ドゥ・マゴで逢いましょう2002
2002年10月26日(土)
10月26日、土曜日。くもり時々雨。
映画祭初日は映画祭日和ではない。映画の前に鬚鬍張魯肉飯でお昼を食べる。移転後の渋谷店へ行くのは初めて。前より狭くなったが、けっこうお客さんが入っていたので安心。
僕、バカじゃない ◇ 小孩不笨 ◇ I Not Stupid 映画祭1本目は、シンガポール映画『僕、バカじゃない』。昨年までのシネマプリズムが改称されたアジアの風部門である。オープニング作品の『スリー』とどちらにするか迷ったが、シンガポール映画であることと、シングリッシュな英題に惹かれて、こちらを選択した。
映画は、EM3という落ちこぼれクラスにいる小学生3人組とその親たちをめぐるコメディ。コメディといっても脳天気なものではない。小学生の頃から成績によるふるい分けが絶え間なく行われる超競争社会、英語を偏重し、福建語や広東語を方言として周辺に追いやろうとする言語政策、おとなしく政府の言うことをきく従順な国民性など、シンガポール社会を揶揄する内容である。
英語の公用語化や徹底的にエリートを選別して育てる教育政策は、国という単位でみれば、優秀な人材を育て、欧米先進諸国に追いつくうえで、たしかに効率がよいだろう。一方で中国系、英語系、高学歴という主流派からはみ出した人々は切り捨てられ、それと引き換えに経済的な豊かさを達成してきたのがシンガポールである。この映画が大ヒットした背景には、豊かな先進国となった今、社会のひずみを見つめ、これまでの画一的な価値観を見直そうという気分があるのだろうか。この映画でまず圧倒されるのは、シンガポールの言語的多様性である。普通話(北京語)、シングリッシュ、福建語、広東語、英語。チャンポンで話す話し手、違う言語で会話する二人、相手によって使い分けられる言語。この多様性が何より貴重な財産であることを、この映画は示している。
白血病にかかった母親への骨髄の提供という出来事を通し、ヒューマニズムを持ち出してきて、とりあえずハッピーエンドにまとめてしまった点は不満が残る。ところでTerryの父親邱氏役の劉謙益は、緒形拳、南原宏治と三人兄弟であるに違いない。
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買い物をしてから、ドゥ・マゴへ行ってホット・チョコレートをすする。1日目にして鬚鬍張魯肉飯にもドゥ・マゴにも行ってしまい、目標がなくなってしまった気がする。誰か有名人が来たらしく、上の階からすごい歓声が聞こえていた。
大酔侠 ◇ 大酔侠 ◇ Come Drink with Me 映画祭2本目は、やはりアジアの風部門の『大酔侠』。「ショウ・ブラザース特集」として上映される1本で、デジタル復元版である。ショウ・ブラザーズは、自社の作品を映画祭に出したりヴィデオ化したりしないと言われていたが、セレスティアル・ピクチャーズという会社がライブラリーを買収したとのことで、どんどんデジタル復元を行うらしい。今後の回顧上映やDVD化を期待したい。
酔猫と呼ばれる男が、指揮官の妹・金燕子を助けて、盗賊を相手に活躍する武侠映画。胡金銓が『龍門客棧』の直前に撮った映画で、『龍門客棧』の習作といった感じである。似ているところが多いため、どうしても『龍門客棧』と比較してしまうが、ストーリー展開や登場人物がいまいちで、緊迫感も弱く、期待したほど面白くなかった。もちろん、胡金銓の特徴である京劇を取り入れたアクションを初めて試みた映画ということで、映画史的には重要であり、何よりこの映画があってあの大傑作『龍門客棧』が生まれたのだと思うと興味深い。
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夕食は、公園通りにできた讃岐うどんの店に行ってみる。けっこうな行列ができていたが、少し待ったら入れた。うどんは安くておいしいけれど(はづかしながらまだ本場に行ったことがないが、本物はこんなものじゃないんだろうと想像する)、副食はあまり魅力的ではなく、天ぷらも作り置きであまりおいしくない。しかしこのレベルのうどんが200円以下で食べられるとすると、社食のうどんは犯罪だ。
シーディンの夏 ◇ 石碇的夏天 ◇ Summer, Dream 映画祭3本目は、やはりアジアの風部門の台湾映画『シーディンの夏』。
映画は、不況の影響で海外遊学に行けなくなった大学生、小志の夏休みを描いたもの。両親が不在の実家に、小学校に英語を教えに来たカナダ人女性Elisaが下宿しに来て、小志とElisaとおばあさんの3人の生活が始まる。Elisaはカナダ人とはいえ北京語ペラペラでお箸も使えるので、カルチャーギャップはない。小志は同じ屋根の下にいる若い女性、Elisaが気になり、Elisaは学校がうまくいかなかったり失恋したりするのだが、事件らしい事件は起こらず、3人の日常が淡々と描かれる。
台湾の空気に充たされた映画で、最初のショットから引き込まれて目が釘付けになり、そのまま60分観終わった。石碇(台北縣石碇郷)には行ったことがないが、町の中を河が流れていて、少しだけお店があって、隣接する平溪台北縣平溪郷の平溪の町に似ている。特別美しいわけではないのに、雑貨屋のある通りの佇まいとか、主人公とElisaが座って話すところとか、家の中のちょっと薄暗い雰囲気とかがとてもよくて、そこにある空気がまるで見えるような、そんな映画である。
J氏が勝手にVOICE BARなるものを買ってきたため、今年はPCの持ち込みはやめて、これでティーチ・インを録音することにした。ティーチ・インには鄭有傑監督と主演の黄健瑋のほか、音楽を担当した高野寛が来ていた。デビュー当時はよく聴いていたのでなんとなく懐かしい。監督は子供の頃にでも日本にいたのか、日本語がとてもうまく、中国人の日本語のようではなかった。
ところで今年からほとんどの上映が指定席になった。並ぶ必要がないのは嬉しいが、どうやら真ん中より少し後ろのほうがいい席とされているらしい。発売日に並んでチケットを買った私は、これまでのところすべてそのあたりの席であり、まわりの席も早くから埋まっているので、早く買った人の列だと想像される。画面が視界以上に広がっているのが好きな私としては、こんなに後ろの席では物足りない。特にティーチ・インのあるときは、言うまでもなく一番前がベストで、こんな席では写真もロクに撮れない。
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