Singapore, 新加坡
シンガポール | 無事に税関を通って、この土地の炎天でも走っている人力車チャアに乗って、カンナの花のあいだに燃える椰子檳榔のつづくエスプラネードをすぎ、纏橈植物で毛むくじゃらになったレーン・トゥリーの枝をのばした緑芝の土地に、教会や、世界で一番アイスクリームのうまいというホテルを望見した。そこにこの獅子島シンガピラの植民地都市を創立したラッフルスの銅像もあった。(『どくろ杯』) | ||
スラングーン通り | 翌日は、その大通りをつきあたったところにある租界の大通スラングーン・ロードの中ほどにある大黒屋ホテルの玄関上の二階の、三方の鎧窓がすべて明けはなせるいちばん風通しのいい部屋を新聞社の人から借りてもらった。(『どくろ杯』) | ||
矢加部の大黒屋ホテルでくらしていたとき、夕方になると、通りをへだててすぐ前にあるヒンズー教の寺院から、間の抜けた勤行の鐘がひびいてくる。(『西ひがし』) | 印度カレーのからさもそこで味った。はじめ彼女は、唇が燃えるようで、食べることができなかった。(『どくろ杯』) | ||
新世界 | シンガポールの支那街繁華地、ジャラン・ブッサルの大通りにルナ・パーク式民衆娯楽場がある。「新世界」と名づける。(『マレー蘭印紀行』) | 玉ころがし、投げ矢ルレット、氷店アエ・バトー、雲呑麺、牡丹花や、鳳凰のかたちの燈籠でかざりたてた楼門、石の橋、鏡ばかりの廊わたどの、夕ぐれからすずみがてらあらゆる国の人たちが、この喧噪に身をあずけて、見物したり、押されたり、物色したり、ふりかえったりしていた。(『マレー蘭印紀行』) | |
アルバート街の縁日人出から、ジャラン・ブッサルにかけて、あらゆる職業階級の支那人が、わめいたり、口穢くやりとりしながら雑鬧しかえしていた。(『マレー蘭印紀行』) | 桜ホテル | シンガポールはさすがに、世界とつながっているにぎやかさがあった。人力車に乗りかえてまずゆく先は、桜ホテルであった。(『西ひがし』) | |
僕が泊っている部屋は、港から来る人たちが、エスプラネードを廻って、邦人の多いスラングーン大通りに突きあたるところにあったので、窗の手すりからまっ正面に、人の来るのが望見できる便宜があった。(『西ひがし』) | 口紅いろに染まるタンジョンの朝暾よあけ。木芙蓉ブンガリアの花咲く生籬と、波よけの杭。しどけない浴衣がけの、背の低い、おしろいの剥げた、見ざめのする女たちが、歯磨粉をつけた楊子ブラシを一ぱい口にふくみ、ならんで海風にあたっている。昨夕のたべちらしや、嘔吐よりも、もっと汚れた、ごたごたしたものを浮べて、あいそづかしなシンガポールの海が、きょうも暑くなりそうに、本格的にぎらぎらしはじめていた。(『マレー蘭印紀行』) | ||
タンジョン・カトン | タンジョン・カトンの風景は、シンガポール名所絵葉書のおさだまりだ。椰子の葉越しの月、水上家屋、刳木舟カノー、誰しもすぐセンチメンタルになれる、恋愛舞台の書割のような風景である。 (『マレー蘭印紀行』) |
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