ドゥ・マゴで逢いましょう2003 2003年11月4日(火)11月4日、火曜日。有給休暇。くもり。
今日の1本目、映画祭通算10本目は、アジアの風部門の『I LOVE YOU』。中国新勢力特集の1本で、張元の新作である。 お互いをよく知らないまま結婚した若いカップルが、壮絶な夫婦喧嘩を繰り返した挙句に別れるまでを、ドキュメンタリー・タッチで描いた映画。夫婦喧嘩は犬も食わないと言うが、これは夫婦喧嘩を魅せる映画である。ほとんどアドリブだったという演技とシンプルで力強いタッチとによって画面に緊張感がみなぎって、思わず「どうなるんだろう?」と引き込まれてしまう。 妻はヒステリーで、火をつけたり縛ったりといった極端な行動を取る。夫はちょっとうまくいかないとすぐに逃げ出そうとするタイプで、努力して何かを築き上げるということができない人間である。しかも無職になっても家事もしないばかりか、自分は悪くなかったと言い切るどうしようもない男である。だからどちらにも感情移入はできない。ふたりともどうしようもなく愚かで、その愚かさを描いた映画ともいえるが、観終わると、彼らの愚かさにある種の共感のようなものを感じさせられる。 張元の映画はほとんど観ている。特別好きというわけではないが、最近は、一作ごとに次が楽しみになっていくように感じていて、この映画で本当に目の離せない監督になったという気がする。その勢いみたいなものが、新人監督たちと並んで中国新勢力特集に取り上げられた理由なのかもしれない。 主演の徐静蕾は、中国の四大名旦のひとり。日本ではまだほとんど知られていないが、今回の映画祭では主演作が一挙に3作も上映されるという、強力な売り出しぶりである。渡辺満里奈と原田知世を足してもう少しシンプルにしたような感じで、4人の中では周迅の次にいいと思う。 ◇◇◇ はなまるうどんで安上がりに昼食。
今日の2本目、映画祭通算11本目は、やはりアジアの風部門の『私とパパ』。これも中国新勢力特集の1本で、徐静蕾の初監督作品。 母親を亡くした高校生の女の子(徐静蕾)が、父親に引き取られてから父親が死ぬまでのふたりの暮らしを綴ったもの。片親で育って母親に死なれ、引き取ってくれた父親は刑務所に入り、若くして結婚した相手とは妊娠中に離婚、生まれた子供は体が弱く、父親は病気で倒れ、父親と子供の生活がすべて自分にかかってくる、というのが徐静蕾の半生である。こうやって書き並べてみると、とてつもなくドラマティックかつ悲惨なものだ。一歩間違うと、女の一生という感じの大河メロドラマになりかねないが、この映画では全く悲惨さを感じさせない。『私とパパ』というタイトルどおり、父親との生活に絞って離れている期間はばっさり飛ばし、全体に淡々と描いているのがよい。 親戚にも心を開かない徐静蕾が、父親とは意気投合してけっこううまくやっていくところは、池部良の声で「血だな」と言ってしまいそうである(私はそういうのは信じないけど)。観終わったあとの印象がちょっと弱い感じはするが、徐静蕾はこんな映画を撮ったり、『I LOVE YOU』みたいな変な映画に出たり、今後が楽しみな人である。 ◇◇◇ キル・ビル次の予定まで時間があいているので、今日の3本目として『キル・ビル』を観に行く。本当は今週中に『修羅雪姫』を予習して[1]、土曜日に観ようと思っていたが、ちょうど時間が合うので行ってしまった。今日は平日なのに渋谷は人がいっぱいで、映画館も満席に近い状態。いったいどうなってるの? 映画はすごくおもしろかったが、ツボにははまらなかった。立ち回りをはじめとして、日本映画から取ってきている部分が全然かっこよくない。その理由はたぶん、劇画っぽい描き方と、Tarantinoと私の好みの違いと、準備不足にあるのだろうと思う。 劇画っぽい描き方は、暴力の持つ後味の悪さを全く出さずに、血がどばっと出たり部品が飛んだりするのを描くのに成功している。一方、静と動のバランスで決まる立ち回りをかっこよく描くのには不向きだ。私は日本映画も深作欣二も好きだが、Tarantinoが多く参照している70年代というのは、観ている本数も少ないし、興味も薄い。千葉ちゃんの登場が、Tarantinoと私との好みの違いを象徴していると思う(丹波を出せ、と言いたい)。さらに、いくらTarantinoが日本映画に精通していても、アメリカの女優に着物での立ち居振る舞いをさせたり、かっこよくチャンバラをやらせたりするには、相当の準備期間が必要だろう。『ジャッキー・ブラウン』のPam Grierがすごくかっこよかったように、B級ネタをかっこよく料理してみせるのがTarantinoの存在価値だと思うので、やはり残念ではある。 かつてのTarantinoは、あふれる才能の中にオタク趣味を散りばめているという感じだったが、今回はただのオタクという感じである。でもそれはそれでよくて、観る側に好き嫌いがあって当然だ。世間では賛否両論の議論がわき起こっているようだが、リアリティの面からこの映画を批判することも、「この映画がわからないやつは映画がわからない」と言うことも、見当はずれで馬鹿げている。 ◇◇◇ 夕食は、チャンパーでタイ料理を食べる。
今日の4本目、映画祭通算12本目は、ユーロスペースで『アラブの嵐』。協賛企画の中平康レトロスペクティブの1本である。 主演は石原裕次郎。中平康レトロスペクティブでは裕次郎ものを何本か観ているが、私は石原裕次郎が嫌いである(むろん、兄はもっと嫌いである)。それなのに観ているのは、J先生が芦川いづみファンだからである。芦川いづみと裕次郎はよく共演しているので、付き合いで観る機会が多い。本作もふたりの共演作なのだが、観ようと思ったのには別の理由がある。この映画がエジプト・ロケ映画、すなわち海外で撮影された日本映画だからである。 映画は、偶然カイロへ行った裕次郎が、独立騒ぎに巻き込まれるというもの。はっきり言ってあまり面白くない。話の設定は、実際のエジプトの状況とは全く関係なく、ロケするために適当に作った話である(たぶん)。タイトルから、サハラ砂漠の砂嵐の中、派手なアクション・シーンが展開する冒険活劇を勝手に期待していたら、全然違っていた。カイロ市内の有名な場所などが映るたびに、「ロケ地めぐりをしなさい」と言わんばかりにテロップが出る。カイロへ行ったことがないせいもあるが、それらの場所が効果的に使われているようにも思われない(しかしもちろん、行く機会があったらロケ地めぐりをするだろう)。 昔の合作映画や海外ロケ映画は、しばしば日本人の俳優しか登場しないことが問題とされる。この映画には現地の俳優らしき人が多く出演しているが、当地のスターが出ているわけでもなさそうだし、変な吹き替えの中途半端なものである。これなら白木マリがやったほうが嬉しいじゃないかなどと思ってしまった。
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