第13回東京国際映画祭

千言萬語 ティーチイン

- 参加者(敬称略) -
ゲスト●許鞍華(監督)
司会●市山尚三
広東語-日本語通訳●?


■許鞍華(広東語):この映画が香港で公開されたとき、香港の若い観客はよく理解できなかったようだ。日本の観客の皆さんは最後まで観てくれて嬉しい。

■市山(日本語):この映画はいつ頃から構想していたか?
◆許鞍華:1992年にホームレスが殺される事件があった。興味を持って調査したところ、その人が社会運動に関わっていたことがわかった。1993年に大陸の脚本家に最初の脚本を書いてもらい、1994年に香港の脚本家に新しい脚本を書いてもらった。さらに1997年に別の脚本家にまた新しい脚本を書いてもらった。これらの脚本はそれぞれ全く異なるものである。
■市山:最初の脚本はどういうものだったのか?
◆許鞍華:女の子と阿東の役と議員だけが出て来て、牧師などは登場しないものだった。

■市山:黄秋生が演じた牧師は実在の人物か、それとも映画のために作った役柄か?
◆許鞍華:阿東が一番心を開いていた人物だが、その後大陸に行ってしまった。阿東を演じた李康生は実際にこの牧師に会って、ギターを習ったことなどいろいろなエピソードを聞いた。それらは映画の中に生かされている。
◆市山:その人は今も大陸にいるのか?
◆許鞍華:西安にいるはずである。
◆市山:今も社会運動をしているのか?
◆許鞍華:していることはしているが、大陸なので、あまり目立った活動はしていない。

■観客1(日本語):黄秋生がこのようなまともな人の役をやったのは初めて見た。また李康生も、まともな職についたりしている役は初めて見る。このあたりのキャスティングの理由は?
◆許鞍華:黄秋生は演技力がすばらしい。李康生の役は、香港の20代の俳優も探してみたのだが、あのようなコミュニケーションが苦手な雰囲気の人は見つからなかった。
◆市山:牧師はイタリア人だが、どうしてイタリア人を使わなかったのか?
◆許鞍華:黄秋生はイギリス人と中国人のハーフだし、演技もうまい。広東語が話せて演技にも満足できるイタリア人を見つけるのは困難である。外見的にも演技の面でも、香港であの役ができる人は黄秋生の他にはいない。

■観客2(日本語):許鞍華監督は渋めの俳優を使うことが多いが、若手の俳優を使って映画を撮る予定はないか?
◆許鞍華:ある。
◆観客2:どのような俳優を?例えば鄭伊健とか。
◆許鞍華:もうすぐ撮り始める新作では、舒淇と陳奕迅を使う。

■観客3(日本語):阿東は煙草を吸わないのにいつも煙草を持ち歩いているのは何故か?アル中のお母さんが煙草を吸っていたので、死んだお母さんの心をいつも持ち歩いているということなのかなと思ったのだが。
◆許鞍華:好きだった女の子(李孋珍)が煙草を吸っていたからである。お母さんが吸っていたからという意見も一理あるとは思うが。
■観客3(日本語):このような民主化運動を描いた映画は、香港ではどのように受け取られているか?
◆許鞍華:香港ではもっとリラックスできる映画の方が好まれる。

■観客4(日本語):街頭での芝居のシーンが何度か挿入されているが、あの芝居と映画との関連は?芝居に出てくる呉仲賢という人は登場人物のひとりなのか?
◆許鞍華:ラスト近くで、あの芝居をしている場所にちょうど阿東が居合わせるというだけの関係であり、直接的に映画のストーリーとは関連しない。芝居に出てくる呉仲賢という人は、70年代の終わりから80年代の初めにかけて活躍した、香港の社会運動の先駆者である。
■観客4(日本語):最後にろうそくに火を灯すシーンがあるが、あれはお祭りか何かなのか?
◆許鞍華:1998年に行われた、天安門事件の追悼集会である。

■観客5(日本語):許鞍華監督のお母さんは日本人だと聞いているが、日本に対してどういう感情を持っているか?
◆許鞍華:母親が日本人であることは16、7歳になるまで知らなかった。知ってからは日本に関心を持つようになった。何度も日本語をマスターしようと思い立ったが、その度に挫折している。

■観客6(日本語):阿東のお母さんが閩南話のような方言で悪態をつくシーンがあったが、どうして方言を使ったか?
◆許鞍華:あれは潮州語である。閩南語と似てはいるが。
◆観客6:潮州出身だということを表すために使ったのか?
◆許鞍華:自分は大陸から泳いで来た、というようなことを言っている。

■観客7(日本語):大陸に中絶しに行ったのは何故か?中絶に関する当時の香港の事情がよくわからないのだが。
◆許鞍華:香港では80年代まで中絶をするのは難しかった。大陸では合法的にできるので、皆、深圳へ行ってやっていた。

■観客8(日本語):阿東が知的障害者の介護の仕事をするようになった経緯は?映画では描かれていなかったが。
◆許鞍華:殺された人は実際にそういう仕事をしていた。
◆観客8:映画の中で、阿東がそういう仕事に携わるようになった理由は?
◆許鞍華:(ここの答えは忘れてしまいましたが、特に理由は設定されていなかったと思います。)
◆観客8:映画に出ていた知的障害者は本物か?
◆許鞍華:知的障害者のセンターの所長に許可をもらい、演技のできそうな人を推薦してもらった。

映画人は語る2000年11月3日ドゥ・マゴで逢いましょう2000
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作成日:2000年11月7日(火)
更新日:2004年12月11日(土)