開できると思う。

■観客6(日本語):シンプルなストーリーだから難しかったという話があったが、具体的にはどういう点が難しかったか?
◆監督:章子怡に与えたミッションはたった四語で説明できる。「走る」「見る」「聞く」「待つ」である。これだけを撮って作ったのだから、その困難さは想像できるだろう。

■観客7(日本語):章子怡が走って走って、でも結局間に合わない、というシーンが何度かあった。これは何か監督の体験に基づいているのか?
◆監督:映画を撮るということはこれに似ている。自分が思うとおりのものを作ろうと走り続けるが、できたものを観るといつも満足できない。しかし大事なのは結果ではなく、その走っている過程だと思う。
◆もっともこの映画の場合は、走ったのは自分ではなく章子怡なので、彼女はすごく大変だったと思う。彼女が走るシーンはそれぞれ20回くらい撮り直している。

■観客8(日本語):ロケ地が非常に美しかった。ここを選んだ理由は?
◆監督:ここは、友人と旅行した時にたまたま通りかかったところである。非常に綺麗なところなので印象に残っていた。
■観客8:ロケで苦労した点は?
◆ここは季節の変化が特徴的である。木々がまだ緑の時に撮影を始めたが、ある朝霜が降りたら、突然すべて真っ黄色に変わってしまい、緑の時に撮った部分を撮り直す必要があった。野外シーンの撮影には2週間くらいかけている。

■観客9(日本語):この映画を観て、『紅いコーリャン』や『菊豆』を観たときに感じた疑問が再びわいた。張藝謀監督の映画では、女性は皆たいへんな美女なのに、相手の男性はあまりぱっとしない。この映画では、章子怡が新しく来た教師に一目惚れするが、どう考えても逆である。教師が章子怡に一目惚れするのなら納得できるが、彼女があの男に一目惚れするのは釈然としない。
◆監督:自分は、あの教師役の俳優もなかなかいいと思う。
◆実は中国でも同じようなことを指摘された。あんなに可愛い女性がいるのなら、喜んで僻地の学校の教師になるという意見もあった。

■観客10(日本語):以前『スパイシー・ラブ・スープ』という麻辣燙を主題にした中国映画を観たし、この映画でも料理が重要な役割を担っている。ヨーロッパには、「男性の心を射止めるには胃袋を通過しなければ駄目だ」という意味の諺があるが、中国でもやはり料理は男性の心を掴むのに重要か?
◆監督:十数年前までは中国でもそうだったと思う。現在は全く逆で、男性が女性に料理を作ってあげるようになっている。
◆余談だが、自分は日本のラーメンが大好物で、さっきも食べに行ってきた。

映画人は語る2000年11月5日ドゥ・マゴで逢いましょう2000
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作成日:2000年11月21日(火)
更新日:2004年12月11日(土)