第12回東京国際映画祭

風が吹くままティーチイン

参加者(敬称略)
ゲスト●Behzad Dourani(主演男優)
司会●市山尚三、ペルシャ語-日本語通訳


■司会:Abbas Kiarostami監督は、多忙のため来日できない。ゲストのBehzad Douraniはプロの俳優ではなく、この映画の撮影監督Mahmoud Kalariの助手である。

■観客1(日本語):質問ではないが感想を言わせてほしい。絵画のような映画。イランの風景や動物などの各画面が素晴らしい一枚の絵のようであり、キアロスタミ美術館を散策するような作品だった。

■観客2(日本語):演技指導について。Abbas Kiarostami監督は、感情の面から演技指導をするのか、それとも動きのみを演技指導するのか? 例えば、「ここは怒りの感情で」という感じなのか、「右を見ろ」という感じなのか。
◆Behzad Dourani(ペルシャ語):細かい演技指導はせず、「カメラの前でふつうに演じてくれ」と言われた。もちろん演じるための情報はくれる。いい経験になって楽しかった。

■観客3(日本語):撮影に入る前に、監督からどのようにこの映画のテーマを教えられたのか。
◆Behzad Dourani:テヘランから撮影現場に行く車の中で、2行くらいの説明を受けた。「おばあさんが死んでお葬式の取材に行く監督の話」という程度。おばあさんだということもはっきりとは聞いていなかったので、途中まではおじいさんだと思っていた。
■観客3:撮影中に苦労したことは?
◆Behzad Dourani:自分は普段の生活でも落ち着きがないので、動きには苦労しなかった。風景がきれいなところだったので、撮影は楽しかった。泊まった場所はあまりよくなかったが、監督のそばにいられて苦痛ではなかった。
■司会:撮影の場所はイランのどのあたりか?
◆Behzad Dourani:テヘランから700キロのところにある村である。映画の中でも700キロと言っているが、本当にそうである。イラン西部のコルデスタン州というところ。

■観客4(日本語):Abbas Kiarostami監督が来られなくて残念だ。どういう経緯でこの映画の主役になったのか。
◆Behzad Dourani:ダリウシュ・メールジュイ監督の映画の撮影現場にKiarostami監督がやって来て、自分のことをじろじろ見ていた。Kiarostamiがメールジュイ監督に打診したところ、本人に聞けということだったので、直接「映画に出ないか」と言われた。彼のことはもちろん知っていたが、会ったのはこのときが初めて。喜んで、すぐに「出る」と答えた。
■観客4:この映画に出演して、生活や仕事で変わったことはあるか?
◆Behzad Dourani:生活は別に変わりはない。ただ映画に出るという経験ができて嬉しい。
■司会:他の監督から出てくれと言われたらどうする?
◆Behzad Dourani:Kiarostamiに誘われたら出る。他の監督なら出ない。

■観客5(日本語):イラン映画は、時間がゆったり流れているのが印象的。この映画も、おばあさんが死ぬのを待つという気長な話である。実際の撮影もゆったりした雰囲気だったのか?
◆Behzad Dourani:クルーとして一緒に仕事したことがある他の監督と比べて、Kiarostamiはリラックスして映画を撮っている。そのような監督の雰囲気が他の人にも伝わり、映画と同じリズムを現場でも感じた。
■司会:撮影日数は?
◆Behzad Dourani:72日。その間ずっとコルデスタン州に滞在していた。

■観客6(日本語):ストーリーについてであるが、Behzad Douraniが演じた監督がファザード少年と喧嘩したまま、最後まで仲直りをしなかったのが心残りである。これは監督の意図か? これまでの作品と同じようにドキュメンタリー的なリアリティを持たせようとしたのか?
◆Behzad Dourani:ファザードは本当に怒っていて、絶交したような状態になっていたが、撮影が終わった後、事情を説明して仲直りした。

■観客7(日本語):プロの俳優ではないとは信じられないほどうまかった。映画の仕事をしているのでやりやすかったと思うが、他の出演者が素人なのでやりにくかったことや苦労したことはあるか?
◆Behzad Dourani:自分は撮影助手の経験が長く、いつも俳優の演技を近くで撮っているので、演技はそれほど難しくなかった。村の人たちの場合はいろいろ苦労があった。ちょうど収穫の時期だったので、彼らは撮影より自分の仕事が大事だった。例えば、カフェに座っている役のおじさんは、1テイク撮っただけで仕事に戻ってしまい、また翌日来るという感じだった。

■観客8(日本語):最初の質問者は美術館のようだと言っていたが、自分は賛成しない。動きがある部分が面白いと思う。例えば、車が走るところや、人が階段を降りるところ。Kiarostamiの映画のカメラワークについてどう思うか? もっと具体的には、丘の上で穴の中で働いている人と話すシーンで相手は本当に穴の中にいたのかとか、オープニングの車中の会話は同時録音ではなくスタジオで撮ったのかなどを聞きたい。
◆Behzad Dourani:Mahmoud Kalariは、車が動いているところなどの撮影の経験が豊富なので、彼の経験が役に立ったのではないかと思う。
◆井戸のシーンは、井戸の中には誰もいなくて、ひとりで井戸に向かって話していた。撮影では、井戸の中から聞こえるはずの台詞をKiarostamiが言ってくれていた。
◆オープニングのシーンは同時録音である。ただし監督の気に入らないところがあり、その部分をスタジオで撮り直している。

■観客9(日本語):穴の中にいる人は、最初は電話線を埋めていると言い、次は井戸を掘っていると言っており、最後には、墓を掘っている男が生き埋めになったと言われている。彼は本当は何をしていたのか?
◆通訳:自分はこの映画の字幕を担当しているが、お墓を掘っているとは言っていなかったはずである。
◆Behzad Dourani:墓地で井戸を掘っていると言っていた。

映画人は語る1999年11月7日ドゥ・マゴで逢いましょう'99
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作成日: 1999年11月10日(水)
更新日:2004年12月11日(土)