第13回東京国際映画祭

西洋鏡 ティーチイン

参加者(敬称略)
ゲスト●胡安(監督)
司会●襟川クロ
英語-日本語通訳●鈴木小百合


■襟川(日本語):オーチャードホールで観た感想は?
◆胡安(英語):音響が今までで一番よかった。これまでいろいろな国の映画祭等で観ているが、やはりソニーのある国だと実感した。

■観客1(日本語):映画を作ることの原点を見た。監督はどういうきっかけで映画を撮るようになったか?
◆胡安:自分は中国で生まれ育ち、アメリカで教育を受けた。その後は食べていくために会社員になったが、これは自分のやりたいことではないと思うようになった。自分の中に言いたいこと、表現したいことがあるのに気づき、映画監督になろうと思った。

■観客2(日本語):映画に対する愛情を感じた。映画を題材にした映画はたくさんある。例えば『ニュー・シネマ・パラダイス』や、トリュフォー、フェリーニの映画。影響を受けた映画監督は?
◆胡安:おっしゃったようなヨーロッパの監督の影響はあまり受けていない。というのは、アメリカにいるときに映画に興味を持つようになったからである。影響を受けた監督、作品は、デヴィッド・リーンの『アラビアのロレンス』やオーソン・ウェルズの『市民ケーン』。またもっと新しいニュー・ウェーヴの映画、『ファーゴ』や『パルプ・フィクション』にも影響を受けている。古い映画は素晴らしいが、制約にもなる。時代のニーズを読み取ることも必要である。
■観客2:中国に対する愛情や、京劇など伝統芸能への愛情も感じた。胡安監督はまだお若いようだが、伝統芸能に対する理解はどうか?
◆胡安:長く自分の国を離れて生活をしていると、自分のルーツやアイデンティティについて考え、それは中国の文化であると思うようになった。少し距離を置いて客観的に見ることにより、中国の文化や伝統が最も深く洗練されたものであるということに気づいた。

■観客3(日本語):非常に感動した。友達や家族にも見せたい映画である。日本での劇場公開は決まっているか?
◆胡安:まだ決まっていない。どういうところに感動したか?
◆観客3:うまく言えないが、主人公や他の人々が初めて映画を観て、純粋に喜んでいる姿に感動した。自分が生まれたときにはもう映画があったのでよくわからないが、初めて写真が動くのを見るとあのように感動するものなのかと思った。

■観客4(日本語):とてもハッピーな映画。自分は、孫瑜や趙丹、阮玲玉など、30年代の上海映画が好きだが、なかなか観る機会がない。このような昔の中国映画の影響はあるか?また、映画の中に、「今の姿を100年後の人に伝えるために撮る」という台詞がある。胡安監督は、100年後の映画はどうなっていると思うか?
◆胡安:ハッピーな映画と言ってくれて嬉しい。しかし自分はsad happyな映画だと思うがどうか?
◆観客4:映画の興隆によって、京劇などのトラディショナルな演劇が衰退していくという点ではそうだと思う。それは京劇だけではなく、日本の歌舞伎も同様である。しかしそれは仕方のないことだと思う。
◆胡安:自分は単に笑えるだけの喜劇ではなく、何か考えさせるところのある映画を作りたい。というのは、人生は悲喜劇だからである。映画はそれをキャプチャーするべきだと思う。
◆この映画を撮るために、フィルム・アーカイヴでたくさんの古い映画を観た。そのうち、100年前の映画4点をこの映画の中で使っている。
◆昔の中国映画はとても美しく、自分も好きである。
◆100年後の映画がどうなっているかについては全くわからない。映画は人間が作った最も大きなイリュージョンである。人間には夢が必要だから、今後もこのイリュージョンを続けていくのだろうと思う。

■観客5(日本語):自分はハッピーな映画だと思った。というのは、主人公は映画作りに熱中しているが、自分自身もその病にかかっているからである。この映画は、当時の中国の問題だけではなく、現在の中国が抱えている問題も同時に扱っているのか?すなわち、ハイテクと伝統の対立について。
◆胡安:映画監督の方ですか?
◆観客5:はい。
◆胡安:自分は中国で育った。その中で、社会に同化するのが中国で生きる術だと学んだが、自分は常にアウトサイダーだった。この映画の主人公もアウトサイダーであり、そのような性格が彼の運命を決めていく。映画の中での彼の選択は自分の体験に基づくもので、自分だったらどうするかを考えて脚本を書いた。

■観客6(日本語):自分は日本にある中国の会社で働いている中国人である。中国から来た監督を歓迎する。こんなに若い監督なのに、立派な作品である。中国は古い歴史と優れた文化を持っており、それを世界に紹介してきたが、まだ不足である。胡安監督が流暢な英語で世界の人々と交流するのはとてもよいことである。この映画は100年前の話だが、表現しているテーマは永遠のものである。というのは、西洋文化と中国文化のぶつかり合いを描いているからで、矛盾はあるが、最後には互いに学び、よい結果が導かれる。この映画のテーマは人類のコミュニケーションということであり、21世紀は皆が仲良く平和に生活できるよう祈っている。この映画は賞を獲れると思うので、前もってお祝いを申し上げる。
◆胡安:今日は月曜日なのに、会社に行かないで観に来て大丈夫か?
◆観客6:自分一人の会社だから大丈夫。

■観客7(日本語):主人公が初めて動く写真を観たり、初恋をしたり、外国人と出会ったりして成長する青春映画として感動した。この映画が出来上がるまで経過や、最も苦労した点について教えてほしい。
◆胡安:最も困難だったのは資金集めである。自分の労力のうちで創作に費やしたのはたったの5%程度である。残りの95%は、資金集めや売り込み方の検討や映画祭への出品などに使った。創作にもっと力を注ぐことができたらよかったと思う。

映画人は語る2000年10月30日ドゥ・マゴで逢いましょう2000
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作成日:2000年11月7日(火)
更新日:2004年12月11日(土)