Bukit Bintangは、伊勢丹の入っているLot 10をはじめとする大きなショッピング・センターや映画館、銀行などが建ち並ぶ繁華街である。
ちょっと歩き疲れたので、屋台でgoreng pisang(ゴレン・ピサン)を買い(RM1/4個=約¥45)、これをおやつにして、お茶の屋台で、香港で涼茶と呼ばれているような薬草やフルーツの入った甘いお茶(RM0.60/杯=約¥27)を飲む。Goreng pisangというのは、日本でいう揚げバナナである。金子光晴は、『どくろ杯』[SG24]の中でバナナの種類について語っていて、その中に揚げバナナも出てくる。
マレイでは、バナナのことをピーサンという。……三十センチ程もある大バナナは、普通では食べられないので、切って油であげて売りにくるが、ほんの腹ふさぎで、味は貧しい。(p241)
ここでは大バナナと書かれているが、[ML30]によれば、「太くて短いバナナ」だということだ。このgoreng pisangは、日本のものに比べると固くて少し青臭い感じで、種類が違うのがわかる。また、シナモンシュガーはついていなくて、ただバナナを揚げただけのものだ。バナナ自体はさっぱりしていてよいが、シナモンが少しほしい。
同じ屋台のテーブルに後からやって来たマレイ人に話しかけられる(英語)。小太りと痩せ型の男2人組だ。妙になれなれしくてちょっと怪しげだったが、危険な場所でもないのでとりあえず話し始めた。
まず、太った方が、
「中国人?」
と聞いてきた。日本人だと言うと
「え、日本人なの? 中国人に見えるよ」
と答えたが、痩せた方を指さして、
「彼は日本語が話せるんだよ」
と言う。その後は主に痩せた方が、アヤしい日本語と英語のチャンポンで話しはじめた。中国人に見えるとか言っといて、やはり日本人目当てらしい。彼は、
「3年前に1か月、北海道で勉強したんだ。どこから来たの? 東京? 北海道は行ったことある?」
「スキーもやったよ。スキー、難しいね。スキーする?」
「僕はサーフィンの方が得意だ。グアム出身なんだ。グアム、知ってる? 行ったことある?」
などと、日本人ウケしそうなキーワードを散りばめていろいろ質問してきた。しかし、私たちが北海道もグアムも行ったことがなく、スキーもサーフィンもしないとわかって、かなりがっかりしているようすだった。シンガポールや日本の話でつないだあと、小太りの方を指さして、
「彼はミュージシャンなんだ」
と言い出した。どこかで聞いたような展開になってきたと思っていると、
「来月日本に演奏に行くんだ。京王プラザ、知ってる? 京王プラザで演奏するんだ」
と言う。だんだん本題に入ってきたと思ったが、
「彼はヴォーカルだ。ロックをやるんだ。ボン・ジョビ、知ってる?」
「彼の妹も歌手で、一緒に日本に行くんだよ」
「妹はラヴソングを唄うんだ。カーペンターズだよ。知ってる?」
「今夜は彼はHoliday Innで唄うんだよ」
などと、音楽の話が続く。まわりくどいなぁと思っているところに、
「もしもね、暇があったら、彼の妹に東京のことを教えてあげてくれないかな。日本に行くのは初めてだから、いろいろわからないことがあるんだ。僕は日本に行ったことがあるけど、東京は知らないからね」
と、ついに本題に入ってきた。ここは慎重に断らねばと思い、
「悪いんだけど、暇がないんですよ」
と言うと、
「あぁ、そうなの? そうだよね、まだいろいろ見てまわらなくちゃいけないものね。でも、明日はどう?」
と言うので、
◇光藝(Pavilion)◇ |
だから、彼らが本当に詐欺師だったかどうかはわからない。しかし、会話の内容は、[ML16-1]などにも載っている、「家に誘ってインチキ賭博で金を巻き上げる」のとそっくりだった。読んだ内容に比べると、『京王プラザ』などの固有名詞を多く含んだ具体的な内容で、本当らしい感じが出ている。ただ、英語があまりにも下手だったこと、ふつうは一人旅の人を騙すと思われること、簡単に解放してくれたことなどから、もしかして手口を真似た小物の詐欺師なのかもしれない。
近くの光藝(Pavilion Kuala Lumpur)という映画館で、今年65本目の映画、“街頭殺手(Iron Monkey2)”を観る(RM4.50/人=約¥200)。甄子丹主演のカンフー映画で、カンフー映画なら出来が悪くても楽しめるだろうと思ったのだが、すごくつまらなかった。タミル映画もマレイ映画も諦めて観たというのに。