第16回東京国際映画祭

さらば、龍門客棧 ティーチ・イン

開催日 2003年11月1日(土)
場所 シアターコクーン
ゲスト 蔡明亮(監督)
李康生(出演者)
三田村恭伸(出演者)
梁宏志(製作)
司会 伊藤さとり
北京語-日本語通訳 樋口裕子
日本語-英語通訳 松下由美


司会(日本語):さっそく皆さんからご挨拶をいただきたいと思います。まずは蔡明亮監督、ご挨拶よろしくお願いします。
蔡明亮(北京語):今日、最新作のこの作品を持って東京に来られたことを、とても嬉しく思います。私の第1作の『青春神話』は、この東京で賞をいただきました。1992年に私が最初に東京へ来たとき、映画祭の審査員を務めておられたのが張國榮レスリー・チャンさんでした。非常に残念なことに、この新作の『さらば、龍門客棧』を撮り始めた一日目に、張國榮さんがお亡くなりになられました。ここで皆さんと一緒に、張國榮さん、この大スターを偲びたいと思います。皆さんにとっても、私にとっても、大切な友人だったと思います。
◆この作品の中で観ていただきましたのは、胡金銓キン・フー監督の『龍門客棧』です。その中で主演していたのが、この作品にも出ていただいたおふたりの方、石雋さんと苗天さんです。もうおふたりともかなりご高齢になられています。このおふたりが最初に主演した映画が、この胡金銓監督の『龍門客棧』でした。私はこの映画を演出するにあたって、このおふたりに非常に残酷なことをしたと思います。それは、人のほとんどいない古びた映画館で、このおふたりに30年前に自らが出演した映画を観てもらったということです。しかし私はまた、現実というものは非常に残酷なものだと思います。
◆映画というものは、私たちに本当に美しい思い出を与えてくれます。この古びた映画館が私に向かって、自分を撮ってほしいと呼びかけているように感じたので、私はこの作品を撮りました。皆さんに気に入っていただけたら嬉しく思います。どうもありがとうございました。

司会:それでは梁宏志プロデューサー、よろしくお願いします。
梁宏志(北京語):こんなにたくさんの皆さんが私たちの映画を観てくださったということ、本当にびっくりしております。私たちはこういった作品を撮り続けていきます。監督と一緒にもっといい映画を撮っていきたいと思いますので、これからもますます応援してください。よろしくお願いします。ありがとうございました。

司会:李康生さんです。よろしくお願いします。
李康生(北京語):2年ぶりでまた東京に来られ、皆さんとお会いできて、本当に嬉しく思います。私はこの映画の中で映写技師の役を演じているわけですが、さっきの上映は私が映写をしたわけではありません。このあと2時から始まります映画『不見』は、私自身が監督した作品ですので、どうぞ皆さん、引き続き観てください。
蔡明亮:私から、李康生監督の『不見』がとてもすばらしい作品だということを、皆さんにお伝えしたいと思います。『不見』は最近、韓国の釜山で大賞を獲りました。

蔡明亮:日本には私のファンの方がたくさんいてくださって非常に嬉しいんですが、今日もこんなにたくさんの方に来ていただいて本当にありがとうございます。その多くのファンの中のおひとりで、もう何年前か忘れましたが、私が東京に来ている映画祭で私の映画が上映されるたびに、いつも最前列に座って観てくださった方がいます。この数年、この方は毎年数日間休みを取って、台湾に私と李康生さんに会いに来てくれて、私たちはすっかり友達になりました。しかし、彼が私の映画の出演者になるとは思いもしませんでした。その方が今日来ていらっしゃるかどうか…。三田村恭伸さん、いらっしゃいますか?
司会:それではあらためてお迎えしたいと思います。三田村恭伸さんです。それではご挨拶をお願いしましょうか。
三田村恭伸(日本語):はじめまして、三田村恭伸と申します。撮影は4月の頭に台湾で行ったんですけれど、初めて参加して、恐ろしい環境の中で生活していかなきゃいけないんじゃないかって怖かったんですけれど、すごいあったかい中で撮影を続けることができました。撮影が終わるにつれ、5日、4日、3日、2日となっていくと、だんだん自分のテンションも上がってきて、朝になると、すごく「時間が止まってほしいなぁ、このままずっと止まっててほしい」って思いました。今まで学生時代とかも、そんなことは一度もなかったんですけれど、朝になると涙が出てしまったような記憶がいまだにずっとあります。もしかしたらただ劇場に取り憑かれて、ここにいたかったのかもしれないんですけれど、時間がずっと止まっていてほしかったですね。李康生さん、蔡監督、梁さん、ここに来られなかった台湾のスタッフ。本当にあったかい雰囲気の中で、ひとつのわっかになって頂点に向けて上昇していけるという感じ、それぞれが別の矢印じゃなくて、リンクになってつながっていくというのを肌で感じて、仲良く一緒にわっかになっていけるという感じでよかったなと感じています。

観客1(日本語)[→蔡明亮]:“Goodbye, Dragon Inn”、たいへん楽しい映画で好きになりました。『龍門客棧』という映画が全編を通して流れていましたが、古い映画が流れているということで、監督の何年か前の作品の『Hole』もそうだったんですけれど、小さいときにお聴きになられた音楽や映画が映画に使われているのは、監督のそんな作品へのオマージュや、何か思い入れがあるのでしょうか?
蔡明亮:『龍門客棧』という胡金銓監督の作品をこの映画の中で流しているわけですが、あらためてすべてのスタッフのクレジットを流したのは、その時代に生きていたこの人たち、一生懸命映画づくりに励んでいた人たちへのオマージュにほかなりません。
◆私は11歳の時、マレイシアでこの『龍門客棧』を初めて観ました。私はカンフー映画を数百本観ていますが、『龍門客棧』は、その中で最も印象に残るすばらしい作品です。
◆おそらく皆さんも感じていらっしゃると思いますが、胡金銓監督のカンフー映画は、ほかのカンフー映画とは全く雰囲気が違います。胡金銓の映画には、踊りのような優雅な雰囲気があります。胡金銓監督の映画に登場する人物は、非常にリアルで、生活感を感じさせます。決して飛んだりはしないんですが、非常にリアルな人物に仕上がっています。36年経って、また胡金銓監督の作品を観て、今観ても非常にすばらしいということは、あらためて言うまでもないと思います。
◆ちょっとおもしろいのではないかと思うのは、胡金銓監督の作品と、私の非常にリズムのゆったりした作品とを一緒にご覧になって、どういう感じを持たれたでしょうか。今ご質問いただいた女性の方に時計をプレゼントしたいと思います。
◆司会:時間がないんですけど、せっかくなので、監督に、観てどう思ったか。そのリズミカルな部分とかは。
観客1:監督の映画は全部観ているんですけれど、たいへん台詞が少ないですね。今回、監督の作品の中で一番台詞が少なくて、かつ一番台詞が多い映画だと思いました。
蔡明亮:その問題については、もう10年くらい答え続けているので…。ひとついい方法を思いついたんですが、今度は逆に観客に聞こうと。あんなに台詞のある映画を観て、「どうしてこんなに台詞がいっぱいあるんでしょうね」と聞いてみたいと思います。

観客2(日本語)[→蔡明亮]:この映画の主人公は、ズバリ映画ですか。1
蔡明亮:全くそのとおりです。人物が映っていないショットを観ていただくとわかるんですが、観客はみんな立ってしまって、1000くらいの客席が整然としてある中から、この映画館の古い顔がゆっくりと見えてきます。この映画館の、人がすっかりいなくなったシーンを撮ろうとした最初は、こんなに長いシーンを撮るつもりはなかったんですが、こんなに長い時間キャメラを回してしまいました。ずっと回したあと、キャメラマンが私に「監督、もうフィルムがなくなりました」と言うぐらい回しました。私はこの映画館が本当に名残惜しくて、「惜しい、非常に惜しい」と思っていました。
◆こういう映画館は、私が幼い頃しょっちゅう足を運んでいた公共の場所の中で、一番よく行った場所なんです。しかしこういう映画館は、20数年くらいの間にだんだんとなくなってきて、今はもう本当になくなってしまいました。私が古い映画館に対して非常に感動をおぼえるのは、そういう映画館が一番隆盛を誇っていた頃、1000人以上の観客をそこに含んで映画が上映されたわけですが、それが没落していって寂しくなってしまっても、それでもやはり観客というものはまだ残っているわけです。

司会:そろそろお時間がきてしまいましたので…。せっかくいらっしゃっていただいたので、皆さんに一言ずつ言っていただけますか。
梁宏志:謝謝大家。
李康生:本当にまた東京に来られてとても嬉しいです。本当に皆さん、こんなに熱心に観てくださってありがとうございました。
三田村恭伸:すごくすばらしい作品だなって、自分が出てるとかそういうんじゃなくて、客観的に観客として観てそう思いました。どこかでまた公開する時が来たら、必ずもう1回観たい作品です。観に来てくれた人も、もう1回観たいと思ったらもう1回来てください。
蔡明亮:これまでの私の作品と同様に、この新作もすぐに日本で公開されて、皆さんにまた観ていただけることを心から願っています。でも、私もわかっていますけれども、こういう種類の映画は配給が非常に難しいです。ですから、配給会社といろいろ交渉するにあたって、どうぞ観客の皆さんの絶大なご支援をお願いします。

記録者注
1]英語通訳は、「映画」の部分をなぜか‘spirit’と訳した。北京語通訳が何と訳したのかはわからないが、蔡明亮の回答は質問者の質問の答えにはなっていないと思われる。回答を聞くかぎり、蔡明亮は「この映画の主人公は映画館ですか?」という質問に答えていると推測される。

映画人は語る2003年11月1日ドゥ・マゴで逢いましょう2003
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作成日:2003年11月14日(金)
更新日:2004年11月29日(月)