1996年6月8日(星期六)


旅のはじまり

うっとうしい梅雨の日本を脱出して南洋へ旅立つ……はずだったのだが、このところの東京はお天気続きである。今日の北鎌倉はくもりで、時々陽も射している。

12:07のエアポート成田(横須賀線)に乗り、14:30ごろ成田空港に着く(¥2160)。利用するのはユナイテッド航空(UA)のシンガポール往復で、H.I.S.で¥52000で買ったものだ。 UAのカウンターは長蛇の列で、チェックインに時間がかかる。

17:45発のUA897便は、少し遅れて18:10ごろ離陸する。ピーナッツ・タイムの後、 20:00ごろ夕食。まずいと評判のUAの食事を残さず食べる。キャセイよりおいしい気がするのは、空腹のせいだろうか。夕食後、時計を1時間戻してシンガポール時間にする。

言語について

飛行機の中では、北京語の勉強をして過ごす。

シンガポール、マレイシアは共に、マレイ系、中国系、インド系等から成る多民族国家である。シンガポールは、中国系が約77%、マレイ系が約14%、インド系が約7% [SG29-1]で、マレイシアは、マレイ系が約50%、中国系が約30%、インド系が約10% [ML16-1]である。

したがって、使われている言語も、マレイ語、福建語、広東語、潮州語、客家語、北京語、タミル語、英語など多様である。国語は両国ともマレイ語であり、公用語はシンガポールが英語、北京語、マレイ語、タミル語、マレイシアはマレイ語のみである。しかしながら、公用語と常用語とは必ずしも一致していない。

今回はチャイナタウンが中心なので、主に華語(北京語)を使う予定だ。華語は華人間の共通語としてどこでもある程度通じるようだし、私が中国系言語の中で最もわかるのは華語だからである。

華人の中で最も多いのは福建人だが、福建語は、聞いたときにそれが福建語だとわかる程度で、ちょっとは勉強したけれど「私は日本人です」しか言えない。広東語は少しはわかるので、必要に応じて使うつもりである。マレイ系のところではマレイ語を使おうと思っているが、実はまだ挨拶程度とまでもいかないので、列車の中などでの勉強が勝負だ。タミル語をはじめインド系の言語は、残念ながらまったくわからないし字も読めない。

シンガポールは英語が公用語のひとつだし、マレイシアでもかなり英語が通じるのだから、英語を使えばいいじゃないか、と思われるかもしれないが、英語はあまり好きではないし(美しくないし、覚えやすくもない)、あまり上手でもない。また、日本人のイメージとして、「外国語は英語しか使おうとせず、その英語も下手くそで、そのくせ英語が通じるかどうかでその国や場所を評価しようとする」というのがあるように思うので、できるだけ英語以外の言語を使いたいという気持ちがある。それに、せっかく勉強した華語や広東語を使いたいし、新しい言語を覚えることは旅行の楽しみのひとつでもある。

シンガポール到着

23:30ごろ、シンガポール、Changi International Airport(錢其國際機場)に着く。夜遅いためか、空港内は閑散としていて、入国審査もすいている。インド系らしき係官は愛想がよく、私の名前を上手に読んでみせて、ちょいと得意げに笑った。こうして無事にシンガポール共和国(Republic of Singapore)に入国する。Singaporeは、マレイ語でSingapura、華語で新加坡(Xing1 Jia1 Po1)である。

小津安二郎のシンガポール到着について、『幻のシンガポール』[SG2]には次のように書かれている。

先発、助監督秋山耕作、小津が続き、斎藤がやや遅れた。雁ノ巣、台北、広東、サイゴンと飛行機をのりついで、途中三泊、シンガポール到着は真夏の六月初旬であった。少し遅れて、カメラマンの厚田雄春がついた。(p.343-344)

1943年に小津が4日かかった道のりは、いまはわずか6時間半である。

空港内の銀行(United Overseas Bank)で¥5000だけ両替する。シンガポールの通貨はシンガポール・ドル(S$)で、ここでのレートはS$1=¥79.43だった。

YMCA International House

0:06発のルート2のエアバス(S$5)で、宿泊予定のYMCA International Houseに向かう。他に客はいなくて貸切り状態だ。路線バスもまだ走っていたらしく、YMCA前を通るらしい16番のバスを途中で見かけてショックだった。空港からホテルまでいかに安く行くかということは、私にとってけっこうこだわりのあるテーマなのだ。

空港近くでは窓の外は真っ暗だったが、次第にHDBフラットが林立するようになり、やがて明るい市街地に入る。YMCAはOrchard Rd.が始まるところにあり、バスはその前で停まった。

YMCAは、1か月くらい前にファクスで予約しておいたものである。ツインS$90/泊+サービス料10%+GST(消費税)3%で、計S$101.97/泊、一人約¥4000だ。部屋は6階で、かなり狭く、隣の部屋の話し声がよく聞こえる。シャワーのみで浴槽はなく、冷蔵庫もない。一瞬見当たらなかったテレビが、クローゼットの中に仏壇のように鎮座しているのを発見したときは嬉しかった。快適とはいえないが、宿泊費がかなり高いシンガポールでは、値段を考えれば悪くないといえるだろう。

お風呂からあがると、外は激しい雨になっていた。

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更新日: 1999年2月13日(土)