TOKYO FILMeX 2005

『無窮動』Q&A

開催日 2005年11月26日(土)
会場 有楽町朝日ホール
ゲスト 寧瀛(ニン・イン)(監督)
司会 林加奈子
北京語-日本語通訳 渋谷裕子


司会(日本語):日本のフィルメックスの観客のみなさまに、監督からひと言いただけますでしょうか。

寧瀛(北京語):土曜日の朝からこの映画を観に来てくださって、本当にありがとうございます。フィルメックスに参加させていただくのは今回が二回目です。本当に光栄に思いますし、とても感激しています。ありがとうございます。

司会:寧瀛監督は、2001年に『アイラヴ北京』で紹介させていただいて二回目なんですけれども、まず『無窮動』というタイトルなんですが、半永久的に止まらない動きというんでしょうか、物理学的な用語としても古典音楽のひとつとしても定番になっているものなんですけれども、このタイトルをつけられたところから教えていただけますでしょうか。

寧瀛:この映画で表現したかったのは、女性の心の中にあるいろいろな欲望です。それを表現するのに、音楽の中のひとつの形式である『無窮動』というタイトルをつけました。

司会:それからキャスティングですね。中心の四人の方がものすごくユニークで、これは寧瀛さんでないとできないと思いました。キャスティングのことをもう少し詳しく教えていただけますか。

寧瀛:ラーラー役とニュウニュウ役、この二人とはプライヴェートでお付き合いをしていて、ふだんからとても仲がいいんですが、ふたりとも映画に出演するのは初めてです。女性たちの中ではジンジン役だけがプロの女優です。彼女たちは実際の生活でも大活躍していて、とても個性が強く、非常に存在感のある人たちです。彼女たちの存在そのものが、私の映画を作ろうという意欲を刺激しました。彼女たちの生き方、日常生活そのものを、映画という枠の中に入れてみたいと思いました。

観客1(日本語):今回は、中国人のアイデンティティを客観的に描いていらっしゃったと感じました。出る人たちがみな外国に住んでいたり、外国人と接点があるということで、これは監督の気持ちを代弁しているかと思うんですが、どういった監督の思いが反映されているんでしょうか。

寧瀛:この映画の中で描きたかったのは、ある世代の人たちを代弁するような経歴です。最近の中国は、消費社会になってきて、経済ばかりが重んじられる社会になっていくという背景がひとつあります。今日の中国社会でモダンな女性、スタイリッシュな女性といわれている女性は、すでに私たちの現実生活の中の中国女性とはかけ離れた存在です。美しくて若い彼女たちが代表するものは私たちの実際の生活にはないものであり、リアルではない存在です。今みんなが興味をもっているのはお金。経済上の成功です。そういう中で経済的に成功した人も、その内面を探ってみると、踏み込めないタブーの領域を心の中に深く抱えています。アメリカのドキュメント・ドラマで“6インチ以下”というのがあったんですが、その中国版の“6ミリ以下”というふうにもいえると思います。

司会:女性たちのクラスというか位置は、かなり富裕でお金持ちの、セレブというか、外国にも行って教養もあって、批判もどんどんできて、自分の言いたいことが言えるような、階級的には上の方たちを設定していらっしゃいますよね。

寧瀛:そうですね。彼女たちはみな中国社会の上層部分、セレブの中に入るんですけれども、彼女たちの背景は、「赤い貴族」と呼ばれている経済的に成功した高級官僚の関係者です。この映画では、そういった表面的には成功しているように見える人たちの、その下にある複雑な内面というものを描いたのです。

観客2(北京語):この映画はすごく素晴らしいけれど、少し難しかったです。最後の三人の状況、ラーラーがどうして狂ってしまったのかというところがよくわかりませんでした。そのあたりを教えていただけないでしょうか。

寧瀛:この映画は非常に象徴的な手法を使っています。ラーラーというこの人物は、物質的な面からはとても遠く、すごく精神世界を重んじるタイプの女性として描いています。そういう人たちは、今の中国社会、物質的なものが重んじられる社会では非常に生きにくいタイプです。狂ったような状態でないとそういう社会で生き抜くことができないのです。
◆私にとって、結末は非常に重要です。そこで私が選択したシーンは、誰も歩いていない、できたばかりの道路です。ここで出したかったのはある種の疑問です。これはいったい私たちがほしい社会なのか。物質がすべてであるのか。昔あった古い家はすっかりなくなってしまい、全部新しい家に変わっているが、私たち中国人がもっていた昔の記憶は、古い家屋が消えるのと一緒に消えてしまったのか。

観客3(日本語):監督は、『北京好日』や『アイラヴ北京』では市井の人々を描いていたと思います。今回は、監督がさきほどおっしゃったように、特権階級と言ったら変ですが上の階級の人々を描いています。今、ラストの見解を監督に述べていただいて、階級は違えども取り上げられている素材は一貫しているのかなと思いました。今後の中国人のアイデンティティというのはどういうものであるべき、というのはちょっと変な言い方なんですが、どうであったらいいとお思いでしょうか。物質的なものに偏って古いものをどんどん壊していったりとか、今までの三作品を観るとちょっと批判的な形で捉えられていると思うんですね。今後中国人のアイデンティティがどういうものであったらいいのかについて、もしお考えがあれば聞かせてください。

寧瀛:中国社会は、この15年来ものすごく急速な変化を遂げています。私はいつも、その時々に一番深く感じたことを映画にしています。一刻一刻変わっていく社会にあって、その時々に感じたものを描こうと思っています。また、中国社会は非常に複雑で、いろいろな階層に分かれているし、とにかく人がものすごく多いですから、その中でいろいろな人が生きているわけです。ですから『北京好日』からこの『無窮動』に至るまで、私の作品の基本的なところは全く変わっていません。基本的なスタイルは、中国が刻々と姿を変えていくその一時一時に合わせて、感じたことを描いていくということです。

観客4(日本語):質問ではなくて悪いんですが、感想だけ。とても面白かった。それから女の正体は食欲と性欲にあるというのが非常に寧瀛さんらしくて素晴らしいと思いました。おかしかった。素晴らしい。

司会:これは中国でも公開はまだだとさきほど伺いましたけれども、いつごろ予定していらっしゃるのでしょうか。

寧瀛:来年の3月8日の婦人デーというのがありますが、その女性の日に合わせて公開する予定です。婦人デーの大きな爆弾になると思います。

司会:寧瀛監督は日本での公開を強く強く希望していらっしゃいます。でき上がったばかりですから、まだ配給が決まっておりませんけれども、劇場関係の方、配給の方、今日ご覧になっていただきました方は、前向きに検討していただければと思います。よろしくお願いします。

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作成日:2005年12月28日(水)