第13回東京国際映画祭

エスペランド・アル・メシアス ティーチイン

- 参加者(敬称略) -
ゲスト●Daniel Burman(監督)
司会●金谷(?)
スペイン語-日本語通訳●?
日本語-英語通訳●山根ミッシェル


■Daniel Burman(スペイン語):今日は何人もの通訳に囲まれてドキドキしている。私がここにいるということは、ここからずっと穴を掘って行くと、私の家のトイレに辿り着くということである。今朝、妻と電話で話したが、「アルゼンチンのユダヤ人についての映画なんて、日本で観に来る人がいるだろうか?」という話になった。その答えは皆さんが出してくれた。家族団欒や買い物やカラオケに費やすこともできた時間を、この映画のために割いてくれて感謝する。皆さんの質問を聞くために遠くからやって来たので、どうぞ質問して下さい。

■観客1(日本語):キャストが役に合っていたと思う。特にEstela役。出演者はどのようにして選んだか?
◆Daniel Burman:自分は演技の技法はあまり信じていない。それよりも、感情やアクションを素直に伝えることが大切だと思っている。だから、プロとしての技術よりも、人間として信じられるかどうかで選んだ。

■観客2(日本語):Arielの1年後の話はあったが、Santamariaのはなかった。Santamariaの1年後はどうなったか?
◆Daniel Burman:たいへんよい質問である。秘密を明かすと、シナリオの段階では皆が同じ時に幸せになっているというエンディングだった。したがって、最初に撮ったヴァージョンでは、Santamariaがクリスマスを祝い、Arielがハヌカの祭りを祝っているというエンディングだった。しかし、編集が終わって観てみたところ、自分で自分の作品の話を信じることができなかった。アイデンティティの問題は、一晩で解決できるようなものではないと気づき、しばらく経ってから再びArielが現れるというエンディングで撮り直した。このようなエンディングではヒットしにくいかも知れないが、アメリカと違ってお金儲けがすべてではない。というのは、ラテンアメリカの市場は小さく、ラテンアメリカで成功しても映画監督の人生を変えることはできないからだ。

■観客3(英語):ブエノスアイレスではもう公開されたか?
◆Daniel Burman:公開された。最近のインディペンデント映画で最大のヒットを記録した。しかし、家の塗装を塗り替える程度のお金しか儲かっていない。ラテンアメリカで成功しても人生を変えることはできないというのはそういうことである。実際は家を塗り替えてもまだ少し残ったのだが、東京のタクシーに全部使ってしまった。

■観客4(日本語):孤独な人がたくさん出てくる。物語の舞台がクリスマスやハヌカの時期に設定してあるのは、彼らの孤独さを強調するためか?また、孤独な人がたくさん出てくるのは、監督の内にある孤独によるものか?
◆Daniel Burman:社会においては、人と一緒に過ごすことが求められ、孤独でいるというのはそのような社会的義務に反している。クリスマスや祝日は、特に人と一緒に行動することが求められる時期なので、この時期に設定した。
◆Santamariaがゴミ箱をあさるのは、最近グローバリゼーションということがよく言われるが、インターネットではなくゴミ箱をあさることによってもグローバリゼーションは実現できるということを言いたかった。

■観客5(スペイン語):この映画で最も言いたかったことは何か?アルゼンチンのユダヤ人社会についてか、あるいは単に人間関係についてか?
◆Daniel Burman:自分の映画について、何が言いたいかということはあまり語りたくない。観客が感じたとおりに理解してくれればいいと思う。
◆しかしせっかく来たので少し話すことにする。この映画で描きたかったのは、ミレニアムで救世主が現れるなどと言われているが、救世主というのは、実は日常的な身近なところにたくさんいるのだということである。アメリカのテレヴィ宣教師みたいなので、自分に向かってはそんなことは言われたくないのだが。
■観客5:お店にカラオケを入れるが、カラオケが出てくる意味は?
◆この映画を作ったときには、これを将来日本で上映することになるとは思ってもいなかった。日本にもカラオケブームがあることも全く知らなかった。誰か代わりに答えて下さい。

■観客6(スペイン語):テレヴィ局の上司役はスペインの俳優だが、スペイン人を使う必要があったのか?
◆Daniel Burman:彼は前からの友人である。たまたまスペイン人だが、それは自分の責任ではない。

■観客7(日本語):Arielが「さようなら」という意味のイディッシュ語を使っていた。この言葉だけ使っていたのは何故か?他の語は知らないのか?
◆Daniel Burman:とてもよい指摘である。自分はそれについて全く考えたことがなかった。おそらく彼は他の語も知っているが、恥ずかしいから口にしなかったのだろう。

■観客8(日本語):この映画は海外でも公開が決まっているか?
◆Daniel Burman:南米、フランス、イタリア、スペイン、オランダで公開が決まっている。アジアではこれが初めての上映になるが、何らかのよい結果をもたらしてくれることを期待している。
■観客8:映画の配給の上で、メルコスールによるメリットはあるか?
◆Daniel Burman:メルコスールは、東方の三賢人と同様、実在しないものだと思っている。というのは、メルコスールは何らかの目的をもった統合ではなく、富が公平に分配されない側の貧乏な国が単に寄り集まったものなので、何の効果も期待できない。アメリカや日本との統合だったらよかったのだが。

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作成日:2000年11月8日(水)
更新日:2004年12月11日(土)