重慶大厦でつかまえて

重慶大厦


尖沙咀(Tsim Sha Tsui)は、九龍半島の中心地であり、香港の表玄関であり、観光の街である。そのため、半島酒店(Peninsula)のような超高級酒店から、小さな招待所、賓館まで、種々雑多な数多くのホテルが立ち並んでいる。

[重慶大厦]
◇重慶大厦 1995年◇
 
彌敦道(Nathan Rd.)沿いにある重慶大厦(Chungking Mansion)は、そんな招待所や賓館が集まっている雑居ビルである。安宿街としてバックパッカーには有名だ。長期滞在している多くのインド人やアラブ人がかもし出す多国籍な雰囲気や、内部の構造の複雑さなどから、麻薬密輸などの犯罪が行われているといった噂が囁かれ、「ポスト九龍城砦」などとも呼ばれているらしい。

そんな重慶大厦の怪しげなイメージを、そのまま映画にしてみせたのが“重慶森林”(『恋する惑星』)である。ふたつの物語からなるこの映画の、ひとつめの物語の主な舞台がここだ。林青霞扮する謎の女は、金髪のかつら、レインコート、サングラスという扮装に身を包み、重慶大厦に住むインド人たちを使って麻薬密輸を準備している。金城武扮する阿武は、重慶大厦あたりを管轄とする刑事だ。

[重慶大厦内部]
◇重慶大厦地下 1998年◇
 
重慶大厦の地下(グランドフロア)と一樓は商店街。土産物屋、鞄屋、果物屋、お菓子屋、ヴィデオ屋、エロ本屋、食堂、両替屋など、小さなお店がごちゃごちゃと並ぶ。売られているものも売っている人も印度系が多く、リトル・インディアといった様相を呈している。

“重慶森林”では、重慶大厦の中を自由自在に動き回る金髪女や阿武とともに、いろんな場所が画面に登場する。特に地下の商店街はたくさん出てくる。路地のような狭い入口の奥にある果物屋通路エレヴェータ正面入口……。しかし彼らは、犯人を追いかけていたり、インド人に追われていたりして常に急ぎ足であり、また無許可で隠し撮りをしていることもあって、出てくる場所はわかりにくい。

何だかよくわからない商品、外とは異なる民族構成、人口密度の高さとそれに伴う熱気。怪しい雰囲気が漂うこの商店街が、私はかなり気に入っている。インド料理が安く食べられるのも嬉しい。二樓から上にはゲストハウスがたくさんあり、それに混じって食堂や縫製工場などもあるらしい。一樓までのようにオープンな場所ではなく、階段は薄暗く、エレヴェータはいつも満員で、用がなければ行きにくい。

[重慶大厦入口]
◇重慶大厦入口 1995年◇
 
ここにあるゲストハウスの中で最も有名なのは、A座四-五樓にある重慶招待所(Chungking House)だ。ここは、“重慶森林”で金髪女が滞在しているゲストハウスで、四樓の入口にある“Chung King House”という赤い看板と部屋の中がちょっとだけ登場している。

ここがもっと本格的に出てくるのが“堕落天使”(『天使の涙』)だ。金城武扮する何志武のお父さんがここの管理人であり、彼もお父さんと一緒にここに住んでいる。また、李嘉欣扮する殺し屋のエージェントもここに住んでいて、このゲストハウスは映画の主要な舞台の一つになっている。お父さんを演じている陳萬雷は、実際にこのゲストハウスで働いている人だ。今回はちゃんと許可を得て撮影していることもあり、ロビーとかランドリーとか室内とか、いろんなところがたくさん出てくる。また、“甜蜜蜜”(『ラヴソング』)で、黎小軍(黎明)と李翹(張曼玉)が通うラヴホテルもここらしい。

このゲストハウスには、まだ入ったことがない。次に香港に行ったらぜひ泊まりたいといつも思っているのだが、いろいろな事情で今までのところ別のホテルに泊まっている。

[重慶大厦]
◇重慶大厦 1995年◇
 
重慶大厦は、A座からE座までの五つのビルで構成されている。その様子は、“重慶森林”のメインタイトル直後に、ビル群の背景に雲が流れるシーンで観ることができる。重慶招待所を見に行った帰りに階段を降りていると、三樓あたりに、他のビルとの間の屋上のようなところに出られるドアがあった。外に出ると、ゴミが溜まり、洗濯物が干された異様な雰囲気の場所だったが、映画で観たあの景色を望むことができた。

重慶大厦の怪しい雰囲気を味わいたいが、宿泊はしたくない。でも商店街を歩くだけではつまらない。そんなふうに思っている人は多いのではないだろうか。そういう場合は、食事をするのがおすすめだ。二樓以上にある店に行くのが通だと思うが、最初は一樓の商店街にある店がいいだろう。ここでは、私が行ったことのある、Sher-E-Punjab Fast Food、Nepal Fast Food、SWAGATを紹介する。

Sher-E-Punjab Fast FoodNepal Fast Food(尼泊爾快餐店)は、店名にfast foodとあるように、テイクアウトもできる小さな店だ。どちらも廊下に並べられた簡素なテーブルで食べる。涼しい屋外ではなく、むさくるしい重慶大厦の廊下ではあるが、ちょっとしたオープンエアのカフェ気分で楽しい。客はほとんどインド系(インド、パキスタン、バングラデシュ、ネパールなど)。客以外にも入れ替わり人がやってきては、店の人と大袈裟な身ぶりで挨拶したり、集まって雑談したりしている。

Sher-E-Punjab Fast Foodは、1996年にチキン・マサラ、チキン・ヴィンダルー、チャイ、ナン、チャパティでHK$78(2人分、以下同じ)だった。このときはかなり美味しかったように記憶していたのだが、味が落ちたのか、あるいは期待が大きすぎたのか、1998年に再び行ったときにはいまひとつだった。このときはたぶんもう少し多く食べてHK$94。ここがいまいちだったので、翌日、同じ廊下に面したNepal Fast Foodに行ってみた。食べたものの詳細は忘れたがHK$111で、こちらはなかなか美味しかった。

SWAGATはこれらの店とは違ってドアのあるちゃんとしたレストランで、重慶大厦一高級といわれている。気になったのは、西洋人と香港人と私たち日本人だけで、インド人客がいなかったことだ。途中で一組のインド人家族がやっては来たのだが、なぜか注文する前に帰ってしまった。チキン・マサラ、アルゴビ、ナン、チャイでHK$204と値段も高級(1996年)。チャイがポットで来るのが嬉しく、味も悪くはなかったが、他の店の2、3倍払う価値はないと思う。そんなわけで、今のところ私のおすすめはNepal Fast Foodである。

[美麗都大厦]
◇美麗都大厦 1995年◇
 
同じく彌敦道沿いにある美麗都大厦(Mirador Mansion)もまた、ゲストハウスが集まる雑居ビルで、「第二の重慶大厦」とも呼ばれている。部屋のレベルは重慶大厦と似たりよったりということだが、中庭を囲んで部屋が並ぶパリのような構造の建物は、重慶大厦より雰囲気がよく、そのぶん怪しさは少ない。

このビルで最も有名なゲストハウスは、三樓にあるGarden Hostelだ。ここは、金髪女が、裏切ったインド人を探しに行くゲストハウスとして“重慶森林”に登場する。金髪女が歩きまわったり逃げたりするところは、どこまでが重慶大厦でどこからが美麗都大厦なのかよくわからないが、彼女が壁にもたれて煙草を吸う場所がGarden Hostelの前だ。映画では、“Garden Hostel”のレトロな看板と林青霞のけだるい感じとが、独特の雰囲気をかもし出していた。しかし、この看板は、新しい味気ないものに変わっている。

重慶大厦や美麗都大厦に行くとき、気をつけなければならないのは客引きである。昼はほとんど問題ないが、夕方はたいへんだ。SWAGATに夕食を食べに行ったときは、重慶大厦の入口を入った途端、大勢の客引きに囲まれてしまった。ほとんどはゲストハウスの客引きなので、無関心でいれば自然にいなくなる。しかしレストランの客引きが2人いて、彼らはしつこかった。一樓に上がるときに地下の店の客引きを振り払ったが、もうひとりは二樓より上の店らしく、一樓に着くと階段の方へ引っ張って行こうとする。「二樓より上の店」には興味津々なのだが、客引きにつかまって行くのは嫌である。また彼の見ている前で「高級店」に入るのもなんだか嫌だ。そんなわけで、一樓をひとまわりして彼をまいた。夕方に行く場合には、正面入口を避けて入ったほうがいいようだ。

ところで、旅行者や外国人をきちんと見分けて客引きをしているのだろうか。気になったので、SWAGATで隣の席にいた香港人のテーブルを覗いてみると、押し付けられたらしいゲストハウスのカードがたくさん置かれていた。

重慶大厦に関する文献 ■ ↑As Films Go By -香港篇-に戻る ■


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更新日: 1999年3月27日(土)