第18回東京国際映画祭

『深海』ティーチ・イン

開催日 2005年10月28日(金)
会場 VIRGIN TOHO CINEMAS 六本木ヒルズ2
ゲスト 鄭文堂(監督)
司会
北京語-英語通訳
英語-日本語通訳 富田香里?


司会(日本語):さっそくみなさんにご挨拶をお願いできますでしょうか。

鄭文堂(北京語):みなさん、観に来ていただいてありがとうございます。二度目の来日ができて非常に嬉しく思っています。

観客1(日本語):とてもすてきな映画をありがとうございました。去年、東京国際映画祭で前の映画を観てとてもよかったので、今回すごく期待していましたが、期待に違わぬとてもすてきな映画でした。質問なんですが、監督は女性をきれいに撮っていて、特にアップのシーンがすてきだと思います。そういったところで何か意識していることや、どうしたら女性がきれいに写るのかについて、監督独自のノウハウがありましたら教えていただければと思います。

鄭文堂:私は監督としてはあまりたいしたことがないと思っていますので、なるべく簡単な方法をとるようにしています。それでクローズアップをよく使います。といいますのは、近づけば近づくほど、その人の内面が見えてくるからです。

観客2(北京語):中国のプレスの者です。主演の蘇慧倫という女優は、もともとアイドルで、歌手としてデビューした方なんですが、彼女を映画に使うということで特別なリクエストなどをしましたか。

鄭文堂:彼女だけではなく、もうひとりの李威もアイドルなんですが、私は映画でアイドルを使うのは初めてです。なので彼らには、自分がアイドルだということ、派手なところを忘れなさいと言いました。特に蘇慧倫にとっては、演技において非常に大きなブレークスルーになったのではないかと思います。しかし、まだここかしこにアイドルとしてのオーラが見えますので、まだ自意識が残っていると思います。これからもっと演技を磨いていけば、もっともっとうまくなると思います。うまくないという意味ではなく、この映画で非常に大きなブレークスルーがあったので、これからは演技において次のステージに移るだろうという意味です。

観客3(英語):映画を非常に楽しみました。脚本を書くプロセスについて伺いたいんですが、何か原作があってそれを脚色したんでしょうか。それともご自分でお書きになったのでしょうか。非常に繊細でデリケートな感覚にあふれている脚本だと思いました。

鄭文堂:自分で脚本を書いたんですが、女友だちとのたくさんの会話にインスパイアされて書きました。どうやら女の人たちというのは、感情的な問題を多く抱えているようです。そういった異性との関係における内的なものを探ろうと思って、この脚本を書きました。

観客4(日本語):こんにちは。来日ありがとうございます。実は私自身、似たような経験があります。私は安姐の立場にあったんですけれども、若い女性の友人がいて、彼女はよくリストカットをしていました。なぜかすごく男性にもてる女性で、この映画の彼女のようにいつも恋に傷ついて、私のところに泣きついてきてはリストカットするという繰り返しでした。この映画を観て、楽しんだというより、自分の経験したことをなぞっているようで非常に辛い部分もありました。今、日本では神経症を患っている若い女性が多いんですが、台湾でもそういうことがあるのでしょうか。また、監督はこの若い女性の精神的な悩みを通して、何を表現したかったのか教えてください。

鄭文堂:台湾でも、神経症の問題は非常に深刻になってきています。そしてまた、男女関係に不安があるという人がすごく多いんです。そういう面も描きたかったのですが、もうひとつ描きたかったのは、女性同士の絆です。男同士のつきあいは、とかく短く、より浅いような感じがするんですが、私のまわりにいる女性の友だちは、みんなすごく長く深いつきあいをしていて、お互いに非常にサポートしあっていると思います。

観客5(日本語):人形劇のシーンで人形を扱っていた男性はどういう人なのでしょうか。

鄭文堂:あの男の子は伝統的な台湾の人形劇団として来るわけですが、あのシーンをこの映画の最後に入れた理由は、女の人たち、特に蘇慧倫は、恋愛のことばかりに気を使っていて、人生がすべて恋愛であるかのような感じを受けます。台湾には、「人生は海のようだ」という諺があります。様々な可能性があるという意味です。それを示したかったので、あの海のシーンを最後に入れ、その諺を思い出させるようにしました。

観客5:彼の病気は演技なんですか。

鄭文堂:彼は自閉症ではありません。非常に上手な人形使いで、とても演技がうまいといっていいと思います。侯孝賢の『戯夢人生』に出てくる人形師・李天祿の弟子です。

観客6:今回のこの映画祭で、中国語圏映画、中国と台湾と香港の映画を拝見しているんですが、台湾映画は特に、音楽が映画の中で占める割合がとても大きいような気がします。この作品でもそれなりのファクターになっていると思いますが、音楽の使い方について伺えればと思います。

鄭文堂:私が自分の映画に音楽をたくさん使う理由は、台湾の音楽産業が非常にしっかりしていて、すばらしい作曲家がたくさんいるからです。この映画に関していえばチャチャなんですが、私はこのチャチャという音楽がすごく好きです。二人がチャチャを踊っているところはすごく美しいし、踊っている二人はどういう関係なんだろうと思わせます。二人でダンスを踊ることで、悲しみだけではなく、喜びや軽妙さなど、いろいろなことを表現できると思います。
◆この作曲家は、撮影現場でいろいろな音楽を流し、この部分にはこれがいいんじゃないかなどといろいろ議論して、音楽を決めていきました。

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作成日:2005年11月4日(金)