Melaka, 馬六甲
マラッカ | そして街なかは支那風なごった返しで、際限もなく人間と招牌かんばんであふれた裏町横丁がつづき、雑鬧のあいだをくぐって胸の赤い燕が飛び交うている。(『西ひがし』) | ||
先年、ヨーロッパへの往路にも宿をとった日本の老婆がやっている部屋貸しをすぐ見つけだした。ごちゃごちゃした支那街のまんなかで、軒廊カキ・ルマの柱に、虎の走っている商標のビラが貼ってあるのも昔通りなので、手間もかからずさがし出すことができたのである。(『西ひがし』) | 窗から入ってくる眺望は、丁度、マーケットのうしろ側で、商人の呼び声や、支那人の胡弓の音などで、やかましいほどのにぎやかさだったが、決してそれはうるさくはなく、音楽をきいているようにメロディアスで快適でさえあった。(『西ひがし』) | ||
鉢のなかのマンゴスチンを一つ手にとった。ヨーロッパのどこのくにでも、ましてや、日本へかえってしまっては味うことのできないシャンペンのような甘美な果肉を味うことのできる期待をまずたのしんでいた。(『西ひがし』) | 十六世紀頃、ポルトガルの商業的、軍事的の東洋の拠点であったので、赤い煉瓦のキリスト教寺院や、城壁のあとがのこっているくらいのものだ。(『西ひがし』) | ||
しかし、高い城壁にあがって肉の厚い竜舌蘭の植込み越しに眺める海のながめは、一概にすてがたく、海が浅く、岸壁がないので大船は立寄ることができず、たいていの汽船は沖がかりで、ぱらぱらとふりまかれたようにちらばっている。(『西ひがし』) | 回教人のやっている、どこにもある、ほんの椅子と小婢だけの喫茶店の入口に近い場所に坐って、目まぐるしく往来する人ごみを眺めていた。刺激のつよい珈琲と、小麦粉を炒めただけのパイを前にして、ここまでは来たものの、これからどっちの方向に踏み出そうかと、改めて思案をすることにした。(『西ひがし』) |
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