Rendez-vous a Lan Kwai Fong

蘭桂坊


蘭桂坊(Lan Kwai Fong)は、中環(Central District)から少し山側に上ったところにある狭い石畳道である。途中で直角に曲がった、全体で100m足らずの通りの両側には、西洋風のレストラン、バー、カフェが建ち並ぶ。ガイドブックなどには、「香港の六本木」だとか「外国人の多いおしゃれな通り」だとか紹介されている。私に言わせれば、高くてまずい店が並ぶ、ただの白人のたまり場である。昼間はともかく、通りいっぱいに白人ばかりが溢れている夜の蘭桂坊は、相当不気味な光景だ。

[蘭桂坊]
◇蘭桂坊 1996年◇
 
しかしこの界隈は、よく映画に出てくる場所でもある。“重慶森林”(『恋する惑星』)と“堕落天使”(『天使の涙』)には、それぞれ数軒の店が登場している。

まず、両方の映画に登場する“Midnight Express”は、ちょうど蘭桂坊が直角に曲がるところに位置する、インド風スナックのテイクアウトの店だ。“重慶森林”では、前半の物語でも後半の物語でも主な舞台のひとつで、ふたつの物語をつなぐ役目も果たしていた。前半の物語では阿武(金城武)がここでしょっちゅう電話をかけている。後半の物語では阿菲(王菲)がここで働いていて、このあたりが管轄である警官633(梁朝偉)と出会う。映画のラストは、改装中の“Midnight Express”で、阿菲ともはや警官ではない警官633とが再会するシーンだが、この改装は実際に行われたものである。そのため、現在の“Midnight Express”は、それまでのシーンで見られる店とは少し様子が異なり、かなり狭く感じる。

[Midnight Express]
◇Midnight Express 1996年◇
 
堕落天使”では、何志武(金城武)が夜中に不法侵入して営業する店のひとつである。二回出てくるのだが、壁のメニューの色が前半では黒なのに、後半では白だった。私が初めて“Midnight Express”を訪ねたのは1995年12月だったが、このときはすでに白になっていた。

店員は、残念ながら“重慶森林”のような強烈な個性のおぢさんやキュートな女の子ではない。ラッシーがHK$15(1995年12月)。

[California]
◇California 1995年◇
 
California”は、徳己立街(D'aguilar St.)から蘭桂坊に入る角にあるバーである。ここは、“重慶森林”で、警官633と阿菲が初めてのデートの待ち合わせをする場所だ。窓に金色で大きく書かれた‘California’の文字を、雨が濡らすシーンが印象的だった。私が初めて“California”に行ったのは“Midnight Express”と同じく1995年12月で、このときはこの文字も健在だった。店内の様子もおそらくそれほど変わってはいなかったと思うのだが、入ってみた印象はちょっと違っていて、映画との対応がうまくとれなかった。その後改装され、窓のデザインも中の様子もすっかり変わってしまった。

[蘭桂坊]
◇蘭桂坊 1996年◇
 
映画を離れたこの店の印象はかなり悪い。客層は白人ばかりではなかったが、バーテンダーは白人で、ギムレットを知らなかった。何度も聞き返した挙げ句に彼が作ってくれたのはウォッカ・ライムで、ウォッカ・ライムを注文したのだと割り切ってみても、ひどくまずい代物だった。ギムレットは、Raymond Chandlerの『長いお別れ(The Long Goodbye)』で有名だが、その中でテリー・レノックスはギムレットの作り方を次のように語っている。

私たちは<ヴィクター>のバーの隅に坐って、ギムレットを飲んだ。「ギムレットの作り方を知らないんだね」と、彼はいった。「ライムかレモンのジュースをジンとまぜて、砂糖とビターを入れれば、ギムレットができると思っている。ほんとのギムレットはジンとローズのライム・ジュースを半分ずつ、ほかには何も入れないんだ。マルティニなんかとてもかなわない」(「長いお別れ」[B211], p25)

夕食後だったのでカクテルを注文したのだが、警官633と同じようにビールを注文して、ビール瓶とお話しするのが正しい選択だったのだろう。ちなみに彼が飲んでいたのは、“SOL”というメキシコ・ビールで、日本ではなかなか手に入らないが、香港ではコンビニでも売っている。

[Jazz Club]
◇Jazz Club 1995年◇
 
このほか、“堕落天使”には、徳己立街にある“D'AGUILAR 26”というバーや、威靈頓街(Wellington St.)と徳己立街の角にあった“許留山”が出てくる。“D'AGUILAR 26”は、何志武とCharlie Yeung(楊采[女尼])が並んで座り、お酒かなにかを飲んでいた店だ。

許留山”は、シャッターが閉まりかけている店の前で何志武がチラシを配っていた店だが、現在は別の店になってしまったらしい。“許留山”はフルーツを使ったデザートのチェーン店で、繁華街にはたいてい一軒はあると思う。安くておいしい、香港に行ったら必ず行くべき店のひとつで、特にマンゴーとタピオカのデザートがおすすめだ。

このふたつの映画以外では、“辣手神探”(『ハードボイルド-新・男たちの挽歌』)で、呉宇森がマスターをしていたジャズクラブは、徳己立街にある“Jazz Club”である。以前に一度行ったことがあるが、演奏が始まるまでにあまりに時間があったので、ビール一本でねばった挙げ句、演奏は聞かずに帰ってきた。いつかもう一度行ってみたいとは思っているが、わざわざ香港でジャズを聴こうというモチベーションもないので、なかなか実現できずにいる。

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作成日: 1999年3月7日(日)