TOKYO FILMeX 2006
■■■『アザー・ハーフ』Q&A
開催日 ● 2006年11月22日(水) 会場 ● 有楽町朝日ホール ゲスト ● 應亮イン・リャン(監督) 彭姍ペン・シャン(製作) 司会 ● 林加奈子 北京語-日本語通訳 ● 渋谷裕子
- ■司会(日本語):『あひるを背負った少年』を去年のフィルメックスでワールドプレミアで上映し、審査員特別賞に輝きました。應亮さんは義理堅く新作を間に合わせて作ってくださり、上映できたことを本当に嬉しく思っています。彭姍さんはプロデューサーですが、実は出演もしていらっしゃいます。もう気がつかれた方もいらっしゃると思いますが、子供と一緒に法律事務所でインタビューされる役です。それでは最初に、監督から順にみなさまにご挨拶いただきます。
- ◆應亮(北京語):みなさん、こんにちは。まず、フィルメックスで僕の二作目をまた上映していただけたことを本当に感謝申し上げます。去年から一年経ちましたが、みなさんに今日観ていただいて、この一年間のプロセスで僕が進歩したのか、それとも駄目になったのか、みていただきたいと思います。
- ◆みなさんにご紹介したいのですが、去年のフィルメックスのときにここで知り合いました胡喬太さんが、今回の映画で音楽を担当してくださいました。エンディングの曲の編曲と、その他の音楽を彼が担当してくれましたので、ご紹介したいと思います。
- ◆司会:胡喬太さんはあちらにいらっしゃいます。ありがとうございます。彼のお母さまが隣にいらっしゃいます。伏見順子さんです。お母さまは去年から、中国語のボランティア・スタッフをしてくださっています。ふとした縁で、今回息子さんが音楽を担当したという、こんなおいしい話が、嬉しい話があっていいのかと、私も全然知らなくて一昨日くらいに聞いてびっくりしていたところです。伏見さん、そして胡さん、ありがとうございます。
- ◆では、彭姍さんからも一言お願いします。
- ◆彭姍(北京語):みなさんにご紹介したいんですけれども、前作もそうだったのですが、今回私たちの作品に出てくれた人は、プロの人は一人もいなくて、全部アマチュアの方です。主役の章子怡に似ているという女性は、私の従姉妹です。その母親を演じているのは、私の伯母さん、母の姉にあたる人です。医療事故の件で法律事務所に相談にやって来る人は、やはり私の叔母で、母の妹にあたります。趙柯という警官役は、家電製品の会社で空調を担当している責任者です。そのほかの法律事務所にやって来る人の中には、会社の社長さんや、学校の先生といった人もいます。
- ◆應亮:主役の女の子と一緒に暮らしている鄧剛という男の子が、食堂で喧嘩をするシーンがありますよね。その中で、彼を一生懸命押さえているのが『あひるを背負った少年』の主役の彼でした。
- ◆司会:『あひるを背負った少年』を去年ご覧いただいた方がいらっしゃいましたら、ちょっと手を挙げてみていただけないでしょうか。……こんなにたくさん。ありがとうございます。
- ■司会:公式カタログに監督のコメントを載せているんですが、そこに應亮さんが寄せてくださったコメントに、「この作品は希望と絶望から生まれた映画だ」というふうにぽーんと書いてあるんですね。これをもうちょっと具体的に教えていただきたいと思って、そこのご質問から始めたいと思います。
- ◆應亮:絶望と希望というのは、この中で全く異なる状況を表現しています。まず絶望は、現実の絶望からやって来るもので、この田舎の地方都市における男たちの悲惨な状況です。それを失望として描いています。
- ◆一方希望は、映画製作という創作に従事する者として作品を主観的にみると、やはり未来への希望、未来に何かを探すものとして、希望から何かを生み出さなければならないと思います。希望は変化によってもたらされるもので、映画も小説もそうですけれども、現実を変えていけるほどの大きな力はないかもしれませんが、現実をあるがままに提示して、何か現実を変えるような希望をもたらすものでありたい。創作をする者として、僕はそのように願っています。
- ■司会:今回、女性の悩み、中国の女性が抱えている問題を、非常に細かいいろいろなケースに分けて私たちに見せてくださったわけです。彭姍さんは、共同脚本という肩書きでも加わっていらっしゃいますが、やはり女性の立場から、脚本の段階で時間をかけて一緒に作っていらしたんでしょうか。
- ◆彭姍:脚本を共同で書いたんですが、私のした主な仕事は、脚本の台詞を書き換えることです。ここは四川省で、四川の方言は特別ですので、現地の人に合うように台詞を書き換えました。
- ◆私がそのほかにしたことは、少しばかりディテールを書き加えたり、女性特有の行動を少し加えたりしたことです。私の仕事はほんの少しで、ほとんどの大きな仕事は應亮監督です。
- ◆應亮:彼女が女性特有の視点で、いろいろな女性の心理状況などをきちんと把握してくれました。そういうところが大きかったと思います。やはり性の違いによってわからないところもたくさんありますので、脚本を書くにあたって、彼女は様々な場面で男女の違いに関するサジェスチョンをしてくれました。
- ■観客1(日本語):弁護士に相談に来る人の相談の内容が非常におもしろかったんですけれども、あれは監督自身が考えたオリジナルなのでしょうか。それとも何かモデルになったものがあるのでしょうか。
- ◆應亮:この映画を撮った動機は、本当に偶然のことでした。プロデューサーの彭姍の友だちが、ちょうどこのような法律事務所で書記をしており、たまたま彼女に会って話をする機会があったのが始まりでした。そのとき僕は、二本の脚本の案があり、撮る準備を進めていたのですが、その彼女に会って非常にいいテーマを見つけたと思い、この作品を撮ることになりました。そのとき彼女は、この法律事務所に勤めてまだ一年も経っていなかったのですが、「もうやめたいと思っている」と言っていました。「毎日法律事務所でいろんなことを見聞きして、非常にプレッシャーを感じて嫌になった。もうやめたい」と、疲れきった感じで言っていました。
- ◆このテーマに出会って、僕はすぐにこれを撮りたいという衝動にかられ、準備していた二本の脚本をあっさりと諦めて、さっそくいくつかの法律事務所を回って取材を進めました。プライヴァシーの問題がありますので最初は難しかったのですが、結局様々な事例を取材することができ、録画したり、ノートに記録をとったりしました。だいたい50本くらい記録をとり、その中から僕が描きたいテーマに沿うと思ったものを13例集めたのが今の映画です。
- ◆このような案件を集めて脚本を書きましたが、書き終えたところで、もう一度法律の専門家、法律事務所で働いている人や弁護士に脚本をしっかり見てもらいました。どうしても真実、事実をきちんとつかんで描きたかったので、そこで様々な意見をもらいました。撮り終えたあとでも、編集前に再び法律の専門家に観てもらい、弁護士の意見を聞いて、事実に合わないところがないかチェックしました。
- ◆このような内容のものを撮るのは、社会人としての責任を非常に強く感じているからです。このような社会状況は、中国人でさえも知らないものが非常に多いのです。そこには、主流の報道機関ではなかなか報道されない事実がたくさんありました。ある中国人が、田舎の地方都市の弁護士の言うことだからいろいろと問題があるのではないか、正しいかどうか怪しいと言いましたが、僕は、これは非常に正確なものであり、正しいものだと断言しました。
- ■観客2(英語):脚本を中国の政府に見せましたか。その反応はいかがでしたでしょうか。
- ◆應亮:中国政府の審査の部署には、まだこの作品を送ってはおりません。申請を出しておりませんので、どのような反応が出るかということもまだ全くわかりません。
- ◆この種のインディペンデントの作品は、あくまでも個人的なものであって、政府が関与すべきものではないと思います。ある特別な人だけが観客の代理で審査を行うと、作品自体がもつ力や真実性が大幅に失われてなくなってしまうのではないか、その点が非常に心配でなりません。
- ■観客3(日本語):さきほど監督が希望と絶望ということをおっしゃいましたが、作品の最後で化学工場が爆発して、街に流れている放送では「もう安全です、みなさん戻ってください」と言っている。でも実際の街には誰もいない。ヒロイン一人がいて、警官の友人が「危ないから、警官もみんな撤退したからそんなところへ行くな」と言っている。あれは、政府側の発表と実態が違うということを描いているのでしょうか。そこがちょっとよくわからなかったのですが。
- ◆應亮:非常に詳しいところを見ていただいて本当にありがとうございます。それは脚本を書く段階で私が意図したものです。現実と政府発表には落差があるということ、その偽りを描きたかったのです。それによって、この映画のもう一本の重要なラインである男女関係にも、偽りが潜んでいるということを描きたかったからです。最後のところで、麻雀店がモノクロになってフィルムが戻るところがあります。そこに、上海へ行ったという男友だちの鄧剛から電話がかかってきて、ナレーションが流れてきますよね。その鄧剛の電話では、きれいなことばかり言っています。でもそこには偽りがたくさん潜んでいて、彼女を騙しているわけです。この映画を通して僕はそういうことを言いたかったのです。
- ■司会:監督から最後に何か一言あればいただきたいと思います。
- ◆應亮:前作の『あひるを背負った少年』を上映していただき、審査員特別賞をいただきましたし、ロッテルダムでも上映されて、脚本の支援をいただきました。この審査員特別賞でいただいた資金で、比較的余裕をもってこの作品を撮ることができました。このようなご支援をいただきながら、僕の映画製作をとにかく前へ進めて行かなければならない。自分の日々の製作態度も、自分のもつ世界観も、やはり進歩があるべきだと思っています。そしてできる限り、僕の作品に俳優として出てくれた人たちの信頼に背かないように、一生懸命に撮っていきたいと思っています。
註:アンダーラインは、聞き取りが不正確で自信のない部分です。
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