ドゥ・マゴで逢いましょう'99
1999年11月7日(日)
11月7日、日曜日。くもり。
iモードで見つけたイタリア料理屋でランチを食べてからシアターコクーンへ。
シチリア! ◇ Sicilia! 通算12本目は、シネマプリズムで、Jean-Marie Straub&Daniele Huillet監督の『シチリア!』。彼らの映画はかなり昔に2本観たきりなので、今日は久しぶりである。一昨年だったか特集上映があったりしてちょっとブームという感じもあり、会場は満員。
■映画について
故郷のシチリアに帰ってきた男が母親を訪ねる話。1939年の小説の映画化で、映画の前に舞台劇にもしているらしい。これといったストーリーはなく、男が道中出会う様々な人々 - 港の物売り、列車で相席になった人たち、再会した母親、ナイフ砥ぎなどと次々会話するだけなのだが、これがなかなかおもしろかった。男の足取りを追っていくドキュメンタリー風の構成と、母親やナイフ砥ぎの朗読調の芝居がかった喋りのミスマッチもおもしろい。シチリアの太陽を想像させるコントラストの強いモノクロ映像が美しく、時おり挿入される動かない風景がすごくよい。昨日の2本の後では、思わず「こういうのが映画なんだよなぁ」とつぶやきそうになる。
◇◇◇
『ドゥ・マゴ』へホット・チョコレートを飲みに行く。『ルナ・パパ』のBakhtiar Khudoinazarov監督と、ヒロインの兄を演じていたMoritz Bleibtreuを発見した。閉会式の前にちょっと一服といったところだろうか。ここで批評家以外の有名人を見るのは楊徳昌以来だ。目ざとく見つけて写真を撮らせてもらっているおじさんなどを遠巻きに眺める。夕食を買い、再びシアターコクーンへ並びに行く。
風が吹くまま ◇ Bad Ma Ra Khahad Bord ◇ The Wind Will Carry Us 通算13本目、今年の映画祭最後の作品は、Abbas Kiarostami監督の新作『風が吹くまま』。シネマプリズムのクロージング作品である。このチケットは速攻で売り切れていたので、かなり早く並びに行って行列の比較的前の方につく。一般公開ももうすぐなのに、当日券の列もかなりすごいことになっていた。会場に入ると、『キシュ島の物語』の監督のひとり、Nasser Taghvai監督が来ているらしく、人垣ができていた。『キシュ島の物語』は観たかったのだが、甘くみて昼過ぎに行ったら売り切れていたのだった。
■映画について
老婆の葬式を撮りに僻地のクルドの村へ行ったテレビの監督が、老婆が死ぬのを待つ数日の話。Kiarostami監督の映画は、一般的な水準からいえばどれもよいのだが、『オリーブの林をぬけて』はちょっとマンネリ気味で、『桜桃の味』は内省的すぎると感じられ、ちょっと心配だった。しかし『風が吹くまま』は、そんな心配をあっさりと吹き飛ばす傑作だった。辺境の村での取材という非日常的な体験をしに来たはずが、老婆の死を待つうちに、携帯電話で話すために丘の上に行ったり、そこで穴を掘っている人と話したり、老婆の孫の少年に会いに行ったりを繰り返し、日常生活のようなものが構築されていくのがおもしろい。監督が持ち込む西洋近代文明的なものと村の素朴な生活との対比や、画面に映っていない相手との対話もおもしろい。ロケ地がまたすばらしく、白い壁の間のちょっと曲がった路地を監督や少年が抜けていくところなんかが実にいい。生命の躍動感のようなものが全編に感じられ、死と隣り合わせの内容でありながら、幸福感に満たされる映画である。それはこのような映画を観られることの幸福感でもある。
■ティーチイン
観客に西洋人がいなかったのか、始まる前に市山さんが「英語通訳が必要な人はいるか?」と聞き(最初、日本語で聞いたのには驚いたが)、いなかったので英語通訳はお役御免となった。おかげで内容が増えてよかった。ゲストは主演のBehzad Douraniで、本業は撮影助手だそうだ。ハゲだけど、映画の中ではけっこう渋いおじさんだったのだが、今日はスーツが似合っていなくてかなり見劣りした。でも、Kiarostamiを尊敬していて彼の映画に出られたことを喜んでいる様子が素直に伝わってきてよかった。ペルシャ語通訳の女性はもう5年くらい毎年出てきていると思うが、日本語がちっともうまくならない。イラン映画の字幕の仕事などもやっているようだが、日本語で何と言っているのか聞き取れないのは困ったものである。そういうわけで、ティーチインの要旨はかなり私の解釈が入っている。間違っていたらお許し下さい。
◇◇◇
映画祭最終日は、昨日と一転して当たり日で、気持ちのよいエンディングとなった。家に帰って東京国際映画祭のサイトを見ると、私のイチ押しの『ダークネス&ライト』が、東京グランプリと賞金1000万円の東京ゴールド賞をダブル受賞していた。恭喜、恭喜! 何か獲るんじゃないかと思った『ルナ・パパ』は最優秀芸術貢献賞を受賞していた。どの映画祭にも似たような賞があるが、どう評価していいかよくわからない映画に与えられるような気がする。
今年の映画祭を振り返ってみると、大満足とはいかないまでも、地味ながらけっこう満足のいく内容だった。しかし、やはりニッポン・シネマ・クラシックはやってほしい。ゲストの話などを聞いていて時々感じるのだが、伝統も権威もない東京国際映画祭にいろいろな映画人が参加してくれるのは、日本が小津や黒澤の国だから、あるいは高倉健や小林旭の国だからである。海外の映画祭でユニークな日本映画特集が組まれるなか、日本で最大の映画祭がこれでは寂しすぎるのではないか。
いろいろ文句を言うのは簡単だが、せっかく身近なところで映画祭が開催されるのだから、できるだけ参加して盛りたてていけたらいい、というのが私のスタンスである。来年もまた、ドゥ・マゴで逢いましょう。
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