第13回東京国際映画祭

3人兄弟 ティーチイン

- 参加者(敬称略) -
ゲスト●Serik Aprymov(監督)、佐野伸寿(製作)
司会●金谷(?)@キネマ旬報社
ロシア語-日本語通訳●佐野伸寿
日本語-英語通訳●山根ミッシェル


■司会(日本語):Serik Aprymov監督は、“Last Stop”という映画を撮って、カザフ・ヌーヴェルヴァーグと言われた人である。
◆Serik Aprymov(ロシア語):『終点(Last Stop)』を撮ったのはソ連時代であり、その後撮れない時期が続いたが、佐野さんと知り合って“Aksuat(アクスワット)”を撮ることができた。

■観客1(日本語):この映画を作ろうと思ったきっかけは?
◆Serik Aprymov:ソ連時代の世代とカザフスタン独立後の新しい世代とのギャップやコンフリクトを描こうと思った。
◆主役のChibutが最後に残るのがキーポイント。一人の人間しか残らないという無常感を描きたかった。

■観客2(日本語):機関車に乗った子供たちとKleinは、軍事演習に巻き込まれて死んでしまう。残ったChibutは軍隊が憎いはずなのに、どうして軍人になって戦闘機に乗っているのか?何か大きな力で無理矢理やらされているのか?
◆Serik Aprymov:大きな力によって無理矢理選ばされたのではない。人間というものは、歴史から学ばないで、同じ間違いを繰り返していくものである。Chibutは愚かなことを繰り返してしまう普通の人間である。

■観客3(英語):登場する子供たちの話し方などが単調で、表現が豊かではない。演技指導の問題か、それとも普段の表情がそうなのか?
◆Serik Aprymov:出演者はプロの俳優ではなく、この場所に住んでいる普通の人たちである。したがって、役者としての演技を求めるよりも、普段通りに喋ってもらう方がリアリズムにつながると思い、このように撮った。
■観客3:この村にはあまり人がいないようだが、それは何故か?
◆Serik Aprymov:多くの人が出てくるとドラマが複雑になり、言いたいことが薄れてしまう。言いたいことだけを素朴に表現するのが狙いである。

■観客4(日本語):少年たちのキャスティングが素晴らしい。映画の中で兄弟を演じているTeraとChibutは、実際にも兄弟か?
◆Serik Aprymov:兄弟ではない。Teraはカザフ人でChibutはウィグル人であり、民族も異なる。
■観客4:軍事演習に巻き込まれる事故というのは実際にあったことか?
◆Serik Aprymov:ソ連時代は情報が統制されていたので、本当のところはわからない。ロケットが落ちてきて牛や馬が死んだという話はよく聞いたが、子供が死ぬような大きな事故はおそらくなかったと思う。

■観客5(日本語):映画の中に西瓜が出てきた。西瓜は日本では夏の食べ物だが、映画の中の西瓜のシーンは寒そうな季節だった。カザフスタンでは寒い時期でもあのように西瓜が転がっているものなのか?
◆Serik Aprymov:カザフスタンでは今の時期でも西瓜を売っている。
◆我々の映画は、お金がある間は撮るが、足りなくなると中断するというやり方である。この映画は、冬に大半のシーンを撮ったが、その後中断して、西瓜の部分はお金ができた夏に撮った。

■観客6(日本語):この映画はカザフスタンと日本との合作である。中央アジア諸国では、自国の資金だけで映画を作るのは困難だと聞いている。Serik Aprymov監督は、今後も外国のお金で映画を撮る予定か?
◆Serik Aprymov:私はこれまでに日本との合作で2本撮っている。カザフスタン国内にはお金がないので、今後も外国で探すことになるだろう。
◆司会:佐野さんがこの映画を作るに至った経緯について聞かせてほしい。
◆佐野:『ラスト・ホリディ』という映画でグランプリ(東京ゴールド賞)を獲って、賞金を2000万円貰った。すると、株屋が運用しないかと言ってきたりしたが、どうしたらいいかよくわからなかった。遊ばせておくのももったいないので映画を撮った。その映画はあまり客が来なかったが、『3人兄弟』は客が来そうな内容なので、100万円ほど出した。残りはカザフスタン政府に出させた。「外国の映画祭で賞が獲れれば2000万円儲かる」などと言いくるめた。

■観客7(日本語):カザフスタンの他の監督の作品と比較して、ユーモアが生かされている。Serik Aprymov監督の過去の作品もそうか?
◆Serik Aprymov:今回の映画は悲劇だが、ただの悲劇だと救いがないので、少しユーモアがあった方がお客さんも安心して観られると考えた。映画を作るときに考えることはひとつ、最後に主役を殺すか、生き残らせるかである。

■観客8(日本語):アメリカ映画などと比べて語り口がしつこくなく、淡々としている。リアリティがあり、子供の頃の話で記憶が曖昧になっている感じもよく出ている。それでいて最後がショッキングで、心に染みる。映画の語り口やスタイルは、何をベースにして決めるか?
◆Serik Aprymov:何をベースにしたかと聞かれても困る。今回の映画は、自分の子供時代の思い出と、知り合いから聞いた機関車の墓場のエピソードを元にして、最初と最後を自分好みにしてつなぎ合わせたものである。自分は古典的な小説をたくさん読んでいるので、そういうところからの影響はあると思う。

■観客9(日本語):映画の中に絵が登場するが、その狙いは?また、あの絵は監督が描いたものか?
◆Serik Aprymov:美術監督のSabit Kurmanbekovに描いてもらったコンテをそのまま使ったものである。自分はこの絵を見て、色のトーンや演技などについてのインスピレーションをたくさん得た。そこで、観客にもこれを見せれば、すっと映画に入っていってもらえるのではないかと考えた。

■観客10(日本語):自然な演技がよかった。最初から最後までゆったりした感じで子供のいたずらを描いているが、子供たちは最後に取り返しのつかないことをしてしまう。カザフ人の生活には日常的に危険なものが潜んでいるということかと思ったが、どうか?
◆Serik Aprymov:現在のカザフスタンには、特に大きな脅威のようなものはない。映画を撮る際にも圧力がかかったりすることはない。しかし、問題があるとすれば、それは利己主義の風潮である。現在のカザフスタンでは、政府も国民も、自分のためのことしかやらないようになっている。また、将来、脅威になると思うのは、現在台頭してきているイスラム原理主義である。カザフスタンはいろいろな民族から構成されており、イスラム原理主義が非ムスリムを排斥するようになると問題だと思う。

映画人は語る2000年11月4日ドゥ・マゴで逢いましょう2000
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作成日:2000年11月8日(水)
更新日:2004年12月11日(土)