TOKYO FILMeX 2006

『ワイルドサイドを歩け』Q&A

開催日 2006年11月25日(土)
会場 有楽町朝日ホール
ゲスト 韓傑ハン・ジェ(監督)
司会 市山尚三
北京語-日本語通訳 渋谷裕子


《註:最初の監督の挨拶の部分が抜けています。》

司会(日本語):まず、どのようにして登場人物やストーリーをお考えになったのかということをお聞きしたいと思います。

韓傑(北京語):この映画を撮ろうと思った動機は、僕の中学時代のイメージの中から、この作品に出てくる男の子たちのイメージがわいてきたからです。僕が通っていた中学にもこういう感じの悪ガキたちがいて、ある日、僕のクラスにそういう不良たちが殴り込んできて、同級生を殴り倒してしまいました。その印象は非常に強く残っており、それは一生忘れられないような非常に強烈なものです。このような僕の中学時代の体験をもとにして作ったのがこの作品です。ただ、その体験だけではなく、そこからイマジネーションを膨らませてこの作品に仕上げました。
◆大きくなってから、やはり成長したこの昔悪ガキだった人たちに会いました。彼らもとても大きく変わっていました。もう昔の不良の姿ではなく、今は家の面倒をよくみたりする大人に変わっていました。しかし、当時の僕の印象の中にある彼らの勇敢さや友情に対する熱い想いは、僕の心の中に残っています。それを映画にしてみたいというのが僕の強い想いでした。これはまた、僕の少年時代や青春を振り返る想いでもあります。

観客1(日本語):とてもすばらしい作品をありがとうございました。短い質問を二つお願いします。まずひとつ目は、音楽が非常にすばらしく、この作品をより味わい深いものにしていたと思いますが、音楽に対して工夫された点について。ふたつ目はシナリオについてなんですが、撮影前に完成台本があって、それに従って撮っていったのか、あるいは撮影を進めるなかで、少しずつ書いていって撮られたのか。その二点についてお伺いしたいと思います。

韓傑:この映画のスタッフは、ほとんどが経験の浅いスタッフばかりでした。音楽を担当してくれたのは、やはりこれまで映画音楽を手がけたことのない僕の友人です。彼はこれまで広告や携帯の仕事をしていて、映画音楽は初めてでした。僕が彼に要求したのは、主人公があのような危険な目に遭っていくその宿命をうまく表現できること。また、若者たちの楽しげな姿も同時に表すことができるような、若者たちだけがもつロマンチックな感じを表してほしいということ。さらに、宿命から逃れられないメランコリックな痛みのようなものもそこに表現してほしいということです。ですからこの音楽は、ロマンチックななかにも非常に悲観的な雰囲気のある曲となりました。僕は彼の作曲にとても満足しています。
◆次に脚本について。この物語は、最初に僕のインスピレーションがあり、それからそれを脚本という形にまとめるために、故郷に帰り、実際の彼らが生活している場所を見に行き、モデルになった人たちに会いました。僕が会いに行ったとき、彼らはいろいろと生活の苦労もしていたので、そういうこともこの脚本の中に入れました。また、彼らの実際の姿と、客観的に彼らの姿を見たものをまとめ、脚本の執筆には約八ヶ月かけました。それから撮影に入ったわけですが、撮影中にもいろいろとインスピレーションがわいたので、それを盛り込んだり変更したりしていきました。特に、出だしのモノクロの場面がありますが、あれはたまたまあのような渋滞に出くわしたので映画に盛り込みました。このように、わりと柔軟に、現場でも脚本を少しずつ変えていきました。

観客2(日本語):この映画に関する情報を何ももたないまま観に来たのですが、まず基本的な情報として、この映画は中国で公開されたのでしょうか。

韓傑:脚本を書き終えたとき、政府の審査に送りましたが、はねつけられました。というのは、向こうから見て内容的に問題があったからです。それは、校内暴力を扱っているということと、個人の炭坑を描いているということです。これらの点で審査を通らなかったので、今のところまた送るつもりはありません。
◆そのような状況で撮影に入りましたが、撮影に入ってから、ある人がこう言ってくれました。「これは君の長編第一作なんだから、あんまりいろんなことを考える必要はないよ。できるだけ自分の能力を発揮できるように、一生懸命に撮るほうがいい。」そう言ってくれたので、審査のことなどはあまり考慮しませんでした。

観客2:スタッフの方や役者のご家族の方など、この映画を観られた中国の方はいろいろな意見をもつと思いますが、たぶんいろいろ極端な意見があると思うんです。もしよろしかったら、監督ご自身が聞いた中国の人からのいろいろな意見の中で、印象に残ったもの、できれば極と極の意見をぜひ教えていただきたいと思います。

韓傑:まず、いくつかの都市の映画愛好家たちにこの作品を観てもらいました。場所は、地方都市の美術館、大学の講堂、フォーラムなどです。映画愛好家たちからは、とてもいい感想をもらいました。非常に勇敢な作品で、新鮮味もあるといった反応でした。一方、この作品に俳優として出てくれた人の家族や友人たちにも、家で観てもらいました。彼らは、おもしろいとは思ったようですが、やはり自分の生活にあまりにも近いわけです。彼らは自分の身の回りでしょっちゅうこういうことを見聞きしていて、彼らからすれば映画らしくはないわけです。また、いろいろな青少年の問題も描かれているので、家族や友人たちはこの映画を観てちょっと悲しい気分になったようです。
◆たとえば、流流という役をやってくれた男の子の母親は、息子がバーで女の人にちょっかいを出す場面を観たとき、とても見るに耐えないという感じ、自分が耐えられる限度を超えているという感じでした。実際若者たちはあのような場所に出入りしているわけですが、そういった実際にあることでも、このように映画として見せつけられ、しかも自分の息子がそういう役を演じているということで、お母さんは顔を真っ赤にして恥ずかしそうでした。

観客2:最後に感想ですが、自分もとても新鮮で勇敢な映画だと思いました。それから、とても生々しいというか、リアリティの強い映画だと思いました。本当にいい映画をありがとうございました。これからもがんばってください。

観客3(日本語):出演者についての質問です。主役の方がたいへん印象的だったのですが、彼はどういう来歴の方で、どういういきさつで監督は彼を選ばれたのか。また彼に対する演出について、どういうところを注意して指導されたのか具体的に教えてください。

韓傑:実は撮影に入る前、この主役を演じてもらった彼を選ぶ前に、別の男の子を主役に選んでいました。ところが撮影直前になって、彼のお母さんが、「息子は強盗などを重ねたので、刑務所に入れられてしまった」と僕に言いました。これは本当に大ショックでした。もうクランクインが目の前に迫っていて、スタッフたちもどんどん集まってきていたので、本当に困りきってしまいました。本当にどうしようと思っていた撮影の三、四日前に、あるネットカフェでこの青年を見つけました。それはすごく大きなネットカフェで、百人以上のお客さんがコンピュータに向かっているのですが、ちょうど彼がそこでガールフレンドと話をしていました。その姿に惹かれて、僕は彼とちょっと話をしてみました。いろいろと話していくうちに、彼は、脚本の中に書かれた青年の経験より、もっといろいろなことを経験しているということがわかりました。彼の経験は非常におもしろく、僕が書いたシナリオとマッチするところも多々ありました。僕は非常におもしろい人物に会ったと思い、彼をキャスティングしました。
◆彼は、撮影に入ってからもあまりきばることなく、わりとスムーズに役に入ってうまく演じてくれました。現場では、彼をリラックスさせるために演技と関係ない普通のおしゃべりをたくさんしました。彼はゲーム感覚で演技というものを楽しんでくれたと思います。リハーサルなどもゲームっぽい感じで楽しんでいたようです。

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作成日:2006年11月25日(土)